工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

春を食する

春を食する『医食同源』という考え方があるそうだ。よく世話になるマーケットのチラシにも必ずと言って良いほどこの活字が踊っている。
そもそもは中国古来からの思想『薬食同源』から拡大解釈されたものといわれる。
今や我々の口に入る食物も大規模な生産設備を構え、大量生産されたものを資本という経済システムを通さねば入手できないものが増えている。
ボクたちは本来自然からの恵みであるべきはずの食品素材が、生産管理上、流通安定性のため、あるいは味覚のコントロールのため、などといった理由により様々な人為的な介入(薬品投下を含む)が為されることが所与の条件とされていることを知っている。
果たして現代人は『医食同源』を目指そうとしても、こうした食を巡る環境から逃れられないのだろうか。
せめて添加物の無い、氏素性を知り得る範囲でのものを取得できるよう心がけ、美味いものを食し、味覚を喜ばしてやりたいと思う。
画像は今夕の食卓。
天ぷらと、そら豆。
一昨日、静岡市内では最も新鮮で廉価に求める事のできる生鮮食品店で春野菜を探した結果、初入荷したばかりのそら豆を比較的安く求めることができた。
天たねは菜花、どんこの椎茸、カボチャ、わかさぎ、イカ、など。
【空豆】
空豆は、たぎったお湯にやや強めの塩を降り、茹で時間約1.5分。(昨年もこの時期、確か同じようなエントリーをしていた。進歩が無い)
しかし美味い。酒が進む。
【天ぷら】
素人では、なかなか上手にいかない料理の代表格か。
ポイントはやはり衣。冷水(卵を混ぜ合わせた)に薄力粉をふるいに掛けながら、ざっくりと混ぜる。
この衣の器を氷を入れた冷水のボールに重ね、最後まで決して温度が上がらないよう留意する。
たねの方もできるだけ衣に入れる前まで冷蔵庫などで保管するなどの配慮が必要。
天ぷらとは温度の激烈な転換による物性の変化なのだろうと思うが、このことによりシャキッと揚がり素材の本来の味が封じ込められ、より美味さが増す。
なお油の温度は180℃というがこれは素材によりけりだろう。
今日は海老は使わなかったが(実はほとんど海老は使わない→理由:海老はそのほとんどが抗生物質漬けであり、気持ち悪くて食わない)、ワカサギなど新鮮な魚介類は高温で短時間に揚げるのがコツ。
対して野菜はやや低温でじっくりいこう。
また素人のボクは例えばかき揚げの場合などは衣を付ける前には、まず粉を全体にまぶしてから、本来の衣をまとわす、という2段階のプロセスを取る。
これはビニール袋にまず適量の粉を入れておいて、ここに種を入れ袋を振りまんべんなく混ざり合わせるという方法を取る。
魚介類の場合も水気があるので、同じように粉をまぶしてから本来の衣を付ける事でより簡単にざっくりと揚げることができる。
ワカサギのほろ苦い味わい。菜花のこれまた独特のえぐみが春の到来を知らせてくれる。
まだまだ日本には四季を感じさせ、本来の食のエネルギーを保有する素材はいくらでも入手できるだろう。
これらをあまりいじくりまわさずに、いくつかの加熱方法により、あるいは包丁技により、食文化の体系のなかに料理としてまとめ上げれることが出来れば、もう何も難しいことを付け加えなくとも十分に『医食同源』を実践することができるだろう。
懐石料理屋の暖簾をくぐらなくとも、日々の食卓にこそ求めたいものだ。
■空豆:灰釉輪花向付   ■酒器:志野  いずれも小川幸彦 作

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  • 家具だけではなく家庭料理もこなし、医食同源まで考えていらしてこのエントリー?暮らしのプロでらっしゃいますね〜。器は小川幸彦氏のものだし…お邪魔したいぐらい。
    今年はまだ蕗のとうはでていないのでしょうか?

  • うーむ、うまそうな天麩羅。漱石でなくとも、食いたくなるね。ざっくりいって、料理も写真も、いや、もちろん木工もだけれど、玄人の域だねえ。
    こんなこときいていいのかどうかわからないけれど、なぜ、
    いつも旦那ばっかりで、奥さんがでてこないのかなあ……。
    ごめん、プライバシーに立ち入ってしまったかな。
    許せ。

  • 追伸
    「医食同源」は、中国が源流だと思うけれど、いまや朝鮮
    半島でも、きわめて盛んですよ。
    例えば、半島の人たちは、もう日本では廃れてしまった
    ハイキングがとても好きで、おっ、アルプスに登るのという
    くらい派手な格好をして、家の近くの低い山に登っては、
    その途中にある湧き水を「薬水」(ヤクスー)といって、
    有難がって飲んでいる。また、PETボトルなどに詰めて
    は、持ち帰って飲んでいる。
    とにかく、半島の人たちは、食にかけては日本人など足元
    に及ばないくらい、熱心に実行している。いいことだ。

  • aiさん、今日は真冬並みだったかも知れませんが、そちらもぼちぼち春めいてきたのではないでしょうか。来週21日はもう春分の日です。
    春の天ぷらとしては蕗のとう、たらのめ、ですよね。
    次にはぜひ。
    partisanさん どうも。
    ただの食いしん坊が高じて厨房に立っているだけですね。
    木工やっているよりも天麩羅屋のほうが成功者になっていたかな?
    木工は趣味として、店造りに活かす。
    ただ口うるさい亭主だろうから客は引くだろうね。

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