工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

車知栓(しゃちせん)による三方留

車知栓による三方留の座卓

はじめに

「三方留」という仕口は旧くから広く一般に用いられてきた接合仕口の1つです。

家具の構成にあっては、四方に巡らせた枠組みに脚や柱を建てるというものですが、この3つの部材が留め接合、および傾斜接合となり、頂点を一点に接合させるというもので、したがって3つの部材の全ての木口は外部に一切見せずに収まるのが特徴となっています。

留め、という仕口はこのように木口を外部に表さない手法として尊ばれるものですが、高度な接合精度が求められるとともに、通常の枘では無いために、接合強度の脆弱さも問題になりますので、この克服がこの種の仕口のキモとなってきます。

接合精度が甘いと、仕上がった段階では気付かずとも、経年変化による収縮側への動きは留めの入隅から徐々に切れていくという思わぬ破綻を招くことが屡々あり、後悔先に立たずで自省を強いられることになるというわけです。 強力に接合されていれば良いのですが、少しでも甘いと切れ始め、一度スリットが空くとその部分が外気に晒されることで、そこからさらに痩せが進むということになってしまう。

それだけに、留接合にあっては、接合強度の確保ということが肝要となります。

三方留め

上の図版は《箱枘接》という項目として5つの事例を紹介するものです。

これはかつて家具関連雑誌の雄であった工作社の『室内』の別巻『インテリア事典1・家具編』「第五章 ジョイントの研究」、垂見健三氏により編まれたものから一部をスキャンしたもの。
約40頁もの分量を費やしてのジョイントの紹介となっていて、今回の「三方留」に関係するのはこの5つの事例が紹介されています。

今回の枠組みを想定した時、留めの接合強度の確保という問題意識から評価した場合、有為なものと言えば、M-4、M-6 の2つでしょうか。
他は留め接合がフリーであり、組み上げる場合、別途緊結するための方途が必要となってきます。

三方留め

このM-4、M-6 の2つの他、この後詳述する《車知栓による三方留》によるもの以外にも、M-3や、M4に「おしゃぶり」(いわゆる「鼓」と言われる緊結法)を併用したものなども用いられてきているようです(右図)。
ここまで手を尽くせばかなりの強度が図られるものと考えて良いでしょうね。

ところでこの垂見健三氏は雑誌『室内』において名だたる家具の特徴的な接合部位を中心として片っ端から壊して内部を晒すというユニークな企画を請けたデザイナーで、父親が大工だったようですが必ずしも指物の現場を知悉した人物では無いことから、こうしたやや半端なものでの紹介に留まったのでしょうか。
やや、いえかなり残念ではありますね。
この「第五章 ジョイントの研究」には他にもいくつも指摘したい事例がありますが、私の能力を超えるところもあり、止めておきましょう。

さて、このM-4、M-6 や、ここにおしゃぶりを加えた手法に対し、《車知栓による三方留》(しゃちせんによるさんぽうどめ)は留め接合面の全領域において強力に締め上げる機能を有するところから、とても優れた最強の接合法と言えるでしょう。

車知栓による三方留の座卓

車知栓とは

車知栓による三方留
車知道

この車知栓ですが、これはいわゆる「込み栓」と似たような「栓」を指すものの、大きな違いがあります。

建築 構造体の長手方向の継手に良く用いられる仕口でもあるのですが、2つの部材を継ぐにあたり、せん断面間に斜めに車地道を穿ち、車知栓を打ち込むことで、お互いの部材を強力に引き寄せ、もはや何があろうと揺るぎの無い接合が確保されるという効果をもたらすものです。

建築における「車知栓」ですが、『木造の継手と仕口』に様々な事例が紹介されています。

今回のように四方の枠を留めで接合する場合、この車知栓の技法を取り入れる事で、強力無比の接合を叶えることができます。

建築の継手は壁の内部に隠れてしまうものですので、この「車知栓」が外部に露わになっていても問題ありませんが、座卓のような家具においても、枠材に穿った小孔に差し込まれる甲板の裏側の隅に穿つもので、外部からは全く見えませんし、裏返しても、相当に意識しないとそれとは分からないものです。

