工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

木取りへ(その2)

今日は木取りの方法、そこで求められる考え方について少し記述してみようと思う。
木取りについて語ろうとする時、様々な角度から論ずることができるし、またそれぞれ考え方も一様ではなく、その工場、工房における制作スタイル、そのめざす品質において異なってくるだろうから、自らの基準を定め、これに準じて行えば良いだろう。
したがってこれから少し紹介しようとするうちの木取りの方法がどれだけ参考になるかは、それぞれが置かれた環境、あるいは考え方次第だが、一定の有効性を認めることができるならば嬉しく思う。
なおこれはO氏も語っているように職業とする木工の現場でのことであり、生産性、コスト意識というものが考え方における重要な要素となっていることはあらかじめ確認しておきたい。
つまりアマチュアの領域で家具制作される方にそのまま援用できるものではないかもしれないし、また逆に工藝品を対象とする場合には、また異なった考え方に準じるということもあるだろう。
なお木取りというものが加工工程においてどのような位置づけがされるものなのかについては次のような事例をあげれば理解していただけるだろうか。
一般に工場などの中規模、大規模の木工所での木取りに従事する職人は、工場長、親方などといった熟練した職人、あるいは経営側に属する人が担うということが多い。
つまりこれは言うまでもなく、木取りというものが、制作される家具の品質、および生産価格に大きく影響してくることによる。
それだけ木取りという工程が重要だということだ。


【キャビネットの木取り】
さてまずはじめに、キャビネット、つまり箱物の場合について記述していく。
キャビネットといっても、その形態も様々で、大きくは框もの、板差し、の2つに分類できるが、必要に応じてそれぞれ触れていく。
まず框ものの場合であるが、やはり柱の木取りを優先することは言うまでもない。
一般には見付け側に柾目の通った綺麗な部材を持ってきたい。
さらには左右の木目を対象形にすることができればなお良いだろう。
この場合、ある与えられた1枚の平板から柾目、あるいは板目、いずれも木目のタケノコ状の中央部から左右対象に取ることができれば最も自然な木取りとなり、かつ簡単な方法でもある。
また、後ろの柱も、そのキャビネットの設置場所によっては、見付け側同様、高品質な木取りをしなければならないこともあるかもしれない。
さらには、見込み側(帆立、側板)においても、前後の柱も可能な限りにおいて自然な配置にすることを心がけたい。
もとより100%の正解というものは現実的には困難なことであるが、しかし量産家具と異なる、我々の家具制作というものは、まずはこうしたところから始まるのだという強い自覚というものが求められるのだと言うことは忘れたくない。
これをさらに膨らませるならば、キャビネット制作も1本より2本、さらには5本、10本、と複数で制作することの方が、木取りにおいても、より高品質なものが可能となることは言うまでもない。
言い換えれば、1本だけの特注家具のようなものの場合、木取りにおいては、実はとても困難な道を強いられてしまうということになる。
対し、複数本の場合、それぞれの部材に選択肢が増え、個性のある有機素材をより有効に使うことができるというものだ。
さて柱の次は支輪、台輪ということになるだろうか。
一般には支輪には辺材(柾目)を持ってきて、台輪には心材(板目)を持ってくるのが自然だろう。
よく目立つ箇所なので、良い木取りをしたいものだ。
次は棚口
ここはやはり抽斗が納まったり扉が取り付くところで経年変化を嫌う場所。したがって目の通った素性の良いもので、見付け側に柾目を持ってきたい。
さらにはまた上から順番に木目と材色が違和感がないように配置したい。
次は帆立側、柱は先述したので、横框について。
これも上に辺材(柾目、追柾)を、下には心材(板目)を、特段意図するものがなければ一般には左から右に木目が流れるように、つまり木上が右側だ。
これも1枚の板から小割りして配置できれば、なお良い品質になることは言うまでもない。

少し余談めく話しだが、この一枚の板から、という言い方は実はとても微妙で、決して安易にそうしたことができるものではない。
そうした幅広の板の小割りというものは、本来幅いっぱい歩留まり良く使いたいところであり、小割りするという贅沢さを選択するということは、勇気と決断を伴うものとなる。

