工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

建具(その2)

建具の技術的な側面からの特徴

建具というものは空間を間仕切りするものですので、その構成は基本的には家具が三次元の立体であるのに対し、二次元の平面体です。

一見、家具の方が高度な技能を要求されると思いがちですが、必ずしもそうしたものではないことは知っておきたいところです。
確かに家具を構成するエレメントは多様でしょうし、またそれぞれ複雑な構成になり、制作においてはそれに応じた複雑で様々な技能が要求されるということがあります。

他方、建具では平面構成とはいえ、装飾性の強い意匠の建具の場合などに典型的に視られるように、家具制作における指物師のように精緻な技法を投下しなければ接近することさえ許されません。

ま、確かにこれらは特殊な部類に属するものかもしれませんし、一般的な住宅に要求される意匠、構成においては基本的な木工技能を備えていればそれなりのものもできるかもしれません。
最近では窓におけるアルミサッシの普及に視られるように、工業製品の金属素材のものが積極的に導入されており、モダンな建築意匠では窓のサッシに留まらず、間仕切りから玄関ドアまで、金属製の建具を見掛けることもめずらしくないという現状があります。

そもそも、住宅建築における資金の融資においては外部に面する建具では防火性が問われ、木製など最初から排除されているわけです。

ますます住宅においては家具に留まらず、建具においても木製のものは分が悪いという状況下にあるわけですが、しかし、だからこそ、木製の家具、建具の良さ、品質というものを劣化させず、絶やさぬよう、日々弛み無く伝えていく必要もあろうというものです。

鉋イラスト

話しがテーマから少し逸れてしまいましたが、戻りましょう。

次ぎに、建具は住宅の1つの重要なエレメントであるわけですが、あらかじめ定められた固有の空間に嵌め込むことで、はじめて用を為すわけで、自由に作っても構わない家具とは異なり、まず何よりもボリュームの制約があります。
また、一般には敷居、鴨居などに収まる建具はそこをスムースに摺動させ、あるいは開閉させることが求められます。
3尺×6尺ほどの大きな建具をスムースに摺動させるには、まず何よりも季節変動、経年変化に耐えうる品質で無くてはなりません。

この要件を満たすには、用材の品質が特に重要です。
結論的に言えば、通直性のある材種であること、そのためには柾目木取りされたものでなくてはなりません。可能であれば四方柾が望ましいでしょうが、部材によっては一般的にはそこまで要求するとコストが大きく跳ね上がりますので、最低でも見付側は本柾を求めたいところです。

ただ、柾目材を用いたとしても、なお置かれる状況においては反張もあり得ますので、そうした厳しい条件の下でもスムースに摺動させる構造、精度でなければなりません。

一方、家具においては、そこに嵌め込まれる扉や引き戸は同様の素材の品質が求められますが、ただ住宅に納められる建具とは、そのサイズが全く異なり、より容易でしょう。

さらに、この家具に納まる建具を除けば、原木丸太を丸挽きして得られる部材でも十分に用に供することができるでしょう。
つまり建具には忌避される挽き材の板目でも、適切な配置を考慮しさえすれば、問題無く使えます。

私など、さほど大きくも無い扉であれば、縦框は柾目材を用いる事は変わりませんが、横框では上部には柾目、追い柾、下部には板目を厭わずに用いることさえあります。
この逆は、妙に上桟の板目が重く感じられ、そうした配置はしません。

組子

障子建具固有の部材で特徴的なのが〈組子〉です。

過日、アルミサッシしかなかったところへ、内障子を嵌めたところ、障子紙の白さと合わせ、開口面への太陽光の入射がリズミカルに配された組子を浮き立たせ、美しく映え、その光景には施主も感心していましたが、この障子というエレメントは日本家屋における室内意匠の欠かせない要素の1つではあります。

私は障子作りは初めての経験でしたが、自宅の和室に入れてもらった障子や、建具のテキストなどを参考に意匠を考え、設計したわけですが、建具の業種では、本来の伝統的な仕口はかなり簡略化され、合理化されているようです。

本来であれば、築100年以上前の屋敷などに納められている障子から研究し、参照すべきところでしょうね。

障子、組子の仕口など

障子の見込みは1寸が標準のようですが、いずれにしてもここに入る枘の割り付けはさほどの余裕がありませんし、また結合強度を図るためにも、二枚ホゾが基本となります。
障子の枘

また下桟のように、幅の余裕があれば、二段の二枚ホゾで設計します。
ヒノキも含め、針葉樹は軽軟な材質だけに、この基準は揺るがせにはできないでしょう。

なお、言うまでも無いことですが、二枚ホゾの効用はいくつかあるわけですが、結合度が高まるとともに、双方を打ち込んだ際のメチが起きにくいことが上げられます。

つまり、枘は丸ノコ昇降盤で加工するわけですが、枘穴は角ノミ盤で行うものの、設計通りに穿つことはなかなかの至難です。
私は精度を出すため、ほとんどの場合、芯芯に開口しますが、それでも精度を追求するのは難しいものです。

この機械の構造上止むを得ない特性であり、受忍するしかありません。
しかし二枚ホゾであれば、この精度の低さを補う効果があると言うわけです。

一般的な組子の場合、交差部分は〈相欠き〉になるわけですが、この嵌め合わせはかなりビミョウなものがあります。
そもそも2分〜3分ほどの見付(幅)に4分ほどの厚みが交差することになり、ぞれ自体脆弱ですし、少しでも無理があれば、全体を組んだとき、たぶん面としては大きく歪んでしまいます。

歪ませず、正しく平面を確保するには、高精度の相欠き加工が求められます。

また、加工過程でキチキチに精度を出しても、仕上げ削りの末、緩みが生じるのは必定であり、これを避けるには、ややきつめに加工し、〈超仕上鉋盤〉で一定の回数の切削で、最終精度を合わせるようにします。
手で押し込み、塩梅良く入る程度とでも言いましょうか。

また組子の面取りですが、格子の縦横は〈面チリ〉で納めます。
1分ほどの大きな面チリをよく見掛けますが、今回私はその半分の5厘ほどにしました。
面はしたがって〈糸面〉

ヒノキの鉋仕上げは決して難しくはありませんが、ただ刃は良く研ぎ上げて挑みたいところです。

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.