工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

日本のデザイン ━「21_21 DESIGN SIGHT」の目指すもの

さる3月30日に六本木に新しいランドマークが出現した。
「東京ミッドタウン」
「ザ・リッツ・カールトン東京」も「サントリー美術館」も興味があるが、ここはやはり「21_21 DESIGN SIGHT」に注目したい。
まだ訪ねてはいないが、たまたま視たNHK番組《クローズアップ現代「“デザインの力”が世界を制す〜問われる日本の戦略〜」》では、
この「21_21 DESIGN SIGHT」の企みの中心的デザイナー、三宅一生氏深澤直人氏の2人が国谷裕子さんのインタビューを受ける形で、この新たな企画について語ってくれていた。
個人的にもこの2人の仕事へは敬意を表しているので、興味深く視聴させていただいた。
(三宅一生氏のプリーツはすごく斬新的な服飾デザインとして評価したいし、ボクのケイタイ〔au:INFOBAR〕は深澤直人氏のデザインによるものだ)
インタビューの前段として、Apple社の iPod 、イケヤの世界的展開のインテリア家具を取り上げ、これらがヒットしている最大の要因がデザインにあることを明かす。また英国では国家的プロジェクトとしてデザイン教育に取り組んでいることを示す。
次にこうした海外企業などのデザインにおける世界的戦略の中で、果たして日本の現状はどうか、という視点からその課題を探る、というものだった。
三宅一生氏は服飾デザインという本業では第一線を退き、それらは若いデザインナーに担当させ、こうしたパブリックなプロジェクトにこれからの人生を捧げようという意欲を感じた。(本来であれば国家的プロジェクトとして取り組むべき課題なのかもしれないが、そんなことを言っていたって始まらないから‥‥‥)
一方深澤直人氏によれば
〈デザインというのは、それを使う人に、前提を説明せずに、「こんな感じですよね」と言ったときに「はい、そうです」というやりとりが成立すれば良い。受け手側が持っていたマインドをたまたま私たちが職能として具体化するということ〉という。
全くその通りだよね。平明で分かりやすい。
これはこの人の言語感覚というものが造形センスと同じなんだな、とあらためて好感を持つことができた。
こうした有能なデザイナーによる共同のプロジェクトは、普通一般にクライアントの依頼を受けて仕事のチャンスを得ると言うものではないパブリックな試みとして、本人達はもとより多くの関心のある人々を巻き込んで、デザインというものをあらためて定義づけていく意味のあるものとして期待したいと思う。
三宅一生氏が語っているように、日本には古来から、生活レベルで美しいものを愛で、楽しむという文化があったし、もの作りの伝統が豊だ。70年代の工業デザインは世界的にも影響を与えていた。
今は少し元気が無いようだけれど、若い才能が羽ばたきつつあるのは確かなこと。
問題は日本というマーケットの特殊性(自国の狭いマーケットに安住してしまいがち)を打破して、如何に世界性を獲得していくのかということ。(昔はそうした特殊性の中で十分やってこれたが、現在ー未来はそのような閉鎖的視野では立ちゆかない)
近く上京する予定は無いが、機会を見出し、「21_21 DESIGN SIGHT」にはぜひ訪ねてみよう。
以前、このBlog(国立新美術館・ポンピドー・センター所蔵作品展を観て)で「国立新美術館」を取り上げ、「国立美術館」を謳っていながら何故日本のデザイナーによる調度品を使わないのか、と訝ってみたのだったが、日本のデザイナーらにとって屈辱的とも言える日本デザインの象徴的状況を表しているものと見做せば、意味もあると言うことになろうか。

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  • こんにちは。
    5年ほど前まで六本木で働いていましたが、私が六本木を
    去ってから、六本木ヒルズを始め、国立新美術館や
    ミッドタウンなど新しい施設が続々完成しました。
    それと時を同じくするように六本木の特に夜の治安は悪く
    なったと聞いています。
    今でも時々、赤坂のかかり付けの歯医者さんにお世話に
    なっていますが六本木周辺はつまらない町になってしまった
    と言われていました。
    高級マンションの住人はほとんど町会には加入しないそうで
    地域社会が成り立たないそうです。
    六本木はやはり住む場所ではないのでしょうね。
    「21_21 DESIGN SIGHT」、機会があったら行ってみようと
    思います。

  • acanthogobiusさん、コメントありがとうございます。
    ここ数年管理人は渋谷、新宿、六本木など東京の繁華街を深夜徘徊することもありませんので体感的には分からないのですが、年々治安悪化してきているということは良く聞かれることですので、恐らくそうした傾向はあるのでしょう。
    背景として考えられるのは、カネと欲望が渦巻く街へと全国から刺激を求める若者が殺到し、これを餌食とする裏世界の狼どもが徘徊するという図式になるのでしょうか。(世界でも有数の歓楽街ですので、犯罪に関わる外国人もいることでしょう)
    ネオリベの昂進にブレーキを掛けないことにはこの傾向は止まないでしょうね。
    「国立新美術館」や「東京ミッドタウン」が直接的に治安悪化に手を貸しているとは思えませんし、こうした巨大施設に利用できる広大な敷地が、たまたま六本木地域に残っていた、という経緯が一般的な解釈だろうと思います。
    いずれにしろ、東京というメガロポリスの長期的都市計画があまりにも杜撰でその場しのぎでしかないという不幸がまき散らしている現象の1つですね。

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