外側の主要部分はおおよそそういったところか。
おっと、鏡板があった。
これはそれにふさわしい中杢のような綺麗な木目のものを持ってきたいが、逆に板目ではなく、柾目を数枚矧いで構成する、ということもあるだろう。
この場合、完全に矧ぐのではなく、本核(ほんざね)で構成するのも良いかも知れない。それぞれの木端(こば)には糸面を取って。
ところで扉、引き戸もここで触れておきたい。
一般にはこれらは無垢の場合、框の構成になるが、
縦框には柾目、横は上を辺材(柾目、追い柾)、下は心材(板目)というのが一般的であろうか。
それらも複数枚の場合、並べて可能なかぎりに自然に配置することが望ましい。
縦框には柾目というのは、建具であるので反りへの耐性を考慮してのもの。シンプルな2次元の構成の建具は反りやすいので、框の主要部分は柾目が望ましい。
また横桟は複数本の全てを加算した長さで木取り、これを切り分けることで、木目を流れるように配慮することは言うまでもない。
こうした複数本分をあらかじめ1本のもので木取っておくということは、全ての領域で有効と考えられので、常にそうした配慮は忘れたくない。
さて、O氏も書いているように、少し問題のある材質、例えばアテ、端節(はぶし)、白太が残る、色が変色している、などといったところの材は内部の見えないところ、裏側などに使う、といったことになるのだが、この場合も、最も適したところに使ってやりたいもの。
例えば内部だからと言って、抽斗の摺り桟に板目の反りやすいようなところを使うのは御法度だし、その材の経年変化を想定した上での用途を考えてやらねばならない。
今日はこのあたりで終えたいと思う。
次回は抽斗の木取りなどにも及んでいきたいと考えている。
ご意見、質問などあればコメントへ。

*お詫び
こうした解説は、文章だけでは判りにくい。図示するなどして判りやすさを追求すべきところだが、Blogという性格上、あるいはボクの処理能力の制約上、だらだらと記述することになってしまっている。
いずれ機会があればそのようなことも含め、整理して再記述してみたいものだ。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • こんにちは、
    すみません、教えて下さい。
    框組の桟のことですが、上桟は辺材で柾目、下桟は心材で板目が一般的と書かれていますが、その根拠は何でしょうか?心材と辺材では色も違うし、また柾目と板目と言ったら全く見た目の感じも違うのに、敢えてそれを一般的と言わしめる根拠が判りません。

  • 松本さん、来訪、コメントありがとうございます。
    ご質問内容も記述の不十分さを補うものでもありますのでありがたく思います。
    ‥‥とは申しましても困りましたね。(苦笑)
    >一般的と記述した根拠
    ですか。
    果たして“根拠”と言えるものかどうかはともかくも、
    かつて修行した2つのところで、親方、兄弟子からそのように教えられた(地域も、制作スタイルも異なる2個所の木工所)と言う他ありませんが、それでは答え、あるいは“根拠”にはならないでしょうから、あえて以下のように解説することにしましょう。
    ・古来から日本では(日本という限定を付けるのが適正かどうかも疑義がありますが)、板というものを目にしたとき、木目をいわゆる「逆さ木」(木元を上に木末を下に)にすることを嫌い、上下を決めてきた、という長い文化的、美的、歴史的経緯があっただろうことはご理解いただけるものと思います。
    ・これはつまり、大自然における一般的な有り様(植物などの成長などにも見られる法則)への普遍的な認識ということに繋がる概念であるかもしれません。
    ・平たく言えば、納まりがよい、ということですね。
    ・あるいは家具の構成において、例えば見付側の1つの抽斗の木目の配置を考えてみましょう。板目(心材)側を上に、柾目(辺材)を下に、ということは特段意図しない限り、やはり違和感を感じるというのが一般的な認識であることはご理解いただけるものと思います。やはり心材側を下にして、はじめて落ち着いた納まりになるものです。
    ・心材(板目)は重厚感があり、辺材(柾目)は軽快に感じる(感じだけではなく、事実、単位重量は違いますね)ところから、全体的構成において、床に近い方を重量感のある板目を配置し、上は軽快に、というのが納まりがよいものです。
    ・この場合の框の横桟においても、同様の概念を援用すると言うことが通例となっていて、これがつまり「一般的」という認識で表現したわけですね。
    帆立側の横框、貫、および鏡板、あるいは板差しの側板、これらを全て同じような木目で揃えるというのも1つの考え方ですが、無垢である場合、なかなかそれは困難なことですし、あえてそうしたことをする必要もありません。
    やはり木末を上に、木元を下に、グラデーションを付けながら配置すると言うことで、それ自身合理的で美しい納まりになるという考え方をとりたいと考えますね。
    ま、しかしこれもあくまでも様々な考え方の中の1つの基準でしかないと言うことは自明ですし、私自身自覚していることは、本文冒頭に記述した通りです。
    あまり適切な答えになっていないかもしれませんが、どなたか、もっと明確な回答を持っていらっしゃる方がいれば続いてコメントいただければうれしいな。