松本民藝家具の座卓などにはこれが用いられ、いかに強力であるかを誇っているというわけですね。(この頁の後段の「中落卓袱台」の項、参照)

今回は座卓ですので、この車知栓で接合された枠組みに脚部を差し込むことになりますが、この脚部と枠組みは見付面では枠材とは傾斜接合で、内部はL字型の枘建てとします。

また座卓のような場合には、枠材と脚部材の見付の入隅側は矩形で繫げるのではなく、脚部の意匠と合わせつつ、なだらかな円弧状を描かせることが一般的です。
ここでも、そうした意匠としています。(Top画像参照)

シャチ栓による三方留 シャチ道

加工法

うちには[ホゾ取り盤]、という機械がありますので、これを用います。

「三方留」の枠組みの方は留め加工の精度とともに、2枚の枠の厚み方向の中央部が重ね合わさり、ここに車知栓を貫通させる車知道を穿つ必要があるため、かなり複雑な構造となり、それぞれに高度な加工精度が要求されます。

もちろん、手加工に自信のある方は留め定規などを使い、手鋸、手ノミで加工すれば良いでしょうが、切削面も大きくなるところから、切削能力、切削精度からすれば、機械加工ができるのであれば、そこに依存するのは合理的な考え方になります。

さらに厚み方向中央部を除き、上下に同一の留めの加工を一度に高精度に行うことができる機能を有する[ホゾ取り盤]を用いるのは、さらに優位性が高くなります。

ホゾ取り盤

ホゾ取り盤

ご存じのない人にこの[ホゾ取り盤]という機械を簡単に説明しておきましょう。

この機械は一般には建具の枘作りに威力を発揮するものです。
枘の胴付きを付け、枘を払い、序でに蛇口(馬乗り)の面取りまで一気にやってしまえ、というものです。

4軸の構成になっています。

A:被加工材の端切り(ハナギリ)用の横挽き丸鋸
B、C:枘の上下を胴付きとともに落とすための2個のカッターブロック
D:面取りカッター(馬乗り、蛇口などの面取り用カッター)

今回の三方留の加工はこのB,Cのカッターブロックを用い、一気に留めのラインとともに、車知道を穿つ部位ともなる枘を成形するのです。

ホゾ取り盤

この場合、留めが接合する2枚の加工材の枘は重なる位置関係になるために、1台分であれば、計8回の切削で終えることになります。

重ね合わされる枘の位置関係は、それぞれ三方留が逆になるわけですが、そもそもこの機械に固定する時、1つの枠材を左右逆転して切削するには裏表をひっくり返すことになることで、結果、重ね合わされる枘の位置関係が上下逆になるために、OK!というわけです。

馬鹿な私は、最初はかなり悩みました。ジグを別途作らなきゃいけないのか、とか、カッターブロックを上下移動させないとダメなのか、などと・・・汗;
(テキストの記述だけでは何が何やらさっぱりでしょうが、やってみれば簡単です)

案ずるより産むが易し、とはまさにこのことかと思うほどに簡単に終えることができたのでした。

このように留め部位はホゾ取り盤があれば容易な加工になります。
ただ、45度の角度設定のジグは正確無比に造る事が絶対条件ですし、またこの枘切削の加工はかなりの重切削になるために、通常はマシンに付属する材料押さえ機構だけで済ますところ、F型クランプなどを用い、図のように移動定盤に確実に固定させることが大切になります。

三方留の加工

脚部が絡んでくる木端方向の傾斜接ぎ切削は、平カッターを装着した昇降盤で行います。
ここでも脚部のサイズと木端のサイズから求められる角度を正確に三日月定規(マイター定規)に写すことが肝要です。

脚部の方も、同様に平カッターを装着した昇降盤で傾斜接の角度を正確に設定しL字型の枘を残して、傾斜面を削り出します。(言うまでもありませんが、上の枠材の傾斜接ぎとは角度的には直角の補角の関係になります)

枠材には脚部のL字型枘を受ける枘穴を彫り込みます。枠材の外側木端面にツライチに収まるよう、精度正しく彫り込みます。

枠材は脚部との傾斜接ぎの入隅側がなだらかなRを施しつつ、直線面として延びていく意匠となりますが、ここは今回の場合100mmという幅でもあることから、100mmの高さを持つ[高速面取り盤]による成型切削の加工を施しました。

