工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ミズメのベンチ(続

手鉋での座繰り:ミズメ材
手鉋での座繰り:ミズメ材

座繰り

椅子の座刳りですが、数が多い場合は、うちではピンルーターで型板を使い彫り込んでいきますが、
こうしたベンチですと長尺であるため、それは難しい。
そこで、以下のようなプロセスを取りました

  1. 座板の外形を成形しておく
  2. 前脚、後脚、背部中央の脚、それぞれのホゾ成形
  3. 背当たりの束の丸ホゾ開口
  4. 座板への彫り込みの墨付け
  5. 型板作り:奥行きの最深部、つまり最も深い部分の彫り込みのための型板作り(型板A)
  6. 5、型板Aを基準として、手前部分までの彫り込みのためのジグのセットを作る(型板B)
  7. 型板Aを用いたピンルーターでの最深部の彫り込み
  8. 6、型板Bを用いたハンドルーターでの残りの彫り込み
  9. 手鉋仕上げ
  10. サンディング仕上げ
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ミズメのベンチ

制作までの経緯

ベンチは私の制作対象の中では決して多くはありませんが、それでも過去、10台近く作ってきているでしょうか。

今回制作したTop画像のものは同一意匠のものとしては2台目になります。
最初のものはWebサイトに掲載している(こちら)です。

このページにも書いたのですが、座板を円弧状にデザインし(ソラマメを長手方向に伸ばしたイメージ?)、これに合わせ、笠木も同じく円弧状に曲げているわけですが、この笠木は正面からも上部からも円弧状に成形され、その加工工程では大変苦労したものでした。

たぶん、もう2度と作りたくない意匠のものだと考えていたほどのものです。

ところが、これと同じものを作って欲しいとの依頼が飛び込み、いささか心中慌てました。
その理由には2つほどあります。

私としてはこのデザインは独立後 間もない時期の未熟なデザインということで、気恥ずかしさ満載なものであり、また前述の円弧状に加工する工程の難易度の問題がブレーキになります。

もし制作するのであれば、せめてディテールにおいて、あるいは全体的にもブラッシュアップさせた意匠で作りたいとの思いがあり、(こっそりと 苦笑)新たな設計プランを提示したのでした。

ところが、それらの作為はすべて見破られ、全く同じデザインでなきゃダメ、との厳しい注文。
その後何度かのやり取り、および現場見学などを経て、最終案へと絞り上げたものでした。
結果、大いに喜んでいただき、多くの汗も報われという次第。

顧客宅 名機タンノイが鎮座するリビングに納まったベンチ

上の画像は顧客のリビングに納まったベンチです。
タンノイのスピーカーでクラシックを聴くことが楽しみだと仰るN氏、このベンチが届くのを心待ちにしていたようでした。
遠方の方でしたが、制作途中の段階で工房にも見学に来られ、最終的な打合せを経て、完成に漕ぎ着けたものでしたので、愛着も十分のようです。

さて、以下、製作上のいくつかのポイントについて紹介します。

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不要になってしまったアメリカから取り寄せたテキスト

WOODCRAFT〉という米国の木工関連通販店があります。

インターネットなど普及する以前の30年ほど前からクレジットカードとファックスがあれば、国内では入手が覚束ない電動工具から始まり、様々なジグ、部品などがリストされ、これらを購入し、大いに活用してきたものです。

今ではネットで容易に商品選択と支払い決済が可能となり、国内でも多くの方々が利用されていると思います。

その取り扱い商品の1つのジャンルに〈Projects〉というものがあり、木工品の制作テキストなどを提供してくれています(画像Top)。
その中で私は1度だけ利用したのが、画像下の「Dust collector」(ある雑誌の一部のようですね)というテキスト。

ボール盤での切削作業で排出されるダストの集塵ホースの固定に用いる器具の設計および製作Planです。

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家具職人、晩年の人生を垣間見る

晩年の人生をどう送るのか、長く生きていれば均しく誰もがぶち当たり悩み考える課題だ。

私は世上言われるところの団塊の世代。周囲の同年の知人のそのほとんどは会社勤めをリタイアし、半減する給与に甘んじつ再就職で精を出す者もいれば、カミさんに邪魔者扱いされながら、のんびり ダラダラと孫の世話でうつつを抜かしつ、それまでの人生の垢を削ぎ落としつつあるる者も多い。
ごく一部には一念発起し児童福祉の社会活動のNPOに所属し、そこであらたな生きがいを見出し奮闘するといったような殊勝な者もいたりする。

さて、そんな中、私は相変わらずしぶとく木工職人として木埃にまみれる日々が続く。
だがタイトルの「家具職人」は私のことでは無い。恥ずかしながら私は自身の人生を語るほどに老成するには至っていないから。

