ブラックウォールナットの仏壇
材料
良いものを作るには、様々な要素の集積が必要となるわけですが、私たち家具職人にとり、重要なファクターの1つが素材であることに異論は無いと思います。
これはたぶん、ほとんどのモノ作りにおける真理の1つだろうと思いますが、わけても自然素材を材料とする木工品では、決定的とも言って良いほどのものがありそうです。
素材に助けられ、素材の命をもらい、これに励まされ、その品格にふさわしいモノを作ろうとさせるある種の啓示と、戒めが、作者を奮い立たせ、良いモノに結実することになるのだろうと思います。
これはブラックウォールナットの仏壇です。
一般に仏壇と言えば、その材料は唐木であったり、国産材ではケヤキや栓といったものが用いられているわけですが、最近では家具調仏壇とか、モダン仏壇と称されるものに、こうしたブラックウォールナットなども用いられるようになってきたようです。
私はブラックウォールナットを原木製材で在庫管理をし、比較的豊富に所有していますが、これは6年ほど前に製材した末口70cmほどもある太い原木からのものです。
以前、ここでも紹介させていただいた大きなデスクの材と同じ原木からのものです。
デスクでもそうでしたが、全面に縮み杢が配され、また濃色で色調豊かなところが特徴的な材です。
樹齢のあるものですので、暴れも少なく、物理的安定度も確かなものでした。
こうして、今回もまた素材の魅力、品格に助けられ、良いモノを作ることができたのです。
〈材色が詐称されるブラックウォールナット〉
ブラックウォールナットを扱ってる方で、「自分が使っているブラックウォールナットはこんな色味が無く、もっと白く、色調も平板」というような話しを聞くことは少なく無いのですが、これは現地製材の状態での輸入品だろうと、ほぼ確信的に言えます。
市場で流通しているブラックウォールナットのほとんどが、この種の乾燥材と考えて間違いないでしょう。
ブラックウォールナットの木味の価値は、その濃色にあるわけですが、若い樹齢ですと、白太部分が多く、歩留まりが悪くなるため、製材後の人工乾燥過程で、ある種の作為が行われるのです。
乾燥機の窯に入れられ、噴霧される蒸気で赤身の部分の色を、白太に移行させ、色を付けているのです。
その結果、白太はそれなりのダークな色調となり、その部分をも捨て去ること無く、歩留まりは大きく改善されます。
ただ、その結果、色を奪われた赤身の部分が、本来の色調では無く、平板なただの黒っぽいだけのものになってしまうのです。
ブラックウォールナットはチョコレートブラウン、濃いグリーン、紫、黒、と様々な色調が織りなす、独特の表情を持つのが本来の姿で、これを歩留まりを良くするため、その結果、本来の魅力を損なってしまっていることは、業界内でも意外と無自覚、無知な人は少なくないようです。
したがって、本来の色調を求めるのであれば、そうしたことを深く理解する材木屋に相談する、あるいは原木を求めるしか無いだろうと思います。
このブラックウォールナットから、帆立、地板、甲板、そして扉までを穫りました。
扉はご覧のように、1枚の板を4分割し、構成しています。
(扉中央部分の下部、少し黒さが気になるかと思いますが、この下にあたる切り落とした部分に、実は散弾銃の弾と思われる鉛が突き刺さっており、その影響で変色させられてしまったのですね)
背板のV字型の部分は縮み杢のタモ材です。ブラックウォールナットとの境界は紐面を取っています。
抽斗の前板はバーズアイメープル。もちろん無垢材です。
扉召し合わせ部分、抽手などははローズウッド(インド)
構造
甲板、地板、それぞれの木端面に面処理を施し、ここに棚板、抽斗などを受ける加工を施した帆立(側板)を立てます。
ただ繊維方向が直交しますので、寄せ蟻で通します。ボンドは前部1/3ほどに。
扉は1枚の板を4分割し、それぞれ、裏側木口へはハシバミを施し、反りを抑えます。
(反りを抑えると言っても、無垢材の反る力はハンパじゃ無いです。
本来はベニヤリングすべきところかも知れませんが、良く乾燥した材で、1枚の板からの木取り、ということで、条件を揃えたことで、反張を最大限に抑えた、というところです)
若く未熟な頃は、あまり気にも停めずに考えるところですが、キャリアを積むほどに、木の動きへの怖さが募ります。
召し合わせのローズウッドは中央に鎬を立て、抽手用の造形を施し、ビシッと嵌め込んでいます。
見付けですが、ただのフラットな面でも良いのですが、こうして折ることで、立体感とボリュウム感、塊としての量感が出ますね。
