工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

みちのく顧客にいざなわれるままに(続)

結局翌日も終日そぼ降る雨の中で過ごしたみちのくの街だったが、「はやて」車中の人となった数分後、東向きの窓に流れる風景は急速に明るさを増し、あっ、やっとおてんと様が顔出したか、とため息をもらすと間もなく、車窓に納まりきらない大きさの虹が架かった。
雨が上がり、陽が射してくるという状況に起きるこの虹だが、冷たい雨に見舞われた二日間を締め括るにふさわしい天からの恵みのようだった。
虹が現れる条件。
低空に細かい雨粒が残った状態で、低い角度からの強い日射を受けて発生する気象現象。雨粒で屈折反射してスペクトラムが現れる。
まさに好適な条件であったのだろう。
二日目は食卓テーブルトップの再塗装と打ち合わせで過ごす。
日々お皿やお茶碗が置かれる過酷な環境の食卓であればいくつものキズが付くのが通例だが、驚くことに修復しなければならないような傷はなく、細かいものをアイロンと濡れぞうきんで直す程度で済ますことができ、ほぼ完璧に再生できた。
いかにこの家族が普段から大切に扱っているかという証左。
小さな子供たちがいるご家族だが、かなり厳しく作法を教えているのかもしれない。

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みちのく顧客にいざなわれるままに

岩手公園
覚悟はしていたが、やはり陸奥(みちのく)の新幹線駅を降り立つと既に雨がポツポツと落ちていた。
間もなく強い雨脚になっていったが、ホテルのチェックインを済ませ、そのまま向かった盛岡城跡公園の期待していた枝垂れ桜は濡れそぼり、しとどない姿で迎えてくれていた。
それでも手入れの行き届いた公園の様々な品種の桜は、晴れて満開であれば絢爛豪華な絵巻物であろうと想像するに十分な豪華さだった。

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小椅子2題

小椅子2題
ボクは欲張り。
さして能力があるとも考えていないが木工家具であれば何でも作っていきたいと考えている“うつけもの”。
つまりあえて言えばキャビネットメーカーと自認しているが、椅子なども良いものを作っていきたいと考えている。
数日前椅子の勉強会があったのだが、そこでの話し。
静岡という家具産地が苦手としている脚物、つまり椅子というジャンルを取り入れていかないとクライアントには見向きもされなくなってしまうという話しがあった。
タンスなどキャビネット類だけの展開だけで安定経営していけた時代はとうに昔の話し。
そのメーカーのオリジナルなデザインと、高い品質を提供できる生産態勢とともに、室内空間をトータルに提案できる総合的な力が必要という認識が高まってきているというわけだね。
うちのような小さな工房が同じような志向を持たなくても良いとは思うが、欲張りだから仕方がない。
椅子にあってもこれが工房悠の椅子なんだよと判ってもらえるようなものを作っていきたいと考えているが、今回は新たな顧客から複数のタイプの椅子の制作依頼があり、これが最後の工程、椅子張りから戻ってくることでやっと仕上げることができた。
主体は大小のソファであるが、今回はそれ以外の2種の小椅子について。
いずれ顧客の許しがあればあらためて撮影したいと考えているが、張りをフィッティングさせたところでワークベンチトップでのスナップ。
1つは座椅子、もう1つはスツール。

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「伊豆アートフェスティバル」へ

伊豆アートフェスティバル谷川晃一さんから「伊豆アートフェスティバル」の案内が届いた。
1993年5月に生まれたこの催しも、数えること16年目だね。
スタートした初年度から数回は取引のあったギャラリーオーナーに誘われるままに、華やかなレセプション会場にももぐりこんだりと足繁く通ったものだった。
多くのアーティストが、都心などからこの別荘地というのか風光明媚な保養地に移住して生活基盤を固めつつ活動している。
こうした独自の地域的特性を活用して、薫風さわやかな5月に伊豆高原一帯で展開されるのが「伊豆アートフェスティバル」だ。
平面アート、彫刻、工芸、etc‥‥、アートの切り口で様々な作品群が、作家のアトリエ、ギャラリー、ペンション、あるいは庭先で展開する。まさに高原全域がフェスティバルで賑わう。

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舞良戸

舞良戸1
室内の建具も最近ではもっぱら戸板に化粧合板を用いたフラッシュ戸が用いられるというのが一般的だが、日本建築の空間を仕切る建具を安易に考えて良いということにはならない。
ことに和風建築ともなれば、端正さ、粋に見せるための材質の選択、デザイン、仕事の品質が求められるというものだね。
今回用いた舞良戸は古来より広く用いられてきた建具の基本的なデザイン。
数枚の板で構成された戸板を舞良子と呼ばれる桟で直交させ、框で組んだ枠に納めるという簡素なものだが、針葉樹の板目の戸板と、戸枠、舞良子の柾目の端正さが活かされた存在感のある建具だ。

