工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

雑誌『もくたろ』創刊

mokutaro1つの雑誌がこの12日に創刊された。
『もくたろ』というちょっとユニークな誌名を持つものだが、ここで少し紹介しておこう。
『もくたろ』という誌名には「つくる家、直す家」とサブタイトルされているように、これから住宅を新築しようという人、あるいは改築しようという人に向けた雑誌だ。
さらにその出版企画意図は、この創刊号の特集に明確に表れている。
その特集は「板倉の住まい」。
4寸角という太い柱に1寸の板材を落とし込んでいくという素朴で堅牢な構法、いわば木造建築の原点のような構法を「板倉」と称することは周知の通りだが、これを実際の建築現場に取材し、日本に於ける建築の在り方を共に考え、広く提示していこうという、メッセージ性のある熱い雑誌だ。
建築業界に関しては語るほどの知見があるわけでもないが、素人でも分かる指標として日本の住宅建築の耐久性についてのデータがある。
何とこれが30年と言われているのだが、人生最大の買い物と言われる対象にしては、あまりの品質の低さに驚くばかりだ。
確かに湿潤なモンスーン気候の環境下で堅牢性を維持するのは容易いことではないのは分かるのだが、恐らくはその問題点の前に、ある時点を転機として住宅建築の基本のところで間違ってきてしまったということも無視するわけにはいかない。
戦後から徐々に始まった米国からの建築工法の導入と、それとともに入ってきた工業素材の如くの木材資源の問題のことである。


ハウスメーカーが続々とこれを採用し、大衆消費社会の席巻と軌を一にしながら住宅建築も消費資材の如くに市場へと送り出され、一件きらびやかで偽りの住み心地の良さに騙されて大枚はたいて購入する消費者の群れ。
その結果もたらされたのは、70年代、80年代に建築された住宅の劣化と、一昨年、社会を大きく揺るがした耐震偽装という帰結であり、また一方での日本の森の荒廃だった。
昨年のリーマン・ブラザーズを起点とする強欲金融経済の破綻と、累々とした製造産業の破滅的状態という問題は、恐らくは戦後社会の在りようというものを経済界に留まらず、なべて社会全体に問いただすインパクトを与えるものだったように思う。
経済界の主要なところでは、こうした批評は受け入れない(受け入れると言うことは自己否定に繋がることでの拒否反応)だろうが、問題の核心を見据えることを避けているだけでは希望を見出すことなどできはしない。
建築業界にあっても、洪水のように流入してきている輸入木材、そして米国型の安易な建築工法というものを、根本的に見直す最後のチャンスかもしれないとさえ思えてくる。
このような2009年の現況を見れば、こうした原点回帰を志向した建築雑誌はとても良い出版企画だと思う。
まだまだ日本には国産材、地元の森から切り出した杉、ヒノキを使った在来工法、板組構法での住宅建築を志す施主、棟梁、あるいは建築士が地域にいる。
この雑誌はそうした現場を取材するところから、真に豊かな住み方というものを考えていこうとするものであると見た。
出版不況と言われ続けて久しく、雑誌の創刊というのも、出版社、編集者にとってかなりの賭けであるに違いないが、この季刊誌、ぜひとも2号、3号とスケールアップを果たし、良い住まいを探し求める賢明な人々に広く受け入れられるようになってもらいたいと願う。
さて、ちょっとばかり“よいしょ”の記事になってしまった観が臭かったかも知れないが、実はボクからの出稿もある。
巻末の方の「地域から」というコーナーに「木工家って、どんな人」という記事を掲載させていただいた。(画像下)
書店でご覧下さい。そしてレジに行きましょう。
【もくたろ】
■ 出版社: 辰巳出版
■ A4 変版 135ページ タツミムック
■ 定 価:1,260円
■ 発売日: 2009/03/12
■ ISBN-10: 4777806332
■ ISBN-13: 978-4777806331
■ 定期刊行:季刊
■ 次号予定:09/07中旬・特集:民家の再生
■『もくたろ』編集長・入澤美時さんのプロフィルはこちらのインタビューでどうぞ
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もくたろ (タツミムック)

もくたろ2

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  • 本屋さんでちょいと覗いてきました。
    家を新築したばかりの私のはちょっと
    縁が無いような雑誌でしたが、
    ほーなるほどという感じで楽しい雑誌。
    作りがちるちんびとや住むに似てるのは
    やはり、って感じで。
    毎週末はお引越しのkentでしたー!

  • kentさん、
    >作りがちるちんびとや住むに似てる
    確かにそのような路線ですかね。
    新たな創刊ということは、類書も意外と好調なのかしらん

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