仏壇では一般にこの造形は多いと思いますが、そのほとんどは框組の扉であったり、フラットなものでもそのほとんど全てはフラッシュ構造でしょう。
こうして無垢板で贅をこらした作りは貴重です。
このことで、仕事内容は思いの外に難易度が増しますが、美しい良いモノを作るには、そうしたことを厭わずにやることですね。
扉のキャッチですが、上部幕板中央部分に、2つのマグネットを封じ込め、これに受けさせています。
強力なネオジムならではの手法です。
封じ込めはラミネートです。
マグネットを外に出して見えるのは、美しくないですからね。
こういうところはスマートにいきたいものです。
この幕板の背部にLEDライトを設けることは良くやる手法ですが、今回はそれを望まないとの要望で設けていません。
照明を設ける場合、扉の開閉に併せたスイッチを付けることで省電力になります。
- 寸 法:540w 425d 900h
- 材 種:ブラックウォールナット、バーズアイメープル、紫檀、楓
- 仕上げ:オイルフィニッシュ
経机
この仏壇に併せ、経机も作りました。
抽斗部分は剣留めで、周囲に紐を回しています。李朝家具に良く用いられる意匠の様式です。
筆返しは、あえて一般的な構造にはせず、無垢板の甲板の反り止めを兼ねた、ハシバメ様に甲板に嵌め、反りを出しています。
換骨奪胎しちゃうのです。
- 寸 法:600w 360d 300h
- 材 種:ブラックウォールナット
- 仕上げ:オイルフィニッシュ
こうした小さな木工品は、やはり冒頭にあげたように、材の吟味が出来の5割以上を支配するような気がしますね。
どれだけ豊富に良い材料をストックしているか、これも良い木工に結果する重要な要素であるようです。
これはしかし、木工職人に生来ビンボーな暮らしから抜け出られない定めを負わす、大きな要因であるのかもしれませんね。
困ったものです。
キコル ABE
2015-2-23(月) 22:57
抽斗の前・皮、面取り、撮みなどをクローズアップが欲しい。可能ならば素材カットモデル(ラフ木地の美しさ)仕上げ前のon the workbench.
Krenov は、手仕事の痕跡や形の意味、性格付けに執着していました。余韻・イメージ全体を決定づけるからでしょう。「技量は、細部に宿る」 納まり、ディテールに意味がこめられていることを怪説されると作品の性格がより鮮明になると思います。
JKは、必ず作品の制作意図を説明していました。未熟な生徒は、変なこという爺さんだと。本当に理解するには、相当の知見、感性が要求される世界ですがアートや建築分野の専門評論がないので未開です。小民が家具・調度を使い生活できる時代は、ごく最近ですから。
artisan
2015-2-24(火) 21:23
ご指摘、ありがとうございます。
・・・こんな私の作品にまで、より高らしめるいくつもの示唆をいただき、感謝でありまする。
JKの自作を語る文体は私も好きですので、何某かの影響下にあるはずですが、
まったく備わっていない、というわけですね。
一方で作者は何も語らず、「モノに語らせる」という誘惑もあるわけですが、してみると、私はどっちつかずの中途半端な姿勢であるかも知れず、最悪ですね。
JKの場合、全体の造形から、ディテールに至るまで、全てが意味を有し、それはすなわち、
そのほとんどをテキストとして語ることができるものとして、実際語ってくれているわけです。
それは美学を越え、哲学的な領域にまで到達するほどの深淵なものを秘めています。
たぶん、CMや、JKがいてくれたことで、後塵を拝し、ささやかながらも、木工への希望を捨てず、可能性を見出し、必死になって木工に食らいついていく木工家が後を絶たないのだろうと思いますよ。
であるとすれば、Krenovianの末席を汚す一人としても、ABEサン指摘の要綱を少しでも取り込み、自作を正しく相対化させ、世に送りたいと思います。
キコル ABE
2015-2-24(火) 23:19
マンダ、スガタミエナイモデルヺ、ボンヤリ、ウレシソウニ、眺メル畑二オリマス。JKがよくたとえた音楽とおなじですね。もう一つ脱皮するときが楽しみです。
acanthogobius
2015-2-25(水) 13:28
こんにちは。
甲板、地板と側板の繊維が直交する方向に配置した意図はどこに
あるのか、教えていただけるとありがたいです。
artisan
2015-2-25(水) 15:48
本文、一部記述が不十分だったかも知れず、混乱させてしまったかも知れませんね。
天、地ですが、ここは1枚の無垢板では無く、正面と、左右の妻手、そして後ろと4枚の板で構成し、正面と妻手左右は留で組み、後ろは包み(鬢太)で組んでいます。