注意! ただ、この裏側方向のみを削り落とすのは、木材内部の含水率の平衡を破ることになるため、必ず反ってしまいます。妻手側は900mmほどですのでさほどの影響はありませんが、長手方向はかなり問題となります。 これを回避するには、仕上げ寸法よりやや厚めに木取り、切削加工後、様子を見ながら、数段階に分けて仕上げていくという方法を取るしかありません。 いずれにしろ、この反張を少なくするためにもよく乾いた材を用いる事です。
三方留の框
三方留の框加工

車知道作り

この加工は少し難易度が高くなりますが、《車知栓による三方留》にあって最も肝心なところですので、大胆かつ繊細に彫り込んでいきます。

車知道作り

多くの方は手鋸と手ノミを使うのかも知れませんが、私は大胆にも昇降盤に2分のカッターを装着して開孔しました。

画像の通りですが、この車知道は傾斜させるのがキモなところですが、この傾斜切削が他の部位に干渉させることなく、機械加工できる逃げ道となるのです。
この機械加工後に、白書きで墨を付け、ここを手鋸、手ノミで入隅側を広くなるようにテーパーに穿つのです。

車知栓づくり

建築での車地栓には一般には堅木が用いられますが、家具では竹が良いようです。繊維方向での圧縮、剪断の耐性が強力ですからね。
私は過日、10月の闇夜の日に伐採した孟宗竹を空焼き乾燥させ、これを用いました

車知栓による三方留の座卓の脚部成形
脚部成形

材種のみずめ

今回の《車知栓による三方留》を用いた座卓はみずめで制作されました。
みずめと言えば、家具材としては松本民藝家具の主材として知られた材ですが、今ではほぼ市場から求める事が至難な材種となっていて、松本民藝家具では定番商品には用いられていないと思われます。

ただ私は以前から松本の材木屋から何度も紹介され入手してきた材で、枠材や、3寸5分の角材などはかなりのストックがあるものの、幅広の天板に供するものの在庫は底を突いた状態でした。

たまたま名古屋の松井さんの紹介もあり、2枚ほど幅広の材が入手でき、今回の座卓制作となった次第。
まだ在庫は残っていますので、どなたか興味があれば声を掛けてください。

なお、画像のように、これはまだ未塗装。
年明け後に拭漆する予定です。
みずめは硬質、緻密な木理を有し、導管配列が実に微細であり、拭漆は独特の趣を醸し出してくれるはずですね。

また今回の《車知栓による三方留》は[ホゾ取り盤]を用いましたが、手加工でおやりになっている殊勝な方もおられるはずで、我こそはという方がおられれば、ぜひまたその加工の苦労話などをお聞かせ頂ければありがたく思います。

車知栓による三方留の座卓
車知栓による三方留の座卓設計図

終わりに

では今年はこれでオシマイですね。
1年間、大変お世話になりました。
十分な投稿内容とは参りませんでしたが、さらにさらに、木工愛を追求していていかねばと心しているところです。
2021年もお付き合いいただければ、大変有難く思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

Covid-19パンデミックは決して容易に抑制されるものではなく、たぶん、2021年を通して私たちの日常生活を脅かしていくものと思われます(キホン的には集団免疫が獲得されねば、常に感染リスクから脅かされるものと考えるべきでしょう)
せめて、このCovid-19パンデミックによる感染リスクから解放された暁には、Covid-19パンデミックにより炙り出された、人の命も真っ当に守れない既成の政治社会の枠組みに替わり、少しでも生きやすい枠組みと時代相が私たちの前に立ち現れることを希求し、鎮に過ごしていきたいと考えています。

私は前期高齢者+呼吸器疾患を抱え、Covid-19からはハイリスクな人間として、感染後に訪れるであろう過酷な運命には一定の覚悟はできてはいますが、安易な死に方だけはゴメン被りたいものですよね。

身近な人と静かにこの特別な休暇を楽しんでください。

1年後の年末にもこうして元気のよい投稿ができますことを祈念し、アディオス! アミーゴ

hr

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