工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

キャリア職人って?(その2)

この時間帯(19日21時)台風4号(グチョル)が工房の上空を通過中。
突風がゴゥゴゥと気味の悪いうなり声を上げ、窓を叩く雨音は強力な台風ならではのけたたましさだ。

午後は少し離れたところにある天乾中の材木置き場、“土場”に出向きそれぞれの屋根の確認、補強作業に追われ、戻ってきてからは、機械の定盤という定盤を合板や布団で覆う作業に追われた。結露によるサビ発生への予防だね。

そんなこんなで慌ただしい台風対策だったが、仕事の方は淡々と進み、気分は悪くない。

2個所での修行体験

さて、前回のエントリ記事では、仕口における共用、統一化などについて触れ、そうしたアプローチが重要で、キャリア職人とはそのような職能を備えている人であるという話しだった。


少しく、卑近な事例からこれを補強してみようと思う。
ボクは松本民藝家具の木工所で世話になった後、独立するまでの間、あるキャリアの職人の下で修行させていただく機会を持った。

そこであらためて確認させられたことがある。
松本民藝家具で仕込まれた木工へのアプローチ、構造の考え方から、仕口にいたるまで、ほぼ同一の思考でこの新たな職場に順応することができたことである。

右も左も分からない駆け出しの職人にとり、わずかの期間とはいえ一地方での木工の基礎的技法の習得がはたしてどこまでユニバーサルに通用するのかという不安と懸念は、いつも頭から離れること無くついてまわるものだった。
しかし未熟者のそうした予測は裏切られ、木工加工における主要なところにおいてはほぼ同様のアプローチで臨むことができたのだった。

松本民藝家具の技法のスタイルは、制作する商品ラインナップの主要な部分が、いわゆる西欧にルーツを持つ“洋家具”にありながらも、技法スタイルということでは、日本の伝統的木工のそれに置いていることは良く知られている通りだ。

一方のボクが世話になった親方は横浜洋家具の系譜を辿る木工所の出なのだが、この両者がほぼ似たようなアプローチ、技法体系を持っていることに、あらためて驚かされたものだった。

無論、細部においては様々な違いがあるのだが、それは各々の製作対象の差異や、加工プロセスにおける機械活用の違いなどから説明できるものであり、本質的な部分での違いは無いと言っても良いほどのものだった。

松本では、ルーター盤、高速面取盤などはほとんど使われていないのに対し、横浜クラシック家具出身の親方はルーター盤の名手だった。
サンディングマシーンも松本ではほとんど使われていないのだが、これはかなり異端と言えるだろう。ここではその是非は問わないでおく

つまりボクは日本の伝統的木工技法のスタイルのところから、洋家具の職人のところに転職したはずが、ほとんど違和感が無く、新しい世界に入ることができたということで、ありがたくも、自信を持って修業時代を過ごすことができた。
こうして日々の仕事を通しての修行は、未熟者であるための親方からの厳しい眼差しを受けながら、いくつものデータ増強と更新を重ねるものとなり、強力なマシンへと変貌していく。
いやいや、強靱な家具職人へと変身していった。

ともかくも、ひたすら仕事に打ち込むこと

現在のボクの仕事のスタイルの主要なところは、そこで習得したものがベースとなり、そこにいくつもの補助的なもの、時には過剰なものなども付け加わっているということだろう。
あるいは、こうして複数のスタイルに触れることで、より幅広いものが備わってきたとも言え、シアワセな修業時代であったと言える。

その後、右肩上がりの日本経済という1980年代半ばに独立をしたことも幸いしたのだが、日々すさまじいまでの仕事量をこなし、自分で評価するのも勝手なものだが、その仕事の質は数年でみるみる上達していき、疲労困憊の日々でありながらも、家具職人としての原像をかたち作るにもっとも充実した時期だった。(絶対的物量というものは、いずれは質へと転換する)

懐古的に昔話をしているように思われるかも知れないが、ここでは2つのことを語りたいのである。

日本の木工技法というものは世界に誇るべきものがあることはあらためて語ることも無いが、しかしこれを習得するには、そうしたものを体現しているところを選択的に選び出し、門を叩くこと。
どこでも良いわけでは無く、決して多くは無いかも知れないが、先輩筋や、信頼のおける関係者に教えを請い、良い修行の場を抽出することが必要。