  • 早速のお答えありあがとございました。失礼ながら、確かに心から納得できるご説明で無かったと感じておりますが、最後の様々な考え方の一つの基準と言うことには非常に納得できます。訓練校では建具を長年やられてきた先生だったので、いずれも見附には柾目を持っていくと言うことしか習っていませんでしたので、エントリの内容が非常に新鮮で質問させてもらいました。
    この先該当作品を作られた場合は、具体的に写真等で見せていただければ幸いです。

  • 松本さん、
    納得していただけなかったのは残念ですね。
    これは私の考え方にどこか問題があるのか、あるいは記述能力の方に問題があるのか、その両方か。
    いずれにしても申し訳なく思います。
    ただ、1つの家具を制作するに当たって、全て柾目で統一するということは現実的には困難なことですし、また必ずしもそれが普遍性を有するというものでもありませんね。
    所与の条件の下で如何に良質の木取りをするのか、という観点から考えてみたいと思います。
    このシリーズ、これからも手厳しいコメント待っています。

  • お邪魔します。
    すみません、納得できなかったのは以下の理由からです。
    当然最初に書かれていた縦框については、元々木が立っていた状態に使えという基本的なことなので、全く意義はありません。問題は桟の件ですが、いくら目の繊維方向に伸縮が少ないといっても木には経年変化で必ず伸縮が発生してきます。ですから似たような木目や材質を使ってこの伸縮を無視できるような使い方をするのが最適と常に思っていますが、今回の一般的と言われている内容が、いくら框組だから特性の影響が少ないからといっても、同じ横桟であることを考えれば、少しでも同じ材料や木目で合わせるのが妥当ではないかと思っております。もちろん、全て柾目であわせると言う意味ではありません。
    柾目と板目、辺材と心材、全く特性が違うように思われます。この特性の違いが框組の場合は構造上無視してよいんだよ、と言うことなら話は別です。確かに見た目の納まりと言う意味もわかりますが、それ以上に木の特性を知り、如何に経年変化でのあばれを無視させられる構造にするかと言うことの方が大事な気がしました。

