栗の巨樹を愛でる(拭漆栗・書斎机の制作)その4
拭漆
この大きなデスクですが、施主の要望が拭漆での仕上げということで承り、この条件を果たすのは木地の制作以上に困難なものと考えられました。
問題は大きくは2点あります。
まず何よりも大きすぎる、ということに尽きます。
脚部は接合前のパーツごとに塗れば良いので、2.6mの長さの桟が多いとは言えさほどの問題はありませんが、1m×3m(厚み65mm)という巨大な板への拭漆はやはり簡単ではありません。
ひっくり返すだけでも最低2人の力が必要となりますが、拭漆という繊細な塗面を傷付けずに、引っ繰り返すというのはひどく緊張を強いるものになります。
高品質な拭漆の工程ともなれば、最低でも10回以上は塗り重ねなければならないので、この度ごとにひっくろ返し、表裏をバランス良く塗っていくのが、湿度管理の面からも望ましい。
これを片方づつ塗っていく方法で、ひっくり返し作業を省略すると表裏の湿度バランスが悪化し、反っていくことにもなります。
2点目ですが、時期が11月ということで、漆の乾燥としては最悪の時期です。
ただ、真夏のよく乾く時期の場合、逆にこれだけ大きな板面では均質な塗装はとても難儀な作業ではありますので、考えようによっては、ムラになりにくいこの時期の方が良かったとも言えるのかも知れません。
拭漆を施さねばならない作業は後述するようにこのデスクの他、付随する抽斗のワゴンが3台あり、全体のボリュームとしてもなかなか大変な作業でした。
この困難な工程を伴う拭漆を担っていただいたのは、信州から、地元藤枝へと工房を移転させてきた、牧野弘樹さん。
設計見積段階で相談に向かった際にも、快く手伝っていただけることに。
依頼するのは初めての事ですが、家具構造にも習熟された方でもありますし、国画会での活躍ぶりからも拭漆には信頼がおけ、安心して任せられました。
また1m×3mという家具への拭漆ということで、粉塵などが無い、かなりの広さの塗装場が必要になるところですが、幸いにも倉庫に変えた私の旧工房の半分の床面積の空間が空いていたことでここを作業場にすることで解決。
連日ここに通ってきていただき塗装することに。
懸念された乾きの問題ですが、意外にもよく乾いてくれたようでさほどの困難も無かく、当初の日程で仕上げることができたのでした。
なお、このデスクと併せて制作したワゴンの拭漆に関しては木地そのものの問題があり、かなり大変な思いをさせたのでしたが、それについてはワゴンの項で。