木工家具職のロールモデルというものがあるのかは知らないが、個人的にはそれぞれ規範とする先人、先輩もあるのでは無いだろうか。

私の木工修行はその門を叩いた年齢はいわば壮年期で、この種の修行開始の年齢としてはかなり遅い。それでも独立起業までには数カ所で世話になり修業時代を送った。

ただ若くも無かった事もあり、いずれも1年を越えない短期間のところばかりで、またいずこでも良い弟子では無かっただろうと思っているが、幸いにしていずれのところでも技能修得から、木工全般にわたる初期段階のエッセンスを獲得するに十分な環境に置かせてもらったものと感謝している。

そんな中にあって、30年後の今も親方と呼べる人がいるというのは木工職人にとって幸せな事かも知れない。
タイトルの「家具職人」とは、この私の親方と呼べる人のことである。

鉋イラスト

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Macのある生活の更新

10年ぶりのiMac更新

私のメインコンピューター、iMacは快適に運用してきているとは言え、数年前からほぼ1年ごとに更新されるMac OSにも対応することができず、いわば騙し騙しに使い続けてきたものの、いくつかの必須のソフトウェアが使えなくなり、いよいよ運用の限界を越えてきていた。

それまでのMacは[iMac 27″ 2009 late]というマシンで、Mac OS の動作システム条件としては Mac OS High Sierra(10.13)まで対応するとのことなのだが、一度このアップグレードを試みたものの、動作がとても緩慢で使用に耐えるものでは無かったため、あえて Mac OS OS X El Capitan(10.11)にダウングレードするという苦々しい経験を強いられたものだった。 一般的にはOSのダウングレードは推奨されず、イレギュラーな手法でのダウングレードだった。

数世代前のOSであるとはいえ駆動そのものはまずまず快適だし、モニターも27インチというサイズに助けられ、美しいMac環境にさほどのストレスも感じさせること無く使っていただけに、このいくつかの動作不良問題でマシンの更新を余儀なくされるのは悔しい。

しかしこの日進月歩のコンピューターの世界では旧型に愛着を持つのも限界というものがあり、かなりの出費を強いられるものとはいえ仕方がない。

ここはむしろ、10年という短くない時間軸で使い続けてこられたことにはあらためて静かな感動さえ覚えるものがあり、今はこの断念を越え新たな環境構築に励むべき時なのだ。

1年ほど前から同機種の更新を待ち、その時点での購入を決めていたのだったが、このiMacの場合、2017年6月の更新を最後に、その機会は訪れること無く無為に時間だけが過ぎ去るという状況に耐え忍ぶ日々だった。

そしてかすかな希望を抱いた先月末のApple社のイベントに先んずること4日前、突如、新たなiMacが発表された(Apple.inc サイト)。

その内容だが、CPUの更新のみで、新奇性の仕様を提示するものではなく、いささか落胆させられた事は確かだったが、さらにこの2年先の更新を狙うだけの悠長さは持ち合わせておらず、ためらわず購入手続きへと入った。

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園児ロッカー

園児ロッカー
園児ロッカー

先に記事に上げた教会の調度品・講壇と併せ、併設する幼稚園の園児たちが使うロッカーの依頼があり、72人分というボリュームでの制作でした。

若い頃、松本民芸家具の販売店からの依頼で幼稚園家具の制作を何度か経験していますが、現在はこの種のものは請けていません。

先般も近くのフラッシュ家具工場の専務が訪ねてこられ、幼稚園の調度品を作ってくれないかとのお話しがあったばかり。
これには丁重にお断りし、付き合いのある他の木工所を紹介させていただくといった具合です。

ただ今回は教会の調度品制作の機会をいただいた際、もし可能であればということでしたが、
教会の主要な調度品の制作機会を頂いた関係上、条件が折り合うのであれば期待にお応えしなければいけません。

詳細な設計見積したところ、既製品より工房 悠 仕様の高い品質でも一定のボリュームがあれば既製品と遜色の無い価格帯で対応できることが確認でき、制作することに。

予算内で納めるのは決して容易なものではありませんでした。
このような場合、既製品の方は無垢材とはいえ、パインや間伐材のヒノキ、あるいは集成材などといった二等品を用いたものであるのに対し、無垢の広葉樹種を主材とし、品質のクォリティを維持しつつ、いかに生産性を上げるのかが鍵になります。

課題として以下のようなことがリストされます。

  • 主材の材種に何を選ぶのか
  • 品質水準を高めるための意匠と構造
  • 生産性を上げるための仕口の検討
  • 長期の使用に耐える耐久性
  • 園児の使用にふさわしい仕上げ品質をどのように満たすのか

 

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抽手の仕口を〈寄せ蟻〉で

寄せ蟻 抽手(手前左だけが加工済み)

抽手やつまみを木製のカスタムメイドで作ることがあります。

私は抽手やつまみは基本的にはハードウェアとしての金属製が望ましいと考える立場ですが、思うようなものが入手できない場合などでは木製という選択肢に拡げることもあります。

