工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

木取り(その3)

木取りを材料という見地から考えてみようと思う。
どういうことかと言うと、木取りというものは当然にも与えられた木材によって大きく規定付けられてしまうことはお分かりいただけると思うが、この木材の獲得というものを木取りの観点から考えようというものである。
ボクもそのうちの一人だが、多くの木工家、木工職人が原木を探し求め、これを自ら立ち会いの下で製材する際には、高揚感もあるとはいえ、むしろ強い緊張感に包まれることの方が大きいかも知れない。
これは数年後に制作する家具の部材として、どこにどのように用いるのかをあらかじめ想定して臨むことはもちろんのこと、しかし実際に帯ノコを入れてみなくては、その木理、欠陥などは読み切れず、したがって現場で求められるのは瞬時の判断と、洞察力ということになる。
仕事の現場というものは、リズムが無いとイケナイ。
製材機の動き、製材の親方の操作のリズムに合わせて、うなりを上げる製材機の大音響の中、手指で厚みを指示していく。
無論、家具制作において求められる一般的な材料の規格に準じて製材することも多いのだが、しかし時には具体的な固有の家具を想定したところで、ここは1.5寸の厚みで2尺の幅は欲しい、とか、6分の厚みの鏡板を柾目で獲っておきたい、とか、とりあえずフリッチ状に4寸の厚みで柾目で獲っておく、といった製材屋泣かせのことをするということもあるだろう。
つまりこの時点で既に木取りの工程に入っているのである。
ボクがブラックウォールナットの大きなテーブルを作るとき、その脚部には3.5寸ほどの厚み(≒105mm)のものを使用するというのも、そうした想定での製材をしているからに他ならない。
市場でこうしたものをスポット的に求めるのは、適わない相談だからだ。
これは単に板厚の問題だけに留まるものではない。
以前にもソファの時に記述したことだが、背の枠の数10本の格子、断面サイズは24×42mm、これを全て柾目で統一している。
これは幅広で1.6寸ほどの板目を割いていって獲ったものだ。
つまり断面が綺麗な柾目になるような目通りの良い幅広の板目の材であったから可能となったもので、柾目材から獲ろうとしても意外と歩留まりが悪く、結果、木理も揃わなければ、材色も揃わない、という結果を招くかもしれない。
この場合あえて板目を割くことで望む柾目を大量に獲るというのが、賢明な職人の方法となる。
前回も述べたことだが、扉、引き戸の框の柾目の板なども、こうした手法で獲るというのが賢明な方法となる。
これは杢板の場合にも同様なことが言える。
杢板というものは、板面に出ていれば、その紋様は異なった表情を見せるのは当然だが、断面にも出るというのが木という素材の持つ魅力であり、どちらを選ぶのかという楽しみでもある。
つまり何でもかんでも、板厚から始めるのではなく、幅の寸法の方から適切な材を探してくると言う方法もあるのだということは知っておきたい。
また同じようなことであるが、例えば椅子の貫のような細い部材の場合、これもまず幅の方から、あらかじめ材の厚み決め(プレナー加工)をした後に、薄く割いていき、この残り2方をプレナーで決める、というプロセスを取ると言うことも頻繁に行われることは知っての通りだ。
これはそれだけ作業性が良く、生産性もかなり高くなるということに繋がるだろう。
ただ注意したいのは、材内部の含水率の傾斜が無いと言うことを前提とするので、状態によっては適合しない場合もある。

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