木取り(その4)
キャビネットから始めた木取りについての話しだが、1つ大事なことが残っている。
抽出の木取りである。
箪笥であったり、飾り棚であったり、キャビネット(箱物)のその多くには抽出が主要なものとして付属する。
この抽出の木取りは前板においてはキャビネットの見付、正面の表情を大きく決定づける要素であるし、またその側板は、出し入れの機能部分の性能に大きく影響するものであり、一定の基準において木取ることで機能障害に陥らないようにしたい。
さてまず前板だが、この木取りのプロセスには様々な考え方があり、確固たるものがあるとは言えず、あまり深く立ち入らない方が良いと思われるので簡単に済ますこととする。
ただ上述したようにそのキャビネットの表情を大きく規定付けるものであるので、美しく瑕疵のない木目、木味のものを用いるということについては異論はないだろう。
木表、木裏、どちらを表に出すのかということについては諸説あるので、ここでは断定しない。
横に数杯並ぶようような場合は、1枚の板から木取り、自然な流れで並ばせるのは言うまでもない。
あるいは時には抽出面全体を1枚の板から木取り、加工・仕上げして、再びこれを並ばせるということもあるかもしれない。
なお、一般には以前も述べたように木目を左から右へと流すということになるが、上下に複数並ぶ場合、木目方向は交互に配置するという考え方もある。
なお本稿では加工のポイントを示すものではないので記述することは避けたいが、本格的加工前の前板の仕込みについて1つだけ記しておこう。
上端を除き、残り三方については基本はあくまでもタイトに仕込むことが肝要。
(中途半端にクリアランスを設けることが、結果出し入れの機能において問題を産む)
前板と側板の接合方法は様々なのでその前板仕込みの手法もいろいろだが、厚み全体をタイトに調整するのは至難なので、加工後に残す部分以外を除去し、薄くなった木口の状態でタイトに合わせていこう。
前板についてはこのぐらいに止め…、
次に側板。
側板の木取りについてはその性質上明確に語ることができる。
木表を外に出す、ということについてはキャビネットメーカーたるもの既知のことであると思われるが、他にもいくつかのポイントがあるように思う。
以下、箇条書きで示してみよう。
- 側板の表裏について:木表を外側に(経年変化での反張により抽出を膨らむ方向にはしない)
- 左右を同じ表情に:1つの抽出の側板には、柾目、あるいは板目といった表情を可能な限りに同じものとしたい
- 上端は美しく:上端にはあまり汚れた部位を使わない。しかしあくまでも基本は辺材側が上端になるようにしたい(表情として自然であり、かつ摺り桟を滑る下端には辺材より強い心材側を使いたい)
- 側板の前後の配置について:加工、組み立て後の仕込みの際の側板の削り作業は一般に前板側を上にして削ることになるが、この時に順目になるように配置したい(木表を外にすれば、木末を前板側にすることで順目になる)
おおよそ以上のようなところだが、これを全て満たすというのは現実的に困難なことも多く、作業者が優先順位を決めながら、最終判断をすることになる。
序でに記述しておきたいことが1つあった。
抽出の仕込みは少し難易度が高い作業となるが、前板の仕込みをタイトにしっかり行い、かつその後の加工がスムースに適正に運ぶならば、さほどの困難さもなく案外簡単に仕込むことが出来るものだ。
そのための1つのポイントが側板の高精度の削りである。
プレナーで高精度の厚みに揃えることはもちろん、加工後の仕上げ削りも寸分違わず同じ厚みで削ることが求められる。
これを可能ならしめるのが超仕上鉋盤である。
超仕上鉋盤の性能からして、ほとんどの側板、向板を、1発で一定の同じ厚みの鉋屑で削ることが可能。2回通すと決めたなら全て同じ2回で済ますなどで規制を掛け削り上げ、その他の正確な加工を果たすことと相まって、仕込み作業もずいぶんと楽なものとなるだろう。
向板(あるいは先板)については特に記述するようなところはない。
今回は一部加工にまで踏み込んだ記述になってしまったが、高品位で高性能なキャビネットの抽出を、より高い生産性をもった加工工程で進めることの重要性を考えていただきたい。
基本は木という素材の特性をよく考え、合目的な木取りをし、加工に供するところにある。
古来より日本の木工職人は日々こうしたことを追求してきたに違いないが、ボクたちはそうした先人の知恵に学び精進を重ね、また後からやってくる若者にそれらの資産を伝えてやっていかねばならない。