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杉の芳香

板戸
ここ数日工房に入ると独特の芳香が漂う。
杉の香である。
樽酒、和菓子の箱などにも好んで用いられるのもこのため。
産地によっても少し異なるのだろうか。
さすがに秋田杉というべきか。特有の香りは作業をしていても心地よい。
ただ、加工、仕上げではいささか苦労させられる材種ではある。
柔らかいことで傷が付きやすいことはもちろんのことだが、これは作業者が注意すれば良いだけのこと。
日本の針葉樹の中でも軽軟であり、また前回述べたように春材、晩材の強いコントラストは良い加工と良い仕上げを阻んでくるものとなる。

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秋田杉による快楽

このところ、それぞれかなりのボリュームを有する複数個所の納入を控え、慌ただしく準備に追われている。
既にいずれも塗師屋、あるいは張り屋へ託してしまっているので、これらの仕上がりを待つばかりであるのだが、1つだけ制作途上のものがあった。
板戸である。秋田杉一枚板の建具。
うちは家具屋であり、建具は範疇外ではあるのだが、これまでも建築内部の建具、あるいは玄関ドアなども制作してきた。
経済が好調の頃などは、贅を尽くした玄関ドアも作ってきた。
いかに贅をこらしたとはいえ、当時のトップメーカーのY社のものと比較しても、よほど良いものを作っても半値ほどで納入してきたから喜ばれたものだ。
今回は杉を用いた内部の端正な舞良戸。格式のある茶室の茶道口に建てる戸である。
一般には茶室の茶道口、給仕口に使われる建具の多くは奉書紙張りの太鼓襖を用いるのであるが、施主のたっての要望で板戸ということになった。

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マグダレーナ・コジェナー(メゾソプラノ)

J.S. Bach: Arias「Archiv」(アルヒーフ)というレーベルで最初のレコードを買ったのは、あれは16の頃だったろうか。
ヘルムート・バルヒャのバッハ・オルガン曲集だった。
ドイツグラモフォンの系列レコード会社だったが、ミニマルなデザインのシルバーのラベルは硬質な感じがとても格好良かった。
今では当時のコレクションは手元になく、「Archiv」レーベルであるのはどこにでもあるようなありふれたデザインのCD化されたもの。
しかしレコードというメディアからCDに切り替わったことで、新たな楽しみを得ることもできる。
この「Archiv」によるマグダレーナ・コジェナー(Magdalena Kožená’)のアルバムは10年近く昔に買い求めた(確か吉田秀和氏による紹介だったと思う)
Macに取り込んでいなかったものであらためて聴きながらクリップしている。
チェコスロバキア出身のメゾソプラノ歌手で、このバッハのアリア集は20代半ばの頃の録音。
実質的な世界的デビューアルバム。
このアルバムリリースで一夜にしてスターの座を獲得した。
今ではバロック界のメゾソプラノ歌手として押しも押されぬ第一人者。
収録曲、いずれも若々しい歌声ながら揺るがぬ歌唱力と深い音楽世界はバッハをボクらに引き寄せてくれるものとなっている。
なかでもマタイ受難曲 BWV244は秀逸。
YouTubeには彼女の歌唱によるこの曲はないので、別のもので失敬。(BWV179 カンタータ)

ある日のカフェ(BERGでの一杯)

BERG
普段田舎に住んでいて事欠くことはいくつもあるのだが、その1つが気の利いたカフェが皆無だということ。
これは仕方がないことで、求める方が間違いと言うことなど人に言われる前に自覚してはいる。
まだ若かった頃の一時期、首都近郊に生息していた頃の生活習慣、生活スタイルというものが身に纒はり付いてしまい、自身の快楽基準というものがそうした都市生活者ならではのスタイルから形成されてしまったということがあるのだろう。
かつてスターバックスコーヒーが地方都市に次々と進出していた頃の話しだが、長野県松本の信州大学の学生達がスターバックスコーヒーの出店を請う運動を展開しているというニュースに触れたことがあった。
なるほど、あの手のカフェの存否が都市化の1つのメルクマールであるということを強く印象づけた話しだった。
「オマエさんのとこにはスタバもないのかい?」と蔑んだ目で見られるのは辛かったのだろう。
ボクがカフェで頂くのはもっぱらエスプレッソ。
多くの男女に人気の泡立つ何とかかんとか、というのはゴメンだ。
30mlにも満たない暗褐色のドロッとした液体に魔性を感じ取ることを覚えたのもカフェであった。
最近はカフェの多くがイタリアから本格的エスプレッソマシーンを導入しているためか、どこもそれなりに本格的で美味しいものを供してくれるので安心して楽しめる。
カフェのあまり出来の良くない椅子に腰掛けて過ごす時間は、こうしたMacのタイプか、読書。
物書きの少なくない方々が喫茶店などで筆を走らせる、という話しを聞いたことがあるが理解できる話しだ。
日常が支配している生活基盤、自宅ではなかなか集中できない、ということもあるだろう。
あるいは単純に日本の住環境のプアさから、書斎などと言うものを与えられない悲哀からのエスケープかもしれない。
家人の掃除機を回す音だったり、TVからの嬌声などに心かき乱されることなどは、強権発動で抑えることは可能だろうが、しかしそこはあくまでも日常が支配する環境。
無論多くの人はそうした環境を受け入れ、私的作業に専念することができるものだろうが、むしろそれを忌避し、あえて雑音もあり、種々な客で賑わうカフェの方が私的世界に没入できるという人種もいるというのがおもしろいところだ。
物書きといいうものもデジタル環境になってからというもの、鉛筆、万年筆などの筆記用具から、ワープロ、PCなどにその記述スタイルを換えた人も多いと思われるが、初期の頃はとても外部に持ち出すほど簡便なものではなかったものが、今では1Kgほどに軽量化され、どこでも書斎が持てるという時代だ。
事実、今タイプしているこのカフェでもPC、Macを叩いている姿を見つけることができる。
ビジネスマンだったり、学生だったり、そしてこのヘンなオヤジだったり。