そして、鍛錬の日々を自らに課し、たくさんの仕事をし、上腕をそれにふさわしい筋肉に鍛え上げることだ。
いやいや、そうではなく、木工技法の習得を軸として、幅広いユニバーサルな木工職人として腕と脳を鍛え上げていくことだ。
まずは脇目もふらずただひたすら我が道を信じ勇気を持って打ち込むこと。

hr

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  •  なるほど確かに、artisanの辿った道同様、日本の木工技術には洋の東西を問わず技を吸収し磨く地味なグローバリズムが存在しているように感じます。杣工房先代は独特な知りたがり屋魂で木工技術の変遷や外国との繋がりなどを調べていたようですが、よく弟子達には「zig」と「治具」を例えに出してそんな話をしていました。これからも期待大としたいものです。とりあえず僕はフェスツール導入を考えています(遅っ)。

    • >日本の木工技術には洋の東西を問わず技を吸収し磨く地味なグローバリズムが存在
      なるほど、そうした見方もできますよね。
      これは今に始まったわけでもなく、工芸でも建築でも、日本では古来からそうした東西の文化交流は盛んでしたからね。
      正倉院の宝物は、ほとんどそうした成果。

      >杣工房先代は独特な知りたがり屋魂で木工技術の変遷や外国との繋がりなどを調べていた
      そうですか、進取の精神が旺盛であったのですね。(‥‥ ≒Beatle)

      >フェスツール導入
      いくつかのカテゴリーがありますが、New machineのDomino XLは建築分野からの開発要請によるものでしょうからね。
      すばらしいマシンだと思います。

  • アマチュアの出番は無さそうですが、フェスツールの話が出たので
    最近の出来事を一つ。
    私の工房のある八街市内で、主にフラッシュを使った店舗什器を
    作られている方が時々私の工房を訪ねてきます。

    やっと子供の手も離れたので、自分の作りたい物を作ってみたい
    という話でした。
    先日も私がドミノを所有しているのを知り、使ってみたいと訪ねて
    来ました。
    椅子を作るのに傾斜ホゾに使いたいということでしたが、そのタイトな
    嵌め合いには驚いていました。

    ちょうど私が傾斜ホゾのあるデスクを制作中でしたが、どうしてドミノを使わないの?、という質問がありました。
    ちょっと答えに窮しました。
    実際、ドミノはほとんど使っていなのです。
    アマチュアだから時間と手間が掛かっても良いのです。
    というのはひとつの答えだと思います。

    ただ、アマチュアがドミノを使い始めると、ドミノを
    使える物しか作らない、ということになるのでしょうね。
    逆にプロがドミノだけで椅子を作る、これもありでしょうか?
    ドミノを使って、制作の巾を広げる方法を考えてみようかな、
    なんて思った出来事でした。

    • acanthogobiusさん、Dominoの活用についてのお話し、ありがとうございます。
      実は、私のDominoの活用状況もacanthogobiusさんとほぼ同じようなもの。

      かなり特殊なケースにおいて、Dominoならではの特異な性能を用います。
      (例えば、こちらとか、こちら

      >アマチュアがドミノを使い始めると、ドミノを使える物しか作らない
      アマチュアというのも、様々なスタイルがあるので一概には言えませんが
      そうしたこともあるでしょうね。

      個人的に意見を求められるとすれば、やはりDominoの前に丸鋸傾斜盤、
      および角ノミ盤(or Bench Mortiser)を薦めるでしょう。
      つまりあくまでも特殊なホゾ、あるいは現場作業での活用ですね。

      ただやはり簡便にホゾを作れるということは、アマチュアには、Domino以前には考えられなかった革新的なマシンとして迎え入れられているはずです。
      私も、その点での評価は惜しみなく最高のものを与えるでしょう。

      ところで、
      >タイトな嵌め合い
      ですが、これは私も強調したいところですね。
      FESTOOL社の販促動画を視ていると、あまりにも緩く填まるように思ってしまいがちですが
      あれは困ったものです。
      実に高精度な設定が可能で、高度な嵌め合いを獲得できます。

      ホントに道具というのは、使い方一つでその効用は様々な評価があり得ますし、
      また制作するものにも、加工プロセスのみならず、デザインなどにも影響しますね。

      ぜひacanthogobiusさんには、新たな活用方を産み出してもらいたいものです。

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