世界の過酷さ、哀しさ、美しさ、そして地球の原初への賛歌《セバスチャン・サルガドー 地球へのラブレター 》映画
セバスチャン・サルガド(Sebastião Salgado, 1944年2月8日 – )については、このBlogでも過去何度か取り上げてきたこともあり、数冊の写真集とともに、それなりの印象を持っていたはずの積もりだった。
例えば、故郷を飢餓のために追われ、荒涼とした砂漠にボロを纏い立ち竦む一人の少年。肋骨の浮き出た犬を伴い、数個の食器を携え、視線も定まらぬままに、希望無き明日へ向かおうとしているかのような1枚の写真がある。
行き倒れになる旅路であるのかも知れないが、しかし留まっていることもできない。
あるかないかも分からない希望だけれど、留まっていれば死を迎えることだけは少年にも分かるのだろう。
明日を信じるのが、若い生命に与えられた特権だからだ。
この人間存在への限りない尊厳と希望。
状況も環境も、とことん悲惨なものだけれど、しかし明日を掴みにすっくと立ち、勇気を振り絞り、歩き出そうとする少年に仮託された希望をこそ、サルガドは切り取って見せてくれる。
こうした想像力を喚起させてくれる数々の写真に、他のフォトジャーナリストにはない、希有の才能と豊かな感性、そして常に内省的な視座を失わない人間性をそこに見出すことができる。
またそれが見事なまでのアングルと背景とのバランス、そして被写界深度、あるいは光量とコントラストはもちろんのこと、まるでスタジオ撮影であるかの如くに、完璧な写真として撮影処理されているのである。
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