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《木工家ウィーク 2009・NAGOYA》のご案内

この5月中旬、愛知県名古屋市・市街地複数個所で木工家具の展示会、および様々な企画が包括された「フォーラム」で構成される《木工家ウィーク 2009・NAGOYA》が開かれます。
昨年の〈木工家ウィーク 2008〉を継承発展させたものですが、今年も盛りだくさんな企画内容となっています。
私たち木工家という生業(なりわい)は、日々の暮らしの中に木工家具を取り込むことで、より快適に、また美しく住まうということを提案し、また日々木屑にまみれて精励しているわけですが、主材である木材資源の供給不安、海外からの破壊的な価格での家具の流入、あるいは急峻な経済収縮という社会・経済状況の中で、その存在意義、持続可能性といったいくつかの困難な課題が立ちはだかっています。
こうした中で、あらためて木工家具というモノヅクリの現状というものを皆で共有し、また広く一般に問いかけ、その有り様を検証しようという企画でもあります。
先のBlog記事「新入りの若者に与ふ」でも書きましたが、木工家具制作という生業が意味する社会的意味、現在的意義は決して低下しているものでもなく、むしろこれからより広く深く評価され、求められるものであろうという確信はあるものの、様々な諸条件に阻まれ、必ずしも正当に評価されないということもあるでしょう。
それは消費財市場に貫かれる価値形態から弾き出されてしまう、という市場原理枠組みとの親和性からの逸脱ということもあるでしょうし、あるいは木工家側における消費者(使い手)への歩み寄りの欠如、独善性(独りよがり)、稚拙な制作手法と品質の問題といったネガティヴな問題もあるかもしれません。
一方では大衆消費社会に適合させることの困難から、私たちが手がける木工家具の魅力とその特徴というものが残念ながら社会的に十分に認識されてはいないという問題もあるでしょう。
それらの問題を共有し、また問題解決の方途を探り当て、もって良質な木工家具の制作に寄与させ、社会的評価を確かなものにしていければと考えるものです。
ぜひ広く皆さんのご高覧を得て、手厳しい評価を仰ぎ、ご指導ご鞭撻をいただければ嬉しいですね。
なお「フォーラム」の一部は有料での人数制限もありますので、お早めにエントリーしてください。
ボクは個人的には「木工家」という呼称を過度に宣明することは趣味ではありませんし、あまり閉鎖的な職業意識の宣揚も如何なものかという思いもあります。
ぜひ等身大での木工家具づくりの「今」をご覧いただき、また「フォーラム」にご参加いただくことで木工家具の魅力とその特徴についての理解を深める好機としていただきたいですね。
【企画概要】
1.フォーラム
  日時 2009年5月16日(土)13時 〜
  会場 愛知県勤労会館(つるまいプラザ)小ホール
 ■ 講演会  (有料)
  「中村好文・私のデザイン手法 − 建築と椅子 −」
      with 3 人の木工家( 村上富朗・高橋三太郎・谷進一郎) 
 ■ シンポジウム(無料)
  ・「暮らしの中の木工家具 ── 作り手と使い手を結ぶもの」
  ・各地木工家グループ代表によるシンポジウム
 
2、展覧会
  日時 2009年5月12日〜17日
  会場 名古屋市内各所
 ■『家具+展』 (ノリタケの森ギャラリー)
 ■『ひとつだけの家具展』 (東桜会館)
 ■『木工家が作る木のカトラリー展』(ラシック6階)
 ■『ポケットの中の木の名刺入れ・展』(BEWOOD SHOP)
 ■『ちいさな木の椅子100脚展』(セントラルパーク パークスクエア)
    (『ちいさな木の・・」のみ17、18日)
・主 催:木工家ウィーク 2009・NAGOYA 実行委員会
・後 援:愛知県、名古屋市
 *詳細はWebサイトでご確認下さい。
(当Blog管理者、杉山の作品出品はありません、実行委員として企画にご協力させていただきます)