工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

「コレクションテーブル」

コレクションテーブル1

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今回から名古屋松坂屋での個展に出展したいくつかの家具を対象として解説を試みたいと思う。
最初は「コレクションテーブル」
ところでこの「コレクションテーブル」という名称は何とかならないものか、あまりしっくりこない。もっと良い名称があるはず。
要するに「ぐい飲み」、「蕎麦猪口」、「コーヒーカップ」、などの器、あるいはジュエリー、時計、何でも良いだろうが、ガラス甲板の下にオーナーのコレクションを収納ディスプレーする機能を持たせたローテーブルというわけだ。
これは以前、顧客宅でオーストリアから買い求めてきたと言う同種の機能を持つテーブルを見せていただいたことが契機となって、開発設計したもの。
ボクの顧客には陶器などのコレクションをしている人も多いので、そうした人に使っていただければ、という発想でもある。
元のものは脚部がろくろ成形のデコラティヴなものだったが、画像のようにシンプルでモダンなフォルムを持つデザインとした。
脚部はなだらかなテリ脚とさせ、エレガントなラインを描く。
個展会場でも比較的人気だったようで、多くの来場者が説明を求めてきた。
別途、国産の白木を用いての制作依頼も含め反響が良かったものだ。
松坂屋美術への客層とあって、様々なコレクションをお持ちの人が多いのだろう。
制作依頼してくれた人はコーヒーカップを置きたいということで、内部のアクリルパーテーションを大きく仕切り、総丈もやや大きくなる。
これを応接セットのセンターテーブルとして使い、来客にコーヒーを呈する時に、カップを客に選んでいただこうという趣向のようだ。
考えてみるだけでも楽しい光景だね。


さて、まず全体の構成だが、
甲板は8mmの強化ガラス。
これを45mm幅の額縁に落とし込み、この甲板を扉状にテーブル駆体に固定。
つまり長手方向に2枚の丁番で支え、開口時はステーで保持する。
コレクションテーブル2下部駆体は4本のテリ脚に長手、妻手、それぞれ同じように幕板、貫を回す。
脚部への接合はいずれも2枚ホゾ。
貫に小穴を突き、地板を落とし込む。この地板はブラックウォールナットの厚突を練ったランバーコア。
また幕板、貫、脚のガラスが来る部分にはそれぞれ留でぐるりと額縁を回す。
これは意匠とともに、ガラスの納まりの問題を解決するための構造上の要請でもある。
アクリルは3mm、交差する部分はカッターで相欠き。
書けばこれだけのことだが、これが制作となるとなかなかやっかい。
まず脚部。
互平の材を45度傾け成形するわけだが、ホゾ仕口が来る箇所は45度に切削し、幕板、貫を受ける。
45度に切削したものはそのままテリ脚成形しつつ最下部まで流す。
多面体(正確には5面体)の断面を削り出すわけだが、単にテリ脚成形とするのではなく、駆体対角線方向を意識しつつ、長手、妻手方向の面を見せるということ。
テキストで書こうとすると、読み手はよくわかんない?
書くのも面倒だけれど、加工はもっと大変。
成形そのものがまずめんどう。うちではルーターマシン、シェイパーがあるので、型板を作り、倣い成形するが、こうしたマシンがなくとも、帯ノコ、手鉋でしこしこやればできないことはない。
ただ4本ともに全く同一の複製品を作るのは容易ではないし、それぞれ求められる精度(┌ であったり、平滑性であったり)を確保するのも簡単ではない。
またハンドルーターにこれを代替させるのは難しいのじゃないかな。
切削長、切削量が大きいし、3次元にひねくれている。
こうしたエレガントな脚部成型のためにもルーターマシンの導入は必至というわけだね。
「ルーターマシン導入促進委員会」でも起ち上げようか。
なぜこんな面倒くさいことをやるのか。
自虐的だからということではなくてだね、綺麗な線を出したいがため。
こうした造形というものは、その労苦は見事なまでに形として現れるから報われるのだね。
次に甲板額縁だが留は裏から鼓での「千切り止め」固定とした。
以前ミュージックスタンドで紹介したので繰り返さないが、留における完璧な接合方の1つであり、もっと普及されても良い接合手法だと思う。(参照
 collection_x幕板部分の額縁だが、図のような断面となるが、こうした場合、幕板、貫の脚部仕口、額縁の留接合、それらの幕板への小穴への納まり、といったように二重三重の納まりとなり、それらを完璧に接合させのはかなりやっかいな事になる。
こういう場合はどこかで巧く逃げることが必要。
全てを完全に行うというのは、間違いなく破綻する。
留が完全に、幕板への納まりも完全に、しかしそのために最も重要な脚部への幕板の接合が破綻するという結果に終わってしまってはアカン。
今回のような場合は額縁の幕板への納まりの胴付きで逃げる。
額縁は見え掛かりはドブで小穴に入り、内側に胴付きがくるが、ここをほんのわずか逃げることで、留と、脚部接合に影響を及ぼすことなく、全ては丸く収まるという塩梅だ。
こうした場面は複雑な機構を有するような構造では頻繁に起きうるわけだが、「巧く逃げる」という考え方を高度に展開することが重要というわけだね。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 私も含めて日本人は、物を上手に飾る事があまり得意では
    ないですね。
    ヨーロッパでは日曜日は休む店が多いですが、ウィンドウ
    だけは照明が入り、綺麗に飾り付けられて見ているだけで
    楽しいです。照明も間接照明が多いですね。
    自分でも物を上手に飾ることを意識しないと、このような
    作品は生まれてこないように思います。