刃物ストレージ(抽斗部分はルータービット収納)

これまで多くの抽手を作り使ってきましたが、あらたに木製のハンドルを作ることに。
これは刃物の収納キャビネットを制作した際に試みたもので、いわば試作段階ですが、結構いけてますので意匠的にはさらにブラッシュアップさせたうえで定番にしようかと考えているところ。

形状に特段の新奇性があるわけでは無いのですが、仕口はちょっとユニークかも知れません。
抽斗前板との接合部(脚にあたる部位)を寄せ蟻の仕口にしてみたのです。

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BOSCH 12Vコードレス電動カンナへの羨望の眼差し

前回ご案内したBOSCHのエルゴノミク ハンディトリマ・GKF10.8V-8H ですが、バッテリーのLi-Ion化による蓄電量の増大を背景に様々な工具をコードレス化させている時代の1つの表象でしたが、同じ10.8V(12V)シリーズで、BOSCHからはプレナー(電動鉋)がリリースされています。

残念ながら日本国内での販売は無く、海外から取り寄せるしか無いのかなと思ったところ、Amazon Japanでの取り扱いがあるのですね(こちら)。
これはBosch Japanによる正規販売ではなく、輸入業者による国内取り扱いなのでしょう。

国内でも同じBoschの18Vのコードレス鉋を含め、マキタなど、コードレスの電動鉋を製造販売しているところですが、なぜこのBOSCHの10.8Vという非力な機種に興味を持つかと言えば、前回のBOSCHハンディトリマと同じように、刃の短さと小型というユニークさへの関心なのです。

一般には、前述のBosch、マキタも含め、小型の電動鉋のブレードの短いものでも82mmというのが規格になっているようです[1]

これに対しBOSCHのこの機種は56mm、そこに魅力を覚えます。これは一般的な手鉋と変わらぬ程度の刃幅ですね。

鉋イラスト

一般には鉋は可能な限りに幅が広く、長い台を持つ方が平滑に削れ、かつ作業能力的に優れていることは言うまでも無いのですが、大は小を兼ねない場合もあるのです。

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❖ 脚注
  1. ところで、この52、82、110、136、という刃幅、この数値ステップですが、なぜこのような寸法規格になっているのでしょう?
    卑見では、建築資材の柱などの2.5寸、3寸、3.5寸、4寸、という一般的な規格材を削るに適切な刃幅、という見方もできないわけでは無いですよね? []

BOSCH 10.8V コードレストリマー GKF10.8V-8H(追記あり)

BOSCH GKF10.8V-8H

ボッシュからコードレストリマーが販売されている事を知ったのは、最新のFWW誌 No.273の紙面からでした(右下)
その記事のタイトルは「Handy ergonomic router」というもの。

FWW #273 より

うちには Porter Cable〈PCE6435〉をはじめ、数種のトリマーがあり事足りているところですが、コードレスという利便性と、米国仕様では〈Palm〉と銘記されてるところからもお分かりのように、Handyで、ergonomic な構造と意匠にそそられ、購入に踏み切ったところです。

因みに、この機種の販売時期ですがAmazonには昨年3月の登録になっています(日米共に)ので、既に9ヶ月の余が経過するようです。知らぬは私だけだったのかも。恥;

Bosch Japanの公式機種名は、本件記事タイトルの通りで素っ気ないものですが、このFWW誌の表記こそがその特徴を良く捉えていると思いました。
以下、そうしたところを重点的に紹介していきましょう。

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マホガニーの講壇(Pulpit)2

前回に引き続き、少しディテールなど。
ただ、制作途上は時間的余裕も無かったことから、写真撮影は限られたものしかありません。

講壇本体

まずは講壇本体の背部からのショット。
駆体内部は棚が1枚。
机面はA4サイズの書見台の他、左右にマイクロフォンを置くスペースほどの広さで設計。
下はフリーな空間。

マイクはワイヤレスを使うという仕様で、本体への穿孔はありません。

最上部の〈〉状の枠ですが、ここは1枚の板を成形し、正面、側面を留め結合。背部はDominoを用いた枘の仕口。

その下の枠は傾斜させての留め結合です。
この留め部分、最初はうっかり正45度でカットしちゃったのでしたが、これが大間違い。
傾斜での留めの勾配は、規矩術による計算が必要とされますね。

留めはZeta P2などで堅固に接着させています。

こうした傾斜での枠構成ですが、設計段階ではお気楽に楽しく描けますが、いざ加工する段階となると、頭を柔軟にさせ、それまでの経験を総動員しつつ、慎重に挑まねばいけません。
また挑まずに容易な手法を選択すれば、その後のデザインの拡張も、技法の練達も閉ざされてしまうだろうことも明かですね。

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