工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

3.11から12年 「原発回帰」という愚考

F1 3号機原子炉建屋(2011.03.15) 資源エネルギー庁より借用

昨年末、「原発回帰」の政府方針が示されました。

3.11後、当時の民主党政権下で定められた原子炉に関わる基本方針(原子炉等規制法)は「原則40年、1回に限り20年を超えない期間 延長することができる(最長60年)」と定められ、下野し、野党になっていた自民党の賛同も得て法制化され、その後の政府もこれまでこれを遵守してきたところです。

しかしここにきて岸田政権はこれを邪魔だとばかりに取っ払い、定期検査、原子力規制委の審査、事故での停止などの停止期間を運転期間から除外し、60年を越える運転を可能とするという暴挙に走ったのです。

これを聞いた時には、信じがたい驚きが、次ぎにフツフツと怒りが噴きだしたものですが、その後、我に返れば、口 アングリで、言葉を失い、呆れ果てました。

朝日新聞から借用 深謝!
原子炉のプラントというものは40年という設計寿命をキホンとし、これに準じた部品の調達と製造を行ってきているわけです。

現実はそれにもかかわらずとても複雑なシステムであるところから、運転期間40年以内であっても、これまで様々な事故が起きているのです。

また、例え運転停止期間であっても、原子炉プラントを中心とする原発システムは、時間経過とともに様々な部品は間違い無く、避けがたい経年による物理的変化から劣化していくものなのです。

法で定められた定期点検では確認のしようが無い、手が届かぬ張り巡らされたケーブル配線の被覆の劣化などはもちろん、原子炉プラントは中性子に照射曝露され、鉄の組成そのものが劣化し、プラントの耐久性への影響は避けがたいとみるべきでしょう。
これは中学生が考えても分かる、簡単な理科の常識です。

他の発電プラントとは絶対的に異なるのが、原発は壊れることを許されないシステムであるということです。 原発推進派は「原発は絶対に安全、安心なシステムなので心配ありません」と言い続けてきた結果が、福島第一原子力発電所、レベル7の最悪の過酷事故だったのでは無いですか。

40年という本来の運転期間を、Max80年まで伸ばそうという、この岸田政権のあまりにもノンシャランな姿勢は無責任極まり無いもので大変怖ろしい話しです。


とにかく、こうした劣化などへの考慮は目を瞑り、(日本の原発は堅牢で安全だからと)鉛筆舐めなめ、法を書き換え、怖ろしく長期に運転させようという欲望。

既に見事なまでに破綻しちゃた、3.11以前までの原発の安全神話を、さらに劣位に復活させる実に愚かなものですし、とても科学的で理知的な判断に基づくものとは言えません。

さらにこれに加え、廃炉対象の原発敷地内に、新たに「次世代型原発」を建造する計画が打ち出され、これらは〈GX実行会議〉(グリーントランスフォーメーション・実行会議)というところで決定され、パブコメを経て閣議決定という運びになるとのことです。

原発の運転期間 「原則40年」ルール 緩めてしまっていいの!?

FoE Japan

今後は、3.11後、それぞれの立地環境、耐震性などの検証から運転に能わずとされ、停止された状態の原発も再稼働へと蠢き出すことでしょう。

しかし、そのいくつかは当該地に居住する住民の避難計画は杜撰なもので、とても実効性のあるものとはいえません。
事実、昨冬の降雪時、福井周囲の自動車専用道路が数日にわたりダウンしてしまうことが明らかとなり、福井の原発銀座の事故ではとても避難対応が計画通りにいくとも思えない惨状を経験しているのです。

聞く力」などと人を食ったようなキャッチフレーズで登場した岸田首相でしたが、残念ながらこうした広汎な人々からの声は掻き消され、聞く耳を塞いだままに岸田政権と原発ムラは我が物顔に原発再稼働へとひた走るのでしょうか。

ところで原発回帰の理由付けですが、当初はカーボンニュートラルへ向けた世界からの立ち後れへの対応として原発政策を見直そうとする議論であったのですが、昨年2月のウクライナ戦争勃発以降のエネルギー調達の困難さを新たな理由にしてきているのが特徴的です。

いわば、このウクライナ戦争を奇貨としてという、そのあざとさに腹黒い原子力政策維持拡大への欲望を視る思いがしてきます。

確かに電力、ガスなどの料金の高騰は生活基盤を揺るがすほどまでになっていて、ウクライナ戦争の長期化を考えた時、エネルギーの価格高騰は今後においても大変危惧されるところです。


