工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

面処理の大切さ

蛙股
家具制作における造形的作業のなかで、面処理というものは一見些末な部類に入るかも知れない。
しかしこれが意外に重要。
面処理が如何に丁寧に考えられて施されているのかどうかで、その家具の品質にも少なからぬ影響を与える。(と、考えている)
一般に量産家具においては多くの箇所がいわゆるボーズ面で処理されていることが多いだろう。
あるいはまた様式家具などにおいては銀杏面、さじ面などといった様々な伝統的な造形様式からくる面処理がなされる。
これらはその家具のトータルなデザインにほどよくマッチし、ディテールそのものが伝統的様式の美しさの重要なポイントになることも多い。
逆にモダンなデザインにおいては、こうした様式家具に用いられる面処理はそぐわない。ミスマッチになることが多い。
しかしだからといって何でもかんでも量産家具のようにボーズ面だけで良しというものではないだろう。
面処理が全体的なイメージに影響を与えるということはモダンなものであっても変わるものではない。
適切で美しいものでなくてはならないのだ。
かつてご一緒した家具展で隣接したブースのある工房の家具の後ろに1週間座ったことがあったが、それらの家具の背面は一切の面処理がされていなかったのには驚かされたことがあった。見えない部分は省略という訳だね。しかし搬送作業などでそこを掴めば痛いだろうな。ピンピンだもの。
このことはこの本件記事の意味するところからは余談に過ぎないが、工房家具と自称しているからには、丁寧な仕事を旨としたいものだ。
さて画像はCLARO卓の板脚部分。
側面をいわゆる蛙股(カエルマタ)型に繰り出している。これが正しく面処理という範疇に入るものかどうかは問わないで欲しい(苦笑)。
伝統的な様式の部類に入るかも知れないが、ボクは板脚に良く用いる型だ。
シャープな感じが出て、また陰影も豊かだ。
角度は20°だがほど良い傾斜だと思う。
中央の穴は貫の寄せ蟻部分。
残るは塗装。
実は今日前回のBlog画像を見たお客からこれを買い求めたいという要望の電話が入った。
完成前に押さえられるというのも希有なケースだがありがたいと思う。
Blogの効果でもある。
その電話で塗装についての要望があった。
通常ボクはテーブル天板については例え良質なウォールナットなどの濃色材であっても、耐水性、耐熱性、耐薬品性などへの配慮からウレタンをミックスしたオイルを用いることが多いのであるが、今回の要望は純粋な植物性オイルで塗装して欲しい旨の依頼であった。
顧客からこのような要望を受けるのは大変ありがたい。
メンテナンスが大変ですよ、と恐る恐る申し出ると、ご自身で慈しみながらオイルを塗りたいと仰る。
CLAROを身近に置き使っていただくにふさわしい顧客があらわれたことは実にありがたいことだと感謝している。
実は昨年同じCLAROの卓を購入していただいた顧客は自動車関連産業の経営者で、業務においてこのCLAROを用いた部品も製作していて、その魅力に取り憑かれていた人であった。
しっかりとしかるべき手法を用いて広く訴えれば稀少な材種を用いた価値のある家具と稀少な顧客との出会いという一見して困難なマッチングも可能であることをあらためて教えられた。
さて、個展が間近に迫っているということもあるのだが、今朝未明、近親者の訃報が飛び込みそれによる繁忙でしばらくは更新が滞ってしまう。

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