工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

日本橋三越本店での展示会、かわきり

はじまりました

昨日9日、展示会の初日の立ち会い。
緊張と、晴れがましさと、疲れと、充実感、ないまぜの1日。

木工職人という人種は、木埃まみれの作業現場でシコシコと木に向かっているのが、もっとも輝いているもの、という捉え方は了解していただけると思う。

タキシード姿の似合わない陶芸家

以前、親しくさせていただいていた陶芸家の地元百貨店での個展に併せたパーティー会場でのこと。
この陶芸家のファンや、著名な陶芸家はもとより、東大寺の長老まで列席するという大規模で晴れがましい雰囲気に圧倒されたのだったが、主賓のOさんは、いつもの作務衣姿からタキシードに着替え、シャンパングラスを片手に、囲まれたファンをかきわけかき分け、赤らんだ顔で陽気に振る舞い、上機嫌だったのはもちろんなのだが、しかし何とタキシードの似合わなかったことだったろうか。

やはり普段の泥に汚れた作務衣姿がお似合いで、それが仕事人としての一張羅だと思ったものだ。

端から見れば尋常ならざる異様なまでの強力なファンを獲得していた人だったが(谷川徹三さんが強く推していたほど)、常々、“オレは茶碗屋だ”と、謙遜とも、自負とも、自己確認とも、自己否定とも取れる打ち出し方をしていた人だった。

このOさんのような優れた陶芸家であれば、個展会場でいちいち客に声を掛けずとも、夜の酒席で酌み交わすことで、売り上げはドンと伸びただろうから、晴れがましいパーティー会場でも何ら臆することもなかっただろう。

しかし他方ボクなどは、緊張感と晴れがましさを押し隠しながら、百貨店の意向に即応し、しっかりと販売促進の片棒を担わねばならないというわけだ。

三越製作所という資産

BlackWalnut二層李朝棚

BlackWalnut二層李朝棚

三越という百貨店における家具の販売は、戦前から「三越製作所」として名を轟かしたように、国内における高級家具制作・販売の重要拠点であったことはボク以上の年代には広く知られていたはず。

70年代以降、公共施設やホテルの建造、さらには個人住宅建造から高級家具の需要が飛躍的に伸張する過程、百貨店家具もこの需要に応えるため、店舗床面積を増床し、スタッフも増員していったのだろうが、バブルが弾け、家具販売も専門店展開や、メーカー直営店へとその対象も移行させられ、厳しい状況下に追いやられているのも事実なのだろうと思う。
(都内、目黒や自由が丘で展開しているメーカーショップのほとんどは、出店以前は百貨店での販売を主体としていたのだが、百貨店での家具販売縮小の煽りを受け、自社での独自展開を余儀なくされたという側面もある)

ただやはり、販売スタッフの方々との会話、情報交換の一端を受け止め、あらためて考えて視れば、それまでに培われた高級家具への思い入れはもちろんのこと、家具そのものへの造詣は深く、良く研究されていらっしゃるな、との印象は強いものがあった。

こうした方々に見守られながらの販売促進活動は、半ば面映ゆくも、意欲的にもなろうというものだ。

✽ 画像は出展作品の1つ〈ブラックウォールナット二層李朝棚・部分〉

hr

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  • 先日は久しぶりにお話させていただき、ありがとうございました。
    成功をお祈りいたします。

    タキシードの話が出たので一言。
    共同出展の彼は、工房からそのまま出て来たのかと思ってしまいましたね。
    これから売って行くに当っては接客もセールストークの一つ二つは
    覚えなければならないでしょうから、せめて襟の付いた服装が必要だと
    思いますね。
    お客様に失礼な印象を与えないためにも。
    職種に限らず、TPOは必要です。
    artisanさんの方からよろしくお伝えください。

    私が子供の頃はデパートのワンフロアーを使って、婚礼家具が
    ずらりと並んでいた光景が記憶にあるのですが、様変わりですね。
    今回は良い家具を見させていただきました。

    • 名古屋松坂屋本店以来ですね。
      楽しいお話しをさせていただきましたが、
      お元気そうで、何よりでした。

      >私が子供の頃は…
      なるほど、そうした時代だったのですね。
      (団塊世代が結婚年齢に差し掛かった頃かも知れません。
       大衆消費社会到来の象徴でもあったのでしょう)

      Oさんの服装へのご指摘、ありがとうございます。
      彼もこの記事、視ていると思いますので、以後注意するでしょう。
      ドレスコードというのは、なかなか難しいです。
      その人の美意識、社会的規範、TPO、様々ですが、
      不快な思いをさせてはいけませんね。

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