工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

Takemitsu Songbook・武満 徹のセンチメンタリズム


秋だから、ということではないのだろうが、3.11からこのかたの、流したいく筋もの涙を拭うための歌も時には必要だ(いや、むしろ哀しみを哀しみとして純化させ、希望へと昇華させるための涙だってあるだろう ‥‥)。

この新しい武満徹ソングブック。7人の素敵な歌手たちが、武満への深いリスペクトを込め、丁寧に、深く、美しく歌いあげてくれている。

ボクにとり武満徹とは世界に轟いた『ノヴェンバー・ステップス』の作曲家である前に、無類の映画好きとして、黒沢映画などに映画音楽を提供した作曲家であり、「三月のうた」、「死んだ男の残したものは」、「MI・YO・TA」などのポピューラーソングの作曲家、というイメージの方がむしろ強い。

無類の映画好きといっても様々で、ボクのように年間20本ほどしか観る機会の無い者だって映画ファンを自称することはできるが、彼の場合は年間200本を超えるときもあったというので、並では無い。
ただ『エル・スール』、『ミツバチのささやき』(いずれもビクトリ・エリセ)や、タルコフスキーに魅入られていたという話しを聞くと、いきなり親近感を持ってしまう。
あぁ、少しは感性、美的基準においてそんな遠くにいる人では無かったんだと思えてきて、ちょっと嬉しくなる(その捉え方の水準においては違ってはいても、だ)。

このアルバムはそうした彼が遺した映画やドラマのための音楽を中心として編まれている。
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CLARO (クラロ)ウォールナット その表情


CLAROという樹種、過去何度か紹介してきたが、今日はここ数回取り上げてきた卓に用いた甲板を事例として、その表情に迫ってみよう。

まずWebサイト「工房 悠」に残した樹種解説のテキストから再掲してみよう。

ブラックウォールナットの亜種だが大変貴重な材種。主に北米西海岸に産する。幼木の頃、米国産ブラックウォールナットに西欧のウォールナットを接ぎ木したもの。(その痕跡が板上にくっきり残っている)

性質もブラックウォールナット以上に粘りがありきめが細かく、色調もとても複雑で多くの色が絡む。そのほとんどにちぢみ杢、こぶ杢などのさまざまな杢をかもす。
入手困難で高価なためそのほとんどは突き板、合板にされ高級家具となるが、私の場合は丸太原木を入手し厚板、一枚板に製材している

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Black & White


画像はセンターテーブル(部分)。
ブラックウォールナットを主材とする構成に、白木の部材を取り込むことで、いっきに雰囲気が軽やかに、あるいは見方によってはモダンなイメージを醸すので、とてもおもしろく思った。

主材:ブラックウォールナットとは言っても甲板はクラロウォールナットなのだが、ズリ脚、吸い付き桟、貫などはブラックウォールナットで構成し、上下を支える丸棒にメイプルを持ってきた。

メイプルもご覧のように縮み杢のある、いわゆるカーリーメイプルという樹種(分類学的にはカーリーメイプルという樹種は無いのだがね)。

因みにこの場合、白黒のコントラストがポイントになるが、よりこのコントラストを強くするためにメイプルはブリーチ処理している。

さてところで、少しこの丸棒ホゾの加工について触れておきたい。
画像を参照していただければたちどころに分かってしまうほどのチップでしかないが、丸棒ホゾの接合強度、および視覚的な問題に関してである。

一般に丸棒ホゾは外部露出の部分からホゾに至る部位は連続した急峻なカーブで繋がる。
ホゾ位置は、この急峻なカーブの接点で決まると言うことになる。
つまり胴付き部分は面では無く、点に、あるいは線になる。
このことは、木工仕口における強度の側面からすると、胴付きが無い分、本来の強度を発揮し得ない仕口であると考えられるわけだね。
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DWP611は使える

