工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ワーキングスツール

スツール2
大きな家具制作の合間を縫って、ちょっとした「ワーキングスツール」を作ってみた。
注文によるものだが、合間を縫ってというビミョウな間合いが完成を見るのを遅らせていた。
ある顧客の紹介で訪ねてこられた複数のご家族の中の一人の夫人からの注文によるもの。
この時の他の方々からの注文品、「水屋」・「チェスト」・「アームチェア」などは既に納めてしまっていたのだが、一番簡単なはずのこれだけが延び延びになっていた。
家事で使うちょっとした小ぶりの椅子が欲しい、とのことであったが、この「ちょっとした‥‥」という形容をどのような機能と意匠にまとめればよいのかは意外と簡単なことではなかった。
いわゆるあえてジャンル分けをするならば「キッチンチェア」、「カウンターチェア」という類のものだ。
何度かFaxをやりとりして承認を受け制作に掛かったのだったが、納めてみるまではこの夫人の意向を形に出来たかどうかは分からない。
さきの「超硬刃のプラグカッター」という記事は、このスツールの足掛け部分のほぞを成形するためのものだった。
今回はクルミでの制作で、という依頼であったが、今後のデザイン研究のためもあって、予備にブラックウォールナットのものも1つ制作しておく。
スツール1さてこのような簡単なものであるので、見せ所があるわけではない。
あえて上げれば座と脚部のバランス、脚部のふんばり角度。
背は小さなものだが、しかしこの有無は安定した座りに大きく影響するところだ。
この背は、座に天秤差し(やや傾斜させつつ)にて堅牢に接合。
反省点は、背の手掛けの透かし部は少し大きすぎたかなと、思う。
小ぶりな楕円形にした方がすっきりしたかもしれない。
しかし座り心地は悪くないし、プロポーションも綺麗。
確かデンマークの椅子に「シュー メーカー チェア」(だったかな)というものがあったと思うが、同じようなコンセプトというわけだね。
無論、こちらの方が品質は高い、と思うよ。(自画自賛 !)
でも困るのは年々このクルミ(鬼ぐるみ = 本クルミ)の入手が難しくなっていることだね。乾燥材として市場に流通しているもので国産のものを見つけるのは至難。
一方のブラックウォールナットの方も、このような色の良い(普通のありふれたものだが)ウォールナットも市場からは入手困難。
しかしこれらの一般的流通市場にだけ囚われていたのではダメ。
まだまだいずれも原木丸太を探すことはさほど難しくない。
少しだけ時間を掛け、材木屋との交渉力を付け、アンテナを高くし、あるいはまた入手後の製材、天然乾燥などのやや煩雑な運営管理を厭わなければ、まだまだ良い材料で仕事は出来ることを感謝した方が良いだろう。
結局手間暇かけなければ、当たり前のものを手に入れることも難しくなっているということだね。
ただ所与の条件だけに囚われていたのではダメで、すべからく意欲的に働きかけなければ仕事の基礎的要件である材料すらも手に入らないということ。
画像は塗装途上、工房の一角で撮影されたもの。

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  • 私はくるみはまだ使ったことがありません。
    今一とらえどころのない特徴がそうさせているのかも
    しれません。
    artisanさんはタモとかケヤキは使いませんか?
    これらは、まだ入手が容易な材だと思いますが。
    あまり入手が容易な材だと他との差別化が図れないという
    こともあるのかもしれませんね。

  • acanthogobiusさん、コメントありがとうございます。
    >(くるみは)とらえどころのない特徴
    確かにそういう評価がされてしまうことには抗えないのかも知れません。
    しかし本クルミの良質なものはウォールナットほどではありませんが、加工性も良く、靱性も高いので決して侮られる理由は無いとも言えます。
    戦時中、大量に伐採され尽くしたこともあり良木が少なくなってしまっていたことも、今に影響しているのかも知れません(陸軍歩兵銃の銃床のそのほとんどが鬼クルミ)
    タモの市況はどうなのでしょう。
    ボクが起業した頃はまだ国産の良いものが入手でき、使いやすいことが大きなアドバンテージで、よく使わせてもらいました。その後、国産のものに替わり中国材で良いものが簡単に入手できていましたが、中国が急に輸出を抑制しはじめ、現在はロシア極東からでしょうか。
    ケヤキは、海外で同種のものを探すのは難しいでしょうね。
    ボクは多少持っていますが、あまり積極的に使う材ではありません。あまりにも「和」のイメージが固着してしまっていることがその理由です。
    >あまり入手が容易な材だと他との差別化が図れないということもあるのかもしれませんね。
    使われる材種の希少性に品質の価値の多くの部分を付与させるということは、大いにあり得るでしょう。
    しかしこの希少性というものは単にめずらしいというだけではなく、家具材としての優れた要件を備えているからこそ、価値を認めたいということになるのだろうと思います。
    しかしまたこの「価値」という物差しも、結局は市場における需給から決される相対的価値ですですので、それをそのまま作品の絶対的な評価とすべきかどうかは別次元の話です。
    一方、材種に依拠しない、優れた品質のものを作ることもおおいに評価されるべきものと言えますね。(さらに言えば、何でもかんでも無垢材でなければ 云々、とうものではなく)
    ありふれた材を用いても、しかしデザイン、精緻な仕事、などで高い評価を得るということも重要なことです。
    ちょっと冗長なコメントになりましたことを詫びます。

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