工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

反張直しはコールマンストーブで

コールマンストーブ

木と、クランプと、コールマンストーブ、この組み合わせはいったい何だ。
古くからの読者はお見通しかもしれない。
板の反張を戻す作業に関わるものだ。

板は製材したばかりの時は、基本的には平滑に切り取られているわけだが、その後の天然乾燥、人工乾燥の過程、あるいは在庫保存の過程、様々な要因をもって反張することは知っての通り。

ボクたち木工職人はこうしたことを前提として木取りする。
例えば、厚み9分(≒ 27mm)の板が取りたい場合は1寸1分(≒ 34mm)の荒木を用意して臨む、といったように。
しかしこの一定の基準に納まらないケースもは少なくない。

原木のアテ、節、など、その樹木の生育環境により樹木の内部に強い内部応力が潜んでいるために、これが製材後に解き放たれ、反張するというような原因が多い。
こうした時、この板はどうするかと言えば、焼却炉に捨て去るなどと言うことは恐れ多くできないわけで、小割の部材に回すなどして、歩留まりを抑える。

一方、どうしても目的の部材として使いたいこともよくあること。
そうした場合、やむを得ずこの反張を人為的な外部圧力を加えることで反りを戻すという作業を行う。

この作業は意外と簡単なことで、板の内部に残る水分を活用すればよい。


板は一般には気乾比重まで乾燥を行ってから加工工程へと入って行くわけだが、この板には完全に水分が消失しているかと言えばそうではない。
消失させねばならないのは自由水というもので、これを乾燥させることで木の物理的特性を増大させ、また伸縮の少ない安定した状態を獲得する。

この自由水の他に、頑固に抜けない水分もある。これを結合水と呼ぶ。
(この結合水を除去してしまうと、木はスカスカになってしまい、本来の強度を損なってしまう)

反張を戻すのはこの結合水を外部からの加熱で活性化させ、木が持つ本来の可塑性以上の柔らかさを与えてやればよいということだ。

昔は多くの木工所には焼き盤というものがあった(らしい)。
反った板をこの焼き盤に入れ、定盤下の釜に薪をくべ、上のプレス機のような機構のものを操作することで戻してやる。
(画像でもあれば良いのだが、所有していないし、絶滅しつつある釜のようで、ネットでも見つからない)
うちにはそんなものはないので、コールマンストーブの力を借りている。
本当を言えば、冬であれば薪ストーブを使うので、これが最高。
あるいは簡単な一斗缶などのコンロで薪を焚くのが良い。

でも大きな部材でなければ、このコールマンストーブのパワーでもいける。
屈曲している周囲を満遍なく焦がさないように加熱し、その後、梃子のように曲げて反張を取る。
クランプを使っても良いだろう。
コツは熱が逃げないうちに一気に捻り取ること。

反張が戻れば、その後粗熱を取ってから(シーズニングを経て)、次の工程に移る。
ところが、コールマンストーブが圧力を掛けることができず、ガス化しない。
ポンププランジャーが経年劣化でいかれちゃっている。
いつ購入したものだったかな、とケース裏を確認すれば、1988年。20年も昔だ。

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あの頃、時間があれば自転車を車の屋根に縛り付け、カヌーを縛り付け、さかんに山へ河へと出掛けていたものだった。
当時はまだまだそうした人は少なく、キャンプ地も静かで、マナーも良く静かに楽しめたものだったが、数年経ち、後にバブルと言われる時代へとなだれ込むと、カラオケセットを持ち込むわ、花火は上がるわで、キャンプ地は街中とちっとも変わらぬ様相を呈し、スゴスゴとそうした遊びからは足を洗ったのだった。
そうしてコールマンストーブはパスタを茹でる役目を卒業し、木の反張を直す道具へと成長してくれたのだった。

苦々しい思い出は忘れよう。
ポンププランジャーを取り寄せて修理すれば、まだまだボクが必要とする先々数十年は良い炎を出してくれるはず。

さて、下の画像はカセットコンロを台所から引っ張り出してきて反張を戻し、
木取り後、倣い成形しているところ。
これはクルミだったので、案外ラクチンに反張を取ることができた。
ところで、木をあまり良く知らない人が、反張を修正する方法として、水分を与えて戻すという方法を取ることもあるかもしれない。
確かにこの方法を取れば良く戻る。

しかしいずれ水分が蒸発すれば、元の木阿弥だろう。
あくまでも内部の水分を利用して行うのでなければアカン。

木を知り、己を知れば、百戦危うからず、な〜んてね。

秋も深まり、北の工房ではそろそろ薪ストーブを設置しつつあるかも知れない。
手と身体をしっかり温めて、安全に作業をしてください。
ただチロチロと燃える木を見つめているだけでも幸せだね。
ストーブの天板の上に燗を付ける鍋を置くのは、もっと幸せになれるけれど、終業後にしましょうね。


*参照過去記事
反張は炎の力で
板の反りの修正
倣い成形

《関連すると思われる記事》

                   
    
  •  こんばんは。 懐かしいストーブですねぇ、僕も同型の少し新しいのを未だに持っています(反りの修正には使ったことがないですが、、専ら、雪を溶かしてました)。
     大きな板の反りを電気毛布とカバー、鉄骨の切れ端を重しに修正したことはあります。
     ただ濡らすという方法はへこみやキズには有効ですが、反りには効きませんね、煮る、という方法もあるそうですが、、そこまでして、と思います。木はもともと真直ぐに生えたがっているのですから、イジけた部分を戻そうとすることに対しては割と素直に従ってくれているような気もします。
     相変わらず今でも、キャンプ場は宴会場のようですよ、花火や音楽は本当に迷惑ですね。

  • たいすけさん、あなたならこのコールマンストーブ、持っていると思いました。
    定番ですからね。(今はコンパクトに収納できるカセットタイプのものが主流なのかな)
    ランタンもコールマンでしょ。明るさは最高ですから。
    建築に用いる構造材となると、反張の直しはなかなかでしょうね。
    昨今は生材に近いものを使っているようですので、ボクたちにはちょっと想像も付かない乾燥による偏倚もでるのかもしれませんね。
    全くスケールの違う話です。
    キャンプ地は日頃のストレスを発散させるための非日常空間ですので、騒ぐのも理解してあげたいところですが、
    自分としては、公共空間としてのマナーがあるところで楽しみたいですね。
    山中、ソロの小さなテントで一人静かに星空を見上げるものも良いものです。

  • 私はプリムスの石油ストーブを使っていました。
    ガソリンを背中に背負って歩くのは何となく不安だった
    こともありますが、ガソリンのように簡単には気化しない
    石油をだましだまし気化させて点火させる儀式のような
    物を楽しんでいました。
    焦がさないように熱するのに少しコツがありそうですね。

  • こんばんは。
    スマートさには欠けますが、もっぱらペール缶使用の
    ロケットストーヴを愛用してます。
    小枝少々で数リットルを沸かせます。
    エマージェンシーにもおすすめですよ。

  • acanthogobiusさん、プリムスですか、玄人好みですね。
    プリムスも今は分離型のカセットボンベが主流でしょうか。
    結構、焦がすこともありますね。
    その後にプレナー通しますので、表面だけであれば影響は無いでしょう。
    やはり遠赤外線の薪を使ったストーブが良いようで。

  • うずまきさん、火を一人前に扱うことができるのが大人の証しでもありますね。
    毎日毎日BBQでは胃が持ちませんよ(笑)

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