送り寄せ蟻加工


DWP611は小型のハンドルーターとして使えることについては既に記述してきたところだが、今日は1つの事例を紹介。

卓の送り寄せ蟻桟の加工

うちでは送り寄せ蟻桟の加工は3台のハンドルーターを用いる。
桟の幅は50mm〜 となるので、切削幅は大きく、負荷もその分大きくなる。
いきなり蟻ビットで全てを行うということは、あまりにも無理がある。
そこで3段階に分けた切削工程で行う。

  1. まず最初は20mm〜のストレートビットでプレカット。
    アリの傾斜角以外の部分をおおまかに切削する。
    ここではFESTOOL:OF1400に、30mmのT.G(テンプレートガイド、以下同じ)を装着し、20mmのビットを使う。
    (FESTOOL:OF1400ではユニバーサルT.G[1] が使えるほか、いくつもの専用のcopy ring[2] なるものがある。(参照
  2. 次に、この20mmビットでは角が大きな1/4円になり大きく切り残しが出る。
    これをさらに隅まで欠き取るために、細いストレートビットで2段階目のプレカットを行う。
    ここではHiTACHI・M12 に17mmT.Gを装填、8mmのストレートビットを使う
  3. 最後にお出まし願うのが、DWP611。
    5/8″(≒16mm)のT.Gを装着、8mmシャンクの蟻桟ビットを使う。
    (8mmシャンクのアリビットでは、刃長が短いのが多いようだが、ここでは16mmまで切削可能なものを使用)

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❖ 脚注
  1. ユニバーサルテンプレートガイドの一般的セット内容:5/16″ O.D. – 1/4″ I.D., 3/8″ O.D. – 9/32″ I.D., 7/16″ O.D. – 11/32″ I.D., 1/2″ O.D. – 13/32″ I.D., 5/8″ O.D. – 17/32″ I.D., 3/4″ O.D. – 21/32″ I.D., 51/64″ O.D. – 5/8″ I. D., 1″ O.D. – 7/8″ I.D. []
  2. OF1400、copy ringサイズ展開:17mm、24mm、30mm、40mm []

映画『バビロンの陽光』

2003年3月、ブッシュJrによるイラクへの先制猛攻撃(『イラクの自由作戦』)によりサダム・フセイン政権は間もなく崩壊する。

この映画は、その直後のイラクを舞台とした、戦争により行方不明になった息子(孫にとっては父親)を探し求めるクルドの祖母と孫とのロードムービー。

これを観たいという欲望は、それまでほとんど観る機会の無い国の映画であったし、その国土を大きなスクリーンで観てみたいという素朴なものであったわけだが、事実、土埃舞う荒涼たる砂漠の果てに沈む赤銅色の大きな太陽はあくまでも美しく、あるいは周囲には緑1つないゴツゴツした石ころだけの延々と続く砂漠の中を貫く国道は、あくまでも果てしなく続き、日本ではあまり馴染みの無いアラブ音楽のBGMは、ボクらにとってはまったく異質な世界にいきなり放り出されたような感覚に襲われるなど、無知ゆえのちっぽけな欲望を十分に満たしてくれるものだった。

むろん、この風土が醸すオリエンタリズムはそこに生きる人々が作り上げるものでもあるわけだが、映画的手法であるとはいえ、古代メソポタミア文明の残滓を深い皺の中に刻む人々の哀しみと喜びが紡ぐ1つのストーリーからも、近代的文明観に支配された思考様式を異化するに十分な内実を持つ良い映画だった。
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「福島:未だ何も終わってはいない」The Guardian紙(追補あり)

英ガーディアンの記事「Fukushima disaster: it’s not over yet」に注目したい。

アジア環境担当記者を務めるジョナサン・ワッツ(Jonathan Watts)記者による被災地現地での綿密な取材と、バランスの取れた分析による良質なルポルタージュとなっている。

Webサイト「Genpatsu」に全文翻訳がなされている。
とても良い訳文で、その労をねぎらいたい。

「福島の惨事:未だ何も終わってはいない」英ガーディアン9.9付記事全訳」

〈追補〉 2011/10/10 18:00
NHK教育〈ETV特集〉「希望をフクシマの地から ~プロジェクトfukushima!の挑戦」
本日