  • 再度のコメントありがとうございます。
    框組におけるあらたな見識を披露していただけました。
    十分に理解したわけではありませんが、1つの框を構成する場合、横框に柾目を使うのであれば、他も同じ柾目で、板目を使うときは同じ板目で、という原理原則に則った考え方のようですね。
    1つの立派な見識であろうと思います。
    それには異論は挟もうとは思いません。
    本件エントリの冒頭に述べたようにそれぞれの基準があれば良いという考えですので。
    どうも問題は、そうした原理原則の立場と、うちのような現実的、合理的思考が要求される家具制作の現場における立場の相違というものが介在していることでの齟齬であるのかもしれませんね。
    つまり家具制作という社会的需要を前提としたもの作りとは、必ずしも原理原則に制約された絶対的基準において制作されねばならないというものではなく、構造的堅牢性と合理性、美質の高さと、制作費用、様々な要素においての総合的な水準が求められるところからの手法の選択であるように考えて良いのではありませんか。
    堅牢性を堅実に追求するという手法も家具という調度品にとっては大事な要素ですが、これは現実に与えられた材木市況から如何に有効に合目的に木取りをして、木工技法を駆使しつつ、高品質な家具を提供するということの重要性の中に包摂されるものであろうと思いますね。
    1枚の板には柾目があり、板目があります。それらの特性を活かしつつ、有効に、かつ合理的に使い切っていくという考え方に立ちたいと思います。
    いやむしろ美的観点からの適材適所という考え方で柾目、板目の配置もあり得て良いのです。
    また柾目、板目のこの部分での物理的特性の差異は家具制作においては決して仰るほど絶対的なものではなく、相対的なものでしかありません(過度にこれを主張するというのは如何でしょうか)。
    事実、ボクは20数年、この手法で箱物を制作してきていますが、そうした部分でのクレームをいただくことは皆無ですし、自家消費のものを確認しましても、制作当時の姿を止め、機能障害、欠陥などを探すことはできません。
    高品質な家具を作る多くの無垢材箱物制作者も同様だろうと思われます。
    確かにこうした手法で制作すると微細なレベルでの歪みが出ることを否定するものではありませんよ。しかしそれは実際上の機能、構造上の欠陥というレベルでの問題にはならないという知見、経験則があります。
    卑近なものですが、1つ具体的事例を挙げてみます。
    本稿で記述したボクのソファの背板の数10枚の束を柾目で全て統一したというのは、決して反りを避けたのではなく、むしろ見栄え、美しさ、統一感としての美質を生かしたに過ぎません。
    因みにこの背板、上桟は柾目です。松本さんの見識ではこの場合下桟には当然にも柾目を使わなければならないところなのかもしれませんが、ボクは同じ1枚の板から小割りして木取りしましたので、下桟にはあえて板目を使っています(まず2枚分の幅の素直な木目のものを選択し、これを2つ割りし、片方が柾目、もう片方が板目になりまして、柾目を上桟にに、板目を下桟にに使ったということですね)。
    しかしボクはこうした木取りを何も隠そうとしませんし、恥じるものとは考えていません。
    なおこれは決してボクの固有のやり方ではなく、ごくありふれた一般的な木取りの手法と考えて良いでしょう。
    これはまだ制作したばかりのものですが、今後長年にわたって日本の四季の環境変化にも耐えて支障なく快適に使い続けていくものと考えています。
    家具制作の現場とは、このように木の特性をベースとしながらも、制作経費をも考慮しつつ、より美しく高品質なものを常に追求しているのです。
    家具制作の現場で苦労されていらっしゃる方々に向けて、今回のような「木取り」の論考が少しでも参考になればと考えています。
    コメント欄としては不適切なまでに冗長になりましたこと詫びねばなりません。
    ご意見、ご感想がありましたらどなたでもどうぞお気軽に投稿してください。

  • こんばんは、
    長いだけあって納得できました(笑)。
    と言うのも、長年やってこられた実績が一番重たいと言うことは判っていますので、まさにその判断が間違っていいなかった事を上のコメントで証明して下さいました。というのも、私は木工に関しては趣味でしかも現在は韓国に普通のサラリーマンとして勤めていますので、家具に関しては全く実績はありません。単に頭の中での思いを書いていますので、その分実績をより重たく感じております。
    ところで例として挙げられたソファですが、どこかで見た記憶があるのですが、もし可能なら背板10枚の所を上下の桟を含めて画像を見せて頂ければ嬉しいです。URLでも結構です。
    今回はお付き合いありがとうございました。

  • 松本さん、これから本格的に家具制作を行おうという方のようですね。
    現場では様々な条件、制約の中で木取りの苦労もあろうと思いますが、重要なことはご自身の原則を忘れずに、経験を蓄積する中でより洗練された手法を編み出すことだろうと思います。がんばってください。
    公開されている画像としては、2Pのソファのものですが、以下になります。
    http://www.koubou-yuh.com/gallery/chair18.sofa2p.html
    数回にわたるコメントでのご意見の開陳ありがたく思いました。

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