工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

技能五輪から教えられたFESTO(Festool)社の企業理念

Festoolイメージ
旧聞に属する話しになって恐縮しちゃうのだが、先月沼津で「2007年ユニバーサル技能五輪国際大会」(「WorldSkills Shizuoka 2007」)というものが開かれた。
実はこれに先立つ2月ほど前に松本技術専門校の在校時に世話になった現上松技専校長のAさんから、ある木工機械を貸してくれないかという電話が入ったのだったが、この技能五輪で使わせてもらいたいという依頼だった。
残念ながらボクのところからは出せないので、然るべく地元の機械屋から斡旋してもらうように話しを繋いだのだった。
そんなこともあり、県内での開催ということで訪ねてみたいという希望があったもののこの技能五輪の開催時にはいろいろと所用も重なり、出掛けることもできずにいた。
そうしたところ、Webサイトで相互Linkしている宮本さんのサイトでこの技能五輪の会場の紹介と報告が上がり、興味深く拝見させていただいた。
そこで触れられていたFesto社の製品に関わり、先のストックホルムのIkuruさんのBlogで語られていた職人試験合格者へのFestool社からの奨学金支給という記事を思いだし、あらためてこの技能五輪の公式サイトを訪ねてみることにした。


やはり、というべきか、“Official Suppliers”としてFESTO社の名前が来ている。
米国勢はエントリしていないということもあり、欧州の工具メーカーがサプライヤーになるのは必然なのかもしれないが、1ユーザーとしては素直に喜びたい。
一方日本の関連企業では日立、パナソニックがOfficial Sponsorsとして名前が挙がっている。
そこでさらにFESTO社のサイトにいくとTopページにこの技能五輪のアイコンが大きく目立ちやすいところに置かれている。
詳細はサイトに譲るが、やはり今回の技能五輪に限らず、いつからかは不明ながらも毎回のように“Official Suppliers”として参加しているようだ。
関連のTopページはここから(動画入りで会場の様子がうかがえる)。
さらにこちらでも。
動画では言葉がドイツ語であるために分かりにくいかもしれないが、FESTO社の主たる事業は空圧関連であり、さらには空圧の技術を活かしたメカトロニクスに開発投資を行っている企業として今や世界大的に展開していることがお分かりいただけると思う。
同時にIkuruさんの記事にもあるように、教育への投資も並々ならぬ意気込みで事業展開していることが伺える。
ドイツ国内だけではなくストックホルムの学校への投資もすれば、この度の技能五輪へのサプライヤーとしても、このメカトロニクス部門、および木工関連部門(キャビネット制作、建具制作)にかなりの支援をしているということになるだろう。
日本の電動工具メーカーが日本国内の関連教育機関に対し、どのような支援をしているのかは寡聞にして分からないのだが、これまであまり聞いたことはない。
あるいはFESTOOL社も欧州への関わりと同様、日本の関連教育機関、あるいは技術専門校への支援をしていくならば、現在の国内における電動工具シェアにも大きく食い込むことに繋がることになるのだがな、とひとりごちる。
過去何度かこのBlogではFESTOOL社の電動工具について好意的に触れてきたのだが、ここであらためて付言しておいた方がよいかもしれない。
FESTOOL社の電動工具に見られる多くの秀逸な設計と品質のバックボーンには、上述したような世界的なメカトロニクス事業展開の技術蓄積と、企業理念がそびえ立っていることに気づかないわけにはいかない。
その性能、機能性、ユーザビリティー(使い勝手)における群を抜いた品質の背後にはこうした世界があったことを知ることで大いに納得させられてしまった。
無論このことは国内のメーカーとの対比を考えざるを得ないものとなるのだが、私見では残念ながらそこまでの設計思想、あるいは教育投資などに見られる企業理念を国内メーカーに求めるのは酷かもしれない。
近代工業社会における彼我の歴史的背景というものが全く異なるというのはその理由の1つであるだろうね。
トヨタがレクサス開発に世界戦略を掛け奮闘しながらも残念ながらあまり振るわないと聞くが、メルセデスの牙城を崩せないというのも宜なるかな、ということを言いたいわけではないのだがね。
結語:やはり日本はアジアなのですよ(爆)
■ FESTO社「2007年技能五輪国際大会」テキスト(PDF:2.82 MB)
■ 競技部門:家具 (競技の光景が動画で提供)
     :建具
残念だが動画の編集も、あまり良いものではないし、グランプリを受賞された作品がどのようなものであるのかの紹介は探すことができない。
どなたか関連するURLを掴んでいたならば教えていただけないだろうか。
競技結果は以下のようだ。
〈家具(Cabinetmaking)部門〉
・GOLD:Gary Tuddenham(英国)
・SILVER:Lukas Marwitz(ドイツ)
・BRONZE:Beat Schlaeppi(スイス)
・18位:Takuma Shoji(日本)
〈建具(Joinery部門〉
・GOLD:Arnaud SAVRY(フランス)
・SILVER:Markus Rauscher(ドイツ)
・SILVER:Rene Bless(スイス)
・12位:Yoshinori Nonoi(日本)
日本勢が振るわないのは今回に限らず、近年いずれの大会でも同じようなランクのようだ。
その内容と理由についてはちょっと不明。
情報を持たれていらっしゃるようであればこれも教えていただければうれしい。
なお、この「2007年ユニバーサル技能五輪国際大会」のスペシャル・サプライヤーとして木工機械を支援提供したFELDER社の日本総代理店の
ホルツテクニカでは、使用した機械を“サプライズ価格”で販売している(Topページに表記)。確かに破格の価格設定と思われ、興味のある人は問い合わせてみては如何だろう。
ボクも少し「手押し鉋盤」などに眼が奪われ指を舐めてみたものだが、グッと堪えた。
本件、インスパイアさせていただいた宮本さんのBlog記事へTBを送ります。
*TBが届かないようです(07/12/02)以下に宮本工房のURLを記します。
http://www.ann.hi-ho.ne.jp/r-mymt/
【余談】
FestoolのDominoだが、あらたなアタッチメント、およびマホガニーのダボが発売されているようだね。
【関連記事】
FESTOOLから新機種リリース07/02/23
魅惑の「Domino」FWW誌に掲載07/03/13
FESTOOL社、国内販売戦略の憂鬱07/06/24
Lamelloは使ってますか?07/07/31
DOMINO活用(脚部延伸)07/12/18
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  • このスペシャル価格、元の値段が分かりませんがかなり安く感じますね。うーん、欲しい。毎年日本でやってくれたら良いのですが(笑)

