工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

椅子制作、いくつかの覚え書き(その5)

本稿、これで最後になりますが、〈面取り〉、〈仕上げのための削り〉について考えていきます。

面取り

椅子の面取りについては、特段の場合を除き、一般的には各パーツ、1分(3mm)〜1.5分(4.5mm)ほどの坊主面を施すことが多いのですが、ここ最近はこの種のものには、比較的大きく不定型なR面を施すことが多いです。

ソファ脚部
ソファ 脚部

板面側は20Rほどに、木端面は4.5Rに、といった感じです。
1つの事例として、最近製作したソファの脚部の場合を取り上げてみます。
手前が前脚で、奥が後ろ脚。
いずれも面取りを不定型な曲面としています。
この場合はそれぞれ、かなりのボリュームがありますので(60 × 150 mm)、板面が40R、木端が9Rといったところでしょうか。
右がこれを図示したものです。

ようするに、板面の幅、木端面の幅、それらの対比をそのまま面取りにも対応させたものとも言えます。

つまり、面取りとは言っても、手に当たって優しいとかといったことを越え、意匠として全体との調和を求める、意匠を構成する重要な処置であるということですね。

さて、この不定型なR曲面は、この目的に合わせた形状のルータービットを作れば良いのですが、1つの解決策として、例えば40Rの坊主面取りのルータービットのコロを通常よりも大きな径のものを装着することで、こうした目的の形状にに近似したR面が得られます。

その結果、板面は平面からエッジに向けなだらかな曲面が得られますが、他方、木端面は当然にも、なだらかさが損なわれ、エッジが立ってしまうことになります。
この部位は丸面や平台の小鉋でならしていくことで、目的とする面成形を叶えることになります。

この場合、大きな坊主面取りビットでは、コロとして用いるベアリング外径を多様に揃えることが必要で、中にはそうした考えのもとで、あらかじめ多彩な径のベアリングとともに販売しているケースもあるようです。(右画像)


鉋イラスト

また市場には、こうしたなだらかなR面を施すための既製品もあります。

市場に展開している既製品は当然にも使用頻度の高い一般性のあるものでしかないという限界がありますので、後は必要に応じて刃物屋に設計図を示し、製造してもらうことになります。(下画像の一部はそうしたカスタム製造のものです)

面取りルータービット
なだらかな曲面を成形するためのルータービット

このように、何でもかんでも、正Rで無ければならないということは無く、必要に応じ、適切な曲面を施すための知恵を発揮することが重要となります。

私も若い頃の四角四面の硬い頭から、かなり柔らかな思考スタイルになってきた証しでもあるということですわ。

余談ですが、先のソファの脚部の画像ですが、前後の脚を繋ぐ幅広の貫ですが、後ろ脚の結合位置は、不定型な曲面と〈面チリ〉の関係に納めました。
視覚的にはそれがより自然な感じを与えるからですね。

またこの貫の下部の面取りも、脚部断面同様、不定型な曲面をもたせました、
上部、ボンドが塗布された枘が見えますが、アームがここに納まってくるという構造です。

仕上げのための削り

前述したルータービットによるなだらかな曲面形状の造形も、場合によってはそのままサンディングでの素地調整へと向かせることも可能な場合もありますが、逆目の部位などに生じやすい荒れた板面などへは一般には手鉋などで仕上げることになりますが、ここは大小の丸面鉋、反台鉋、さらには南京鉋などでの切削を施します。

こうした手鉋での仕上げを避け、ヤスリやスクレーパーで仕上げる人もおられると思われますが、通常はこうした手法はお薦めできません。

過去、何度も語ってきたことの繰り返しになりますが、目的とする面形状、その精度などを獲得するには、台を持つ鉋ならではの圧倒的な優位性があります。
簡単に言い換えれば、ヤスリでは局部的な仕上げには効果的な場合もありますが、制御する機構が無い事で、その部位だけ過剰に削り込まれてしまうリスクが高いです。

またスクレーパーでも同様に局部的な切削になりがちで、全体として滑らかな造形、滑らかな木肌を獲得するには不向きです。
これはその工具が持つ機構的な限界であり、そこを理解することが大切です。

小鉋、反り台鉋、四方反鉋、これらはいずれも台鉋です。
台鉋は被切削材に沿わせながら必要量の切削を行うものですが、この台があることで切削部位を取り巻く台と接触する周囲のレベルから、刃の出、以上には切削はできません。
つまり台に制御されるわけです。

この構造上、あらかじめ有する機構により、切削の結果もたらされる切削面は、周囲となだらかに繫がるものとして獲得されるのです。
過度にえぐられたりはしないということです。

鉋イラスト

なお、ヤスリなどは買い求めればすぐにも使えますが、一方の手鉋は、これをまともに使えるものにするまでが一定の職能と時間が必要となります。
そのため、鉋の活用は避けてしまいがちなのでしょうが、継続的に木工をしていくのであれば、急がば回れで、鉋というものを自家薬籠中のものにすることが大切です。

一定程度、これらの鉋を習熟すれば、その切削力、造形力は何にも増して圧倒的である事を実感するものです。

“手作り家具”などと自称しているところなどでは、手鉋などは用いず、サンドペーパーで仕上げるところも多いと聞きますが、その結果、柔らかな春目の部位は落ち込み、硬い冬目の部位は出っ張る、そうした凸凹の仕上げではいかに立派な材を使っていても、残念な結果しかもたらしません。

繊維をシャープにカットし、平滑に削り上げる手鉋を用いる事で、その木材が内在する美しい板面が表れ、見事な仕上がりになりますし、曲面形状もまた、なだらかで視覚的にも落ち着いた美しいものを獲得することに繫がります。

これらの曲面成型にあって、そのRが反り台鉋、あるいは南京鉋が固有に持つ最低のR以下である場合、やむなく、切り出しや、ヤスリなどを補助的に用いる、といった使い分けをしていきたいものです。

hr

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