  • 人と“モノ”の関係の日本と欧米における違いも、比較文化論として成立するほどのものがあるのでは。
    美しいモノを身の回りに置き、これを愛玩するという考え方、振る舞いというものが一部王侯貴族らの独占物から、近代以降の自由な市民らの勃興とともに広まっていった。
    住まい、調度品、身の回りのものを美しく装う、そうした生活を豊かに楽しむ、という文化的な営為というものは、やはり近代の歴史の豊かさの違いとなって現れてくるのは仕方がないことでしょう。
    日本の場合はハリボテ、消耗品扱い、真の価値を独自の鑑識眼で見抜く力の弱さ、などとして特徴付けられるかもしれません。
    ただ一方中世史をみたかぎりでも、日本には世界に誇るべき芳醇な文化の蓄積があることも見ておきたいところですよね。
    しかしそれは一部富裕層、支配者層のものでしかなかったということも確かで、これらが近代以降の歴史の中で、どれだけ一般市民のものとなっていったのかについては安易な結論は許さないでしょう。
    つまり日本固有の文化を評価し、それとともに近代以降、積極的に取り入れてきた欧米の文明の果実を、単に表層をなどるだけではなく、その背景にある数千年の文化の蓄積から理解するほどのアプローチを試みないと、“モノ”への真の接近はできないということですね。
    やはり心のゆとり、豊かさが無いと“モノ”であれ、自分であれ、美しく装うことはできないということでしょう。
    衣食足りて‥‥、とよく申しますが、なかなかですね。
    所詮アジアの民ですから(結論がこれでは‥‥、困ったモノですね)
    ─────────────
    話を戻しますが、
    やはり家具を作っていこうという場合、acanthogobiusの仰ることと重なりますが、使い手がどのような生活のスタイルをしているのか、文化的な嗜好はどういう傾向なのか、といったことと深く関わるものとなりますので、作り手としてはそれを理解し、咀嚼し、その上で提案できるだけの力量(美意識、知性、教養など)が問われてきますね。

  • 自分が良いと思うものを作ってそれに共感して頂けるお客さんに買って頂くということからさらに進めて、お客さんに気に入って頂けるものを提案するということも必要ですね。
    なるほど、もっと自分の中で意識していこう!
    なんとなくサラリーマンをしてて、日々の仕事に追われていると心のゆとり、豊かさとは縁遠い生活でした^^;

  • ぽーるさん、コメントありがとうございます。
    私はデザイナー職ではありませんので、必ずしもマスを対象としたプロダクト的なスタンスでモノ作りを捉えているわけではありませんが、しかしまた自身の狭い価値観を押しつけることだけでは作るモノもつまらないものになってしまいかねないという思いがあります。
    しょせんモノ作りとは言っても、作り手、使い手の相互の関係性によって育まれるという要素があり、それがまた作り手の世界を拡げる契機にもなるというものです。
    >日々の仕事に追われていると心のゆとり、豊かさとは縁遠い生活
    それは個人的な思考の領域を超えて、優れて社会的な問題(所得再配分、税制、土地住宅政策、社会インフラ、など)に規定されてしまうという側面が大きいのでね、困ったものですわ。
    対処法としては、自身の世界観、価値観を磨き、揺らぎがちな社会の動静に踊らされないようにする、と言ったような当たり前の方法論しか思いつかないのが寂しいところですね。

