工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

家具メーカーにみる経営戦略の苦闘

「大塚家具」「ニトリ」そして新たに進出した「IKEA」と、大規模展開の家具販売が全国的に制覇しつつある中で、国内家具メーカーの経営戦略も苦闘を強いられている。
たまには地元の家具メーカーの展示会へと、いくつかの所用を兼ねて「静岡家具メッセ2006」へ出掛けた。
毎年この時期に開催される産地静岡の最大のイベントだが、ここ数年足を向けることがなかった。
静岡家具のイメージは全国的に見た時、残念ながら業界の人間でなければ判然としないのではないかと思う。
企業であればマーケティングリサーチに基づいた商品戦略を展開するのだろうから必然的なことなのかも知れないが、ここ数年は1つのメーカーであっても、猫の目のように毎年のようにコンセプトを変えて出してくるという傾向が見られ、全くそのメーカーの顔というのが見られないということに陥りがちに感じている。何が売れるのか戦略を絞れないままに専属デザイナーの提案に踊らされているということもあるのかも知れない。
このような中堅メーカーが数社に零細企業が乱立。静岡に限らず家具産地というところはいずれも似たような状況かも知れない。
今日はそうした中で意外に好印象を残してくれたのが大手メーカーの1つ。起立木工の商品群であった。


「和座(わざ)シリーズ」というタイトル。(参照
欅を用いたモダンデザインのリビング家具だ。
静岡はもともと脚ものが苦手と言われ、あまり優れた椅子を制作する歴史と伝統がなかったのだが、今回のウィンザータイプの椅子はなかなか洗練されたデザインであったし、作りも外観を見た限りでは基本を押さえた立派なものだった。
ただやはり欅を用いていることへの評価がどうなのか意見も分かれるところだろう。あまりにも和のイメージが刻印されている材種を使うことで訴求対象も限られてくるのではないのだろうか。あえてそこをねらったということなのかもしれないが…。秀逸さとキッチュさのぎりぎりのところか。
ウィンザースタイルだから、制作はさほど難易度が高いものではないだろうから、やはり素材選びとデザインが決め手だ。
かなり低めの座高と広めの座板。スピンドルの配置が少しユニークか。バランスが取れていて欅という高級感もある。塗装はまさに欅色にステインを掛け、ウレタン仕上げという量産家具での一般的な手法だ。
ディテールもなかなか好く作り込まれていてメーカー品としての制約の中にあっては秀逸なものであろうと思う
帰宅して対象サイトにアクセスすると、氷見義治氏のデザイン、とあった。
審査員特別賞を受賞していた。
なるほど、静岡のデザイナーとしては地元家具産業に大きな貢献を果たしている有能なデザイナーの1人だ。
ボクは数十人もいると云われる静岡の家具デザイナーとの交流は多くはない。
しかしその中にあってJ・クレノフを切り口として以前より交流させていただいている氷見さんには他のデザイナーとは異なる木工家具への真摯な取り組みと、そのデザイン力に敬服している者の一人だ。
「キッチュ」という物言いには怒るだろうな。ゴメンナサイ。
次いでこれも受賞対象になっていたものだが、杉山吉蔵さんのところの「ZUSI シリーズ」が印象的だった。

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  • ご無沙汰しております。以前森岡さんや城内さんに紹介していただいた函南町の安井です。ただいま熱海楠細工を作りながら家具も製作しています。たまたま熱海での展示会に氷見義治さんがこられ、今日函南の工場で静岡の家具業界や北欧の様子など楽しい話を聞くことができ元気をいただきました。杉山さんの家具作りも高く評価されていて、僕らも何より刺激になりました。楠の箱を充実すべきとアドバイスをいただきしばらく練ってみようと思っています。丁度日本民芸館で天秤枘の箱が酷評されてがっかりしていたので、もう一丁頑張ろうか・・というところです。 楠家具製作所 安井豊

  • 安井 さん、コメントありがとうございます。
    私は伝統産業としての木工芸をめぐる近況には疎く、気の利いたコメントはできませんが、伝統工芸の伝承が大切と言われつつも、住宅環境の変化、生活スタイルの変容には抗しがたいものもおありでしょうから、ご苦労されていらっしゃるのかもししれません。
    一方で、伝統工芸のワザ、文化を体得されていらっしゃることの強みは如何に時代が変遷しようとも変わらぬものがあるのも事実だろうと思います。
    公募展のお話しがありましたが、チャレンジ精神も尊いものですし、お役所の支援に頼ることなく、ご自身の力を信じ、インディペンデントの精神でたゆまず木に向かうことはすばらしいことですね。
    またお話し聞かせてください。

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