工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

冬季の低温対策

日本列島、底冷えの日々が続いている。
本州ではもっとも温暖な地で知られるここ静岡でもブルブルッ、このところ霜柱も立ち、朝夕はとっても凍える日々。
ならばせめて雪ぐらい見せて欲しいとの願いには、つれなく届いてくれない。
ところで木工をしていて、この寒さというのはどうだろう。
ボクは修業時代を信州で過ごし、零下14度ほどを経験しているので、ある程度の認識はあるつもり。
西高東低の気圧配置は太平洋側に好天をもたらすので、木工を生業にする者にとっては確かにありがたくはある。
ただはやり当地のような温暖な地域ではあまり過度な低温対策は考えられていないので、年に何度も無いと思われるこのような低温では困惑することも少なくない。
低温で困る筆頭に挙げねばならないのは接着剤を使う工程、次いで塗装だろうか。


接着剤にも多種あるが、一般の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの場合、2°以上、できれば10°以上が理想的とされている。
水の含有量が多いから当然ではある。
エポキシの場合、低温では接着不良を起こしやすい。
粘度がとても低くなる。A剤、B剤の粘度のばらつきが生じやすい。
等、様々な弊害がある。
これは接着剤の温度もさることながら、被接着物、つまり木部が持つ温度にも大きく影響を受けることになるので、冬季の作業では両者を、一定の温度まで温めてから作業に入り、一定時間その温度を維持してやる必要がある。
詳細は個々のボンドの仕様に依るので仕様書、あるいはメーカーに当たって頂くのがよいが、経験的には10°ほどでないと良い接着は得られないのではないだろうか。
うちでは薪ストーブの近くにボンドを置くようにしている(記憶を辿れば信州では冬季にはボンドに毛布を掛けて工場を辞したものだった)。
また接着の前に場合によっては板を数時間ストーブの熱がある程度当たるような環境に置き、温めるようにしている。
しかしこれも大変。
一方だけ当てると間違いなく反り返るので、ひっくり返しながらの作業となる。
裸の状態で当てるより、毛布で包み、間接的に当てる方法が良いだろう。
修業時代、そうした基本的なことへの配慮が不十分で、何度か親方からげんこつが飛んできたものだった。
静岡ではあまり考えられないが、過度の低温では砥石を割ってしまうこともある。
北海道の木工所に見学に行った際、感心したことの1つに低温対策があった。
工場内は冬季もとても温かいのだ。
排出されるおが屑を圧縮して固め、これを「オガライト」のように燃料として利用しているのだった。
あるいは薪ストーブでも、おが屑そのものをそのまま薪ストーブに徐々に落とし込みながら燃やせるようにしていた。
当地のような“半端な”寒さのところでは、そうした思考に欠けているのかも知れない。

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