しかし、3.11後のエネルギー政策において約束した、原発の新増設はせず、再生可能エネルギーへの転換を図っていくという基本方針を貫いてくれていれば、このエネルギー高騰への耐性はできていたはずなのですが、残念ながらこれが大変危うい状況でこれまで推移してきたことで、「原発回帰」への後退へと踵を返そうとしているのです。

この時局を経産省幹部は「神風が吹いた。こんなに条件がそろうことはない」と小躍りしたというので、呆れ果てるではありませんか。

(朝日『原発政策大転換、経産省幹部「神風吹いた」 主導したのは首相最側近』

電力需給の逼迫というエネルギー危機であるのは認めざるを得ませんが、なぜ、その解決の方途が絶対に選択してはいけない「原発回帰」という一択になってしまうのか。そこがおかしいでしょう。

原発は運転コストが高いことは3.11後の議論でもさんざ明かされてきました。
3.11過酷事故による放射線による被災では、関連死数千名、避難を強いられた福島県下の人々が3〜5万人と膨大な犠牲を強いるもので、これをコスト換算すれば、トンデモ無い単価になります。

利潤追求を使命とする資本主義社会の企業である電力会社ですが、3.11福島第一原子力発電所の過酷事故による損害賠償額というものは、この会社が揚げる利潤から充当するとすれば数百年掛かっても負うことのできない莫大な額になります。
事実、東電は現在日本政府の管理下に置かれた国営企業に堕ちてしまっているじゃありませんか。

原発から作られる電力は安価というウソを振り撒くのはもう止めていただきたい。

再生エネルギーの可能性に後ろ向きな日本

日本でも海外に依存する事無く、自力で調達可能な再生エネルギーというものがあります。
ソーラー発電事業はこれまでかなり普及し、この電力調達の季節要因、時間要因のネガティヴな側面はCO2排出がより少ない天然ガスによる発電であったり、最新のLi-ion蓄電池設備の普及によりカヴァーできまると言われています。

加え、北欧ではかなり普及し、一般的になってきている洋上風力発電ですが、四方、海に囲まれた日本でもその有用性は高いものがあるとされています。

一方、アイスランドなどで主力の発電エネルギーになっている地熱発電ですが、火山で形成されたような日本列島では世界第3位という大変有望な熱源があるにも関わらず、未だ実験的なものでしか設備されていません。
地熱エネルギーは、時間にも季節にも左右されず、常に一定のエネルギーを放出しますので大変有望な再生エネルギーなのですが、なぜ日本では普及しないのか。

これには地熱を取り出す設備のプラントとしての難しさを始め、様々な理由があるでしょうが、何よりも障害になっているのは、九電力の絶対的とも言われている電力支配にあるからと言われています。
風力、地熱という日本にも大変有望な自然エネルギーですが、日本では政府と電力はまさに一体化し、そこを食い潜っての新規参入は困難な事が多いようです。

結果、総じて、日本の自然エネルギーによる電力調達は他国に大きく遅れを取っています。
下図の通り、日本の自然エネルギー発電が全ての発電に占める比率は主要国でサイテーですよ。

日本消費者連盟さんより貸借 深謝!

一方、ご覧のようにドイツではウクライナ戦争による天然ガス供給の弁が閉じられる直撃を受け、大変な状況にありますが、既に3.11直後のメルケル政権下、脱原発に歴史的な転換を果たし、自然エネルギーによる電力調達は40%を越え、2035年までに100%という構想を立て、これらは年々前倒しされるという意気込み。

元々、ドイツ・メルケル政権は原発を積極的に設備していく立場の政治家でしたが、3.11福島第一原子力発電所の過酷事故を受け、もはや人類は原発に依存すべきでは無い、自分たちは間違っていたと確信するにいたり、再エネへと歴史的な転換を果たしてきたのです。

驚くなかれ、デンマークに至っては7年後の2030年には再エネ100%を達成する見込み。
日本はと云えば、現在は20%で、2030年にやっと40%近くまで持って行こうかなといったところ。

確かに、天然ガスや石炭をロシアに依存していた欧州各国では原発の閉鎖延長など新たな電力確保の方針を打ち出してはいますが、40年間の稼働期間をせいぜい10年延長の50年と限定的なものであるところが特徴で、その間、この危機を機に再エネ設備増強を精力的に進め、原発依存度を軽減させていくようです。

岸田政権のこの度の「原発回帰」では、そのような将来展望は描かず、ただただ「原発回帰」を主眼としているようです。
政治哲学としても将来展望の無い、実に愚かな姿勢ですし、夢も希望も無く、ただただ原子力ムラに媚びを売るだけのものでしか無いのです。
とても悲しく、残念でなりません。なぜ日本はこのような後ろ向きの政策しか選択できないのでしょうか。