  • はじめまして。
    HP見させていただきました。
    ルーターマシンとシェイパーについて書かれているものを読ませていただいたのですが、私の少ない知識では、ルーターマシンは、上からビットが出ていて、テーブルか、ビットの固定部が上下に動くもの、ルーターテーブルの親分のこと、というくらいのものです。
    ルーターテーブルはDIY、ルーターマシンはプロ仕様、という感じでいいのでしょうか?
    それに対してシェイパーはまったくよくわかりません。
    画像などを見ても、下から大型のビットが出ているルーターテーブルにしか見えませんでした。
    上下に動くものなのでしょうか?
    海外の説明を見ても、ルーターテーブルでもできるのではないか、としか思えませんでした。
    ルーターとシェイパーとの併用、という文章が気になっています。
    どのように使うものなのでしょうか。
    DIYであれば、ルーターテーブルで済ますしかないのでしょうけれど、もしよろしければ教えていただけますか?

  • Kさん、私の解説が不十分なためか、混乱させてしまっているようです。
    以下、このコメント欄という制約の範囲で説明します。
    〈ルーターマシン〉
    ルーターテーブルとの違いの1つは、Kさんご指摘のように刃物が上だということ。
    ・これにより切削加工部を広い視野で確認しながらの加工が可能
    ・ハンドルーターのプランジ機能同様、テーブルの昇降(あるいは機種によってはヘッドの昇降)により任意のポイントに高精度でアプローチできる
    → 単に面取り作業、あるいは倣い成形に留まらず、多様な切削作業が可能となります
      例えば、キャビネットの大入れ(溝付き)など。(テーブルも大きいので安定的)
    ※ ルーターテーブルとの比較で考えますと‥‥
    ・切削作業において汎用性が高い
    ・高精度な加工が容易
    ・駆体、テーブルも大きいので重厚な板でも安定切削が可能
    〈シェイパー〉(高速面取盤)
    ・基本的な構成、機能は ルーターテーブルと似ています
    ・最大の差異はスピンドルが1”もありますので、大きな刃物が装填できます
     ▼厚み10cmほどのものでも一発で切削できる
     ▼周速度が圧倒的に高いので、切削肌がきれい→そのままサンディング仕上げに移行可能
     ▼周速度が圧倒的に高いということは、逆目にも強く破綻しにくい
     ▼日本国内の家具工房での導入は進んでいないようですが、欧米での普及度は高い
       椅子制作など、倣い成型を多用する作業工程では必須。
     なお、国内では1”軸のものしかありませんが、海外では1/2"、3/4"などのものあり、工房スタイル向けの選択肢も多いようです。
    なお(ルーターとシェイパーとの併用)ですが、
    ・上述したようなそれぞれの得意分野を活かし、といった意味合い、
    ・および回転方向が逆になり、順目での切削を追求できるという意味もあります
    ・刃物が上と下、という違いですが、被切削物の厚みに関わらず、同一の設定で面取り作業が可能なのがルーターテーブル、およびシェイパーです
     → 1つの部材で厚みが変化する場合でも対応可能
    コメント欄ではこの程度の解説が限界。おゆるしください。
    より詳細な解説をお求めでしたら、めーるでも電話でもくだされば対応します。
    DIYで木工を楽しんでいらっしゃるようですが、どのような木工をするのか、ということにより機械選択の基準も異なります。したがって一概にこうあるべきというようなことはありません。
    置かれた環境、めざす目標、その精度、合理性追求の有無、などで最良の選択をしてください。
    現在の私たちの置かれた環境からすれば、必要と認めながらも導入をためらうほどには、機械も工具も入手できないほどのものではありませんからね。
    ではDIY木工、大いに楽しんでください。

  • 詳しく解説していただきありがとうございました。
    プロの方と直接お話ができるというのは、ネットがなければなかなか難しいことです。
    またこのように貴重な情報をおしみなく提供してくださるプロの方がいらっしゃることにも大変感謝しています。
    >より手を加えれば、よりよいものができると信じて疑わなかった「若さ故の、未熟さ故の、過ち」
    こちらの文章も、非常によくわかります。
    (わかります、といっていいのかわかりませんが)
    そして、これを経験しなければ、次の段階に行ってはいけない気がします。
    いまはまず「より手を加える」ことができるように、いつかは合理的な設計ができるように、レベルアップをはかりたいと思っています。
    ありがとうございました。

  • Kさん、ご丁寧なコメントありがとうございます。
    どのような木工をされていらっしゃるかは分かりませんが、
    また疑問がありましたら遠慮無くどうぞ。

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