  • Ikuruさん、帰国中で時差がない、ということもあるのか、速攻コメントありがとうございます。
    FELDER社、一式買っちゃえば、この際。
    帰国までボクが世話するのは(=使わせていただく)一向に構いません(爆)

  • 杉山さん、ウチのブロクにコメントありがとうございます。
    TBの件ですが、以前全てオープンにしたところ、怪しげな関係のないTBが沢山来て困ったため、よくわかりませんが、「リンクがないTBを受け付けない」というのにチェックしています。多分それが原因ではないかと思います。もうすこしよいスパムTB?撃退法を考えたいと思います。申し訳ありません。
    ホルツテクニカさん、頑張っていました。スペシャル価格の機械、ヨダレが出るのですが、大蔵省からの許可が下りず、今回は見送りとなりました。担当の方と話をしましたが、大変苦労され、勉強されたとのこと。そのことが今後につながるのではないかと期待しています。

  • ホルツテクニカは以前に私が勤めていた会社の
    木工機械関係の代理店の方々が作った会社のようで
    以前の私の同僚は今でも取引しているようです。
    新たな市場を開拓されているようですね。
    Festool社の教育に対する投資は感心します。
    ただ、その費用は必然的に製品価格に反映してくる訳で
    買う側も、ある意味、教育に投資する覚悟がないと
    成り立たないでしょうね。
    最近の国内の食品を始めとするメーカーの不祥事を見ると
    日本ではまだ難しいのかなと感じます。