3.11福島原発、レベル7の過酷事故の悲惨から何も学ばない、これが果たして一国を預かり、将来世代に責任を果たせる賢明で正しい選択なのでしょうか。

原発促進の裏に隠された欲望

今回の原発回帰を考えれば、これはあえて原発にターゲットを絞ったなと思わざるを得ないものがありますね。

手元から離したくない、電力ムラ、原子力ムラの欲望の反映なのでしょう。
言ってしまえば、原発は20世紀においては夢のエネルギーで最新の科学技術の粋だったのですが、21世紀の今や、ボロボロの斜陽産業ですよ。
3.11福島原発の無惨な姿はこれを一気に促進させもしたのです。

およそトイレの無いマンションと形容される、使用済み核燃料の処理問題が典型的で、六ヶ所村に建造している再処理工場は完成予定の1997年から26年を経てなお、完成の目処が立っておらず、各原発は使用済み核燃料を保管することに四苦八苦しているという現状があります。

ところで、ご存じの通り、この使用済み核燃料は、これを濃縮処理することで、原爆を作ることができます。
イランや北朝鮮への原子力プラントへの査察が度々問題になりますが、この原爆製造への欲望を視るからです。

昨年、不幸にも亡くなった安倍元首相も、原爆の保有を欲望してた1人でしたが(中国新聞 2022.03

そもそも、1960年代に原子力の平和利用という名目で原発を日本に導入する先遣隊となった中曽根康弘、そして読売新聞社社主・正力松太郎の狙いも、実はこうした原爆保有への欲望を抱いていたことは良く知られたところです。

この度の岸田首相の原発回帰は、そうした日本の歴代政権が欲望してきた原子力の平和利用という名目での原子力を手放したくないことを隠然と表したものではないかと思わざるを得ません。

「原子力小委員会」のペテン

この原発回帰は昨年末に閣議決定され、今の国会で議論が始まっていますが、有権者に問う事無く、もう決めちゃってるのですね。
これが軌道に乗れば、自然エネルギー開発は意欲を絶たれ、電力構成における再エネはますます世界から立ち後れていくことは必至でしょう。
この原発回帰は経産省の「原子力小委員会」というところで審議されたものですが、原発に批判的な委員は21名のうち、わずかに2名だけ。

確かに世論調査では3.11直後から10年後位までは脱原発が圧倒していたのでしたが、ここ数年、原発事故の風化とともに、この脱原発の意志は徐々に希薄化してきたことはその通りでしょう。
特にロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機が煽られ、脱原発の意志も崩れつつある傾向は否めないかも知れません。
しかしなお、21名中。わずか2名というのはあまりに偏っていませんか??

加え、原子力小委員会では、まともな議論が展開されたとはとても言えない状況であったようです。
委員の原子力資料情報室・松久保肇さんのインタビューがあります(東洋経済 「原発回帰」大転換に政府審議会委員が激怒する訳」

3.11を経験した日本のエネルギー政策決定がこんなことで本当に良いのでしょうか。

日本経済の低迷と、九電力支配

今、日本は経済的に大きく低迷しており、賃金もこの30年、まったく増えていませんし、平均賃金、最低賃金ともに、隣国の韓国にも数年前に抜かれています。

これにはいくつかの複合的な要因があるでしょうが、何よりも生産性の低さが経済指標を押し下げていることが大きな要因と言われています
安倍政権によるアベノミクスは、日銀総裁の交代の時期でもあるところから様々に総括されつつありますが、その焦点の1つが30年前から実質賃金は向上するどころか目減りしている事で、この春の各企業における労使の春闘が例年になく盛り上がっています。

アベノミクスの失敗は稼げる産業を開発してこなかった日本社会の問題にあることは明らかですが、低賃金で喘ぐ労働単価押し下げの問題も、労働の流動性の問題とともに、ここに帰因します。

電力調達における九電力支配はその象徴と言えるでしょう。
岩盤のような既得権益構造による支配から抜け出そうとせず、3.11福島第一原子力発電、レベル7の過酷事故にもかかわらず、誰ひとり罰せられること無く経営者を擁護する。この腐りきった産業構造が、日本社会の希望を打ち砕き、やがては知らず知らずのうちに、世界から大きく取り残されているではありませんか。


