工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

椅子制作、いくつかの覚え書き(その4)

枘加工

枘穴加工

枘や枘穴の加工ですが、椅子の場合は一般的なキャビネット、箱物とは多少異なり、枘を穿つ部位が異形であったり、傾斜している場合がほとんどですので、加工ではこれらに対応させる個別具体的なアイディアが求められます。

これらに枘穴を開ける機械は、私たち家具工房の場合は「角鑿盤」が一般的。
こちらはあくまでも水平な定盤に、垂直に上下摺動する角鑿刃で開孔していく機構です。

したがって、この角鑿盤の機構に合わせるべく、異形であったり、傾斜している被加工材の枘穴部位が水平を維持し、このポジションをしっかりと固定させることが必要ですので、そのためのジグや型板を作成し、これに供しなければなりません。

ほとんどの場合、こうしたジグや型板を介することで、目的とする枘穴加工が可能となりますが、それでも駄目な場合は、手ノミで開ける、あるいはDOMINOやハンドルーターなどのハンディな電動工具を活用することで開孔することになります。

いずれにしても、ジグ、型板の作成が必要となってきますので、これらを作るためのアイディア、柔軟な考え方が求められます。

また、これは設計上の課題でもありますが、椅子という人体が触れ、この人体を支えるための堅牢性を確保するため、枘の強度が大切になってきますが、そのためには、より精度の高い開孔であったり、部位によっては枘の深さや、枘部位に繊維と交差する方向に多数の溝を施し、ボンドが効くようにしたり、あるいは組み上げた後、枘に向け外部から木釘を打つ、込み栓を打つ、ということなどはウィンザーチェアにおいてはごく一般に行われていることです。

精度の高い開孔、つまり枘の嵌め合いに関わる話しですが、ここは枘の結合強度に深く関わってきます。
枘が緩ければ、抜けるリスクがあり、強すぎればヒビが入り、割れるリスクがあります。
また枘の嵌め合いに問題がある場合、胴付きが密着されないことも良くありがちです。
こうしたケースでは、枘が例えしっかりと入り、接着材が効いていたとしても、接合部位に隙間が生じていることで、剛性においては著しい脆弱性を残すことになります。
胴付きを正しく密着されて初めて、本来の枘の強度が確保されることは肝に銘じたいところです。
椅子制作においては、人体を支える機構と接合強度が求められますので、この胴付きの密着度は特に重要と言えます。

枘加工

枘のオスの加工ですが、通常は丸鋸昇降盤で行いますが、このマシンで枘が作れれば、快適に行えますのでそれが一番でしょう。

ただ、傾斜角を有する場合が多く、その場合は、丸鋸を傾斜させたり、三日月定規に角度を付けたりと苦労することになりますが、この工程の一部をより高度にするため、補助軸のある丸鋸傾斜盤を使う、あるいは、さらにはホゾ取り盤を用い、複数のカッターブロック、横切り鋸で一気に枘を作る方法もあります。

うちのホゾ取り盤は、いわゆる一般的な活用法である、建具のホゾ取りなどに用いる活用法より、こうした曲者(クセモノ)のホゾ取りに威力を発揮してもらう方が多いです。

なお、前述、昇降盤・補助軸での加工ですが、通常は1つの枘加工に2段階の設定、加工が必要ですが、1度で高精度に加工する方法を取る事は有益です。

これは枘の厚みのスペーサーを挟み、同径の2枚の丸鋸で一気に枘を取る方法で、とても有効で合理的な手法になります。
このスペーサーの厚みですが、枘の厚み分に丸鋸のアサリ分 を加算した寸法になります。テストピースでの確認が必須。

経験的に学んだ椅子における枘加工の特異性

A 片胴付き

枘は二方胴付きが基本ですが、私の場合、より強度を確保するため、四方胴付きを用いることも多いです(強度確保が主たる考えですが、枘の木端側にボンドを塗布した場合、二方胴付きでは塗布されたボンドの大半が外に出てしまい、この除去が大きな問題になってきますが、四方胴付きであれば、このボンドのはみだしは回避できるという副産物があります)。

またこの四方胴付きは二方胴付きとは異なり、剛性が大きく強化されることは知っておきたいところです。二方だと胴付きの無い方向では外部からの圧力への耐性は低いままですが、胴付き部位があることで外部からの圧力に耐性が強化されるというわけですね。

ただ、椅子の場合、あえて片胴付きを用いる事もあります。

これは脚部の貫などの場合です。
一般的にはこの妻手の貫は前後の足の開きが異なり、そのために枘部位は傾斜が伴います。

この傾斜枘の加工上の非生産性を克服する1つの手立てとして、あえて片胴付きを用い、難易度を下げるのです。
胴付きに角度を持つ枘の場合、左右の胴付きの位置合わせがなかなかやっかいですが、これを回避するわけですね。
通常はこんなことはしませんが、傾斜のある、サブ的な部材である貫だからこその「逃げ」でというわけです。

なお、枘部位に傾斜があることで、こうした部位の枘は脱けにくいということ
があり、こうした片胴付きが許容されるという考えですね。
ただその分、精度の要求は高いものがあります。

この考え方ですが、実は東京・芝で戦前から本格的な洋家具の椅子を専門につくっていた古老の職人から学んだことです。

B 二枚ホゾ

これもAと関わるのですが、左右の貫と合わせH型の貫の構造を伴う場合、この左右を繋ぐ貫の枘を二枚で接合する、というものです。

例えば、左右の貫のその幅、わずかに20mmほどのところに、16mm厚の貫を枘差しする場合(20ー16=4mm、つまり上下に2mmの段差があり、ここを糸面に近い坊主面を取るという割り付け)、二枚となりますと、以下のような割り付けになりますが、こんな薄い枘で大丈夫?などと懸念される方もおられるやもしれませんが、実は私は昔は1枚で差していたのですが、経年劣化で抜けることが数台あり、これはイカン、ということで二枚にしたのですが、その後、こうした抜けることはありません。

二枚ホゾは決して2倍の強度が出るのではなく、さらに数倍の強度が出るのです。

さらに、大事なお話をします

この左右の貫を繋ぐ貫の長さが重要。
設計上より、胴付きはやや長めにすることが肝要です。
例えば、450mmが設計上の間隔だとすれば、1~2mmほど長くし、左右の貫がやや太鼓になるように張らせるのです。
この差配により、抜け防止の効用が出てくるのです。(これも古老の椅子職人から学んだところ)

お詫び

今回は解説に資するための画像がほとんど張り付けられませんでした。
用意できなかったからですが、申し訳ありません。
今後、同様の加工の際には、然るべく撮影し、このページに追記したいと考えています。
ご容赦ください。

hr

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