  • RYOHEIさん、TBの件、良く分かりました。
    ボクは海外メーカーの機械は全く疎いものですので、正しい評価などできませんが、サイトで拝見する限り魅力のある商品群と見ました。
    これからスタートされる方には良い選択肢になるでしょうね。
    ↑ Ikuruさんはさぞ臍を噛んでいるのでは。
    この技能五輪などの会場で、国内メーカーのものではなく海外のメーカーのものが使われるというのは、国際的標準に準拠させるということでは理解できるものですが、国内メーカー(および業界中枢部)はそうした事情はあれ、さぞ悔しいのでは。
    でも悪いことではありません。大いに刺激を受けて機械製造の品質を高めてもらい、海外へと進出するぐらいの意気込みを持って欲しいです。

  • acanthogobiusさん、そうでしたか。(会社の‥代理店の方々が作った会社)
    ではacanthogobiusさんでしたら、さらにバーゲンさせられるのでは?
    >Festool社の教育に対する投資‥‥その費用は必然的に製品価格に反映してくる‥‥買う側も、ある意味、教育に投資する覚悟がないと成り立たない
    価格設定には確かに仰るような構造もあるということになるのでしょうね。
    これはカスタマーの受け止め方で、様々な評価があることでしょう。
    近代工業社会とともに発展してきた資本主義という経済体制には、本来倫理的な側面がバックボーンにあるというのがマックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の骨子の1つでした。
    その「資本主義の精神」、エトスも実は彼らにとっては経済的合理主義の反映であると見做すことになるわけですね。
    してみればしゃにむな米国追随型の日本経済界からみれば、このような社会貢献を企業理念に据えるなどと言うのは牧歌的に過ぎると考えるのかも知れません。
    しかしその結果がacanthogobiusさんご指摘の不祥事となって現れてきていると見ることも出来ますね。
    欧州にはまだまだ“牧歌的”な倫理規範が残っていると考えたいですね。
    ボクはしたがってFestoolが価格設定において、社会貢献をコスト反映させているということはむしろ積極的に位置づけるという立場に立ちたいと思います。(=単に性能の高い工具を所有するというのに留まらず、社会成員の一人として倫理規範の高い製造メーカーのものを使うことの喜び)
    日本型、あるいは米国型の荒っぽい資本主義の在り方は既に限界に来ているというのが世界の共通認識になりつつあるように伺えます。

  • artisanさん
    いやー、本当に全部欲しいくらいです。。。通常価格ってこれの倍くらいしそうですよね。もう一、二年後くらいだったらなー。
    acanthogobiusさん
    Festoolだけではなく、スウェーデンでは多くの企業や業者が学生の手助けをしてくれます。日本の感覚からすると驚くのですが、学生側も積極的に補助依頼をしますし、企業側もかなりの確率でそれに応えてくれるように感じます。
    例えば私が職人試験を受けた時は、接着剤の何とか社とサンドペーパーのEkamant社から無料同然の価格で材料提供を受けることができました。展示会などを行う時は、塗料メーカーや、床に敷き詰めるマットをもらえたり、懸賞用の商品(かなり豪華)が提供されたりと驚くばかりでした。
    確かにそれらは製品価格に経費として回されているかもしれませんが、私感ではそうでは無いようにも感じます。
    ここで10万円分でも投資しておけば、働くようになった頃には100万円分、機械をそろえれば数百万円ぶんの買い物をするのでしょうから悪くはないですよね。将来の顧客の為にチャンスを与えるという考え方だと思います。

  • Ikuruさんが仰る「将来の顧客の為にチャンスを与える」という考え方は、まさに「経済的合理主義の反映」ですよね。
    Macの販売価格などもアカデミックプライスというような価格設定があります。
    Ikuruさんには帰国後における若手クラフトマンへの企業支援の突破口を切り開いてもらいたいものです。(マジに)
    一方受益者側からすれば、一人の木工家、クリエイターとしてのスタンスを固めるにあたってインディペンデンスとしての立脚点との関わりをどうするのかは強い精神力も問われると言うことになるのかな。

  • ikuruさん
    丁寧な説明、恐縮です。
    新宿OZONEでの個展では色々説明していただき
    ありがとうございました。勉強になりました。
    この場を借りてお礼いたします。
    企業としては、どこに宣伝広告費を使うのが一番効率が
    良いか考える所です。
    この場合は未来の顧客に対する宣伝広告費ということ
    になるのでしょうか。
    種をまく、と言う意味では夢のある話だと思います。

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