世界的企業であった東芝が経営不振に陥っている理由にはいくつかの事があるでしょうが、まず言えることは原発ルネッサンスなどともてはやし、ウェスティングハウスを買い取ったものの、これが破産してしまったことで1兆円という損失を計上し、一方、日立はGEと合弁会社を造ったものの、米国の原発事業で大赤字を出すなど、いずれも原発絡みで屋台骨が揺るがされていることは象徴的です。

斜陽産業の原発などにかまけていることで、大損失を重ね、成長産業への投資もままならない。これが戦後日本の繁栄を牽引してきた代表的企業の惨状です。

3.11後、この福島原発事故を反省し、原発に依らず、再エネ産業を開発、創業させていれば、あるいは産業界での裾野の広い自動車産業において、いち早くEV化を図り、生産性の高い製造業も創業させていれば、今のような惨憺たる産業の衰退は止められていたのでは無いでしょうか。

そうした思考とは真逆に、いまあらためて原発回帰への旗を振るとは、ますます日本の産業は九電力、原発ムラなど、既得権益者にすがるばかりで、成長性は展望できず、衰退の道を歩んでいくことになってしまいかねません。

ザポリージャ原発へのロシアの占拠と、ミサイル攻撃

AFPより借用 深謝! 

上の画像は昨年8月のロシア軍の砲撃を受けたザポリージャ原発への着弾の様子で、放射性物質が拡散する恐れを報じたAFPのもの(記事はこちら

直近の記事はこちら(「ロシア、ザポリージャ原発を「核の盾」に 地元市長インタビュー」)

今、原発回帰の一方、安保三文書の改悪とともに、白昼に「敵基地攻撃能力(反撃能力)」が堂々と語られつ、軍靴の響きが一気に高まるという怖ろしい時局に入っていることはご存じの通りです。

そんな中にあって、原発回帰はどう考えても矛盾する話しでは無いでしょうか。

これまで営々と築き上げてきた、世界に誇るべき平和国家を投げ捨て、トマホークを400機購入し、「敵基地攻撃能力」を保有させようとしているということは、当然にも日本国領土への攻撃を暗に前提としているわけです。

敵国はどこを狙うのか、政府の主要拠点、主要産業、大都会、いろいろ考えられます。
ウクライナ各地の住宅には地下室があったり、大きな施設には地下壕があり、ロシアのミサイル攻撃があれば、そこに避難する様子が伝えられていますが、日本にはそんなモノ、とても少ないですよね。
どう考えているのでしょう?

そしてさらに、敵国の主要なターゲットの中に原発が無いとは言えないでしょう。
事実、ロシアはチェルノブイリ原発ザポリージャ原発をターゲットとし、頻繁に攻撃を仕掛けているではありませんか。


ミサイルがプラントに直撃すればどうなります?。

ミサイルが原子炉に命中すれば、一発でアウトです。原発の立地地域のみならず、周囲一帯、あるいは日本列島一帯、放射線はバラ撒かれ、一挙に国土は人間の生存不可能な荒れ地と化すのです。

いえ、原子炉に命中せずとも、送電系統は無論のこと、プラントに張り巡らされた配管が損傷するだけでも、冷却系統がダウンし、たちどころに原子炉は牙をむき出しにし、メルトダウンに陥り、人間が管理できる閾値を越え出て、暴発していくのです。
3.11福島第一原子力発電所過酷事故はそのことを目の当たりにさせられたじゃありませんか。

画像を見れば推測できるかと思いますが、ザポリージャ原発はヨーロッパ最大級の原発で、誰しもが、ロシアによるミサイル攻撃を視て、震え上がり、もはや原発の存在そのものがとても危険なモノで、こうなれば脱延発の道しか無いと腹を括ったのでは無いでしょうか。

ザポリージャ原発はヨーロッパ最大級ですが、世界最大級はどこにあるかご存じですか。
総出力821万kWという世界最大の原発は日本にあります。日本海をはさみ、北朝鮮と向かい合う位置にある柏崎刈羽原発がそれです。

この原発は頻繁にトラブルを起こすところから、記者会見席上で東電経営陣の頭を垂れる画像が焼き付いている人が多いのでは。
こうした冷徹な状況におかれた原発への依存性を高め、原発回帰の掛け声を掛ける一方、これとセットのように敵基地攻撃能力の保持にやっきになる、まるでブラックジョークです。

軍拡と、「敵基地攻撃能力」の保有とは、こうした戦争のリアルな想定の上に策定されるべきであり、国会の議論からは日本政府は全くこの問いにまともに応えられるだけの用意が無いのです。

今まさに展開されているウクライナ戦争のリアルは、そのことを私たちに厳しく問いかけています。

それでもなお、原発回帰なのですか?

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