つまり、框組における支輪、台輪の構成です。
したがって、妻手と左右帆立は繊維が直交する関係になります。
つまり帆立が立つ妻手は、前後に繊維方向があり、
帆立の繊維は上下方向ですが、妻手支輪、台輪の前後方向からすれば、帆立の繊維は直交する関係性にあり、伸縮方向が逆になりますね、
そのまま[ 枘+ボンド ]で固定してしまうと、経年変化により、破断する、変形する、という問題があるので、伸縮を逃がす、寄せ蟻で結合させている、ということですね。
そうしたことも含め、ABEさんの指摘にもありますが、もっと詳しく紹介すべきかも知れなかったですね
既にモノは遠方の顧客の居間に鎮座ましますので、適いません。悪しからず。
写真もあまり撮っていませんでしたしね。
(大竹さんのようにしっかりと残しておかないとあかんぜよ!、と叱られっぱなし)
ご理解していただけましたでしょうかね。
ところで、acanthogobiusさん、デザインとか、全体の構成とか、そんなところへもコメントくださると嬉しいのですがね。
作り手はとかく仕口へと関心が向くのは仕方が無いところでしょうがね。
acanthogobiusさんも一度仏壇にチャレンジされたらいかがでしょう。
良い材料をたくさんもっていらっしゃるようですしね。
キコルABE
2015-2-26(木) 18:10
裏鬢太とは意外性タップリ。 剛性も上がり、手仕事の勢いも魅せます。
写真は見せないでよいと。持ち主のみ判るデティールも必要ですね。
それに悪い物具屋が、まがい物で太りマスカラ。
artisan
2015-2-26(木) 20:53
ABEさん、〈鬢太〉ですが、在来構法の建築では一部まだこんな用語も使われているようですが、家具ではどうなのでしょう。今では死語に近いかも。(漢字を読める人も少ないかも)
生徒を教える立場の訓練校の先生すら知らないのでは?
私は親方(横浜クラシック家具系譜)から普通に聞いていましたが、周囲の誰にも分かってもらえないもどかしさ。笑
acanthogobius
2015-2-26(木) 21:27
どうも私のMACは嫌われているようでコメントが入りません。
iPadから試して見ましょう。
構造の件は了解しました。
仏壇は宗派による違いもあるようで、気になる所ですが、村山明さんや須田賢司さんの作る厨子には、憧れのような物があります。
仏壇や厨子のことは頭の隅にあるので、参考にさせていただきます。
artisan
2015-2-26(木) 23:01
おや、投稿が入りませんか。(これまでそうした話はありませんでしたので、ちょっとビックリ)
ブラウザをFirefoxとか、Chromeとかで試してみていただけませんでしょうか。
厨子、ぜひチャンレンジしてみてください。
artisan
2015-2-27(金) 07:33
〈追伸〉acanthogobiusさん、昨夜のReコメントの投稿非対応の問題ですが、お使いのMac OSのバージョンが弾いている可能性が考えられます。
以前、同様のお話しがあり、その考え方、対処法についてのポストがありますので、ご参照ください。
http://blog.koubou-yuh.com/?p=1677
OS非対応であるとすれば、大変申し訳なく思います。
さしあたって、OSをお使いのMacに対応する最新のものに更新する、あるいは既に触れているように、他のブラウザで試して見る、さらにはご自身が既にやっておられるような他の端末で試みる、といったところで対処いただければ幸いです。
因みに、本Blog構築WordPressのバージョンは 〈WordPress 4.1.1〉です。
acanthogobius
2015-2-27(金) 21:18
Mac OS X Lion 10.7.5 + Safariですので、Macの中ではまだメジャーな環境だと思います。
中にはコメントを諦めてしまった人もいるのではないでしょうか?
artisan
2015-2-27(金) 22:48
OS X 10.7.5 Lion、2012年ですね。
現在、WordPressの動作環境を確認しているのですが、閲覧、およびコメントでの確たる情報が得られず、焦っているところ。
検証の必要がありそうですが、今しばらくお待ちください。
なお、他の方々で、同様の問題を経験された方がいらっしゃれば、メール等でご報告ください。
システム上の動作保証外は如何ともしがたいものがありますが、そうで無いとすれば、何としても解明せねばいけませんね。
なお、先にも申しましたように、同じ環境で、Safari外のブラウザ・Firefox、Chromeなどで1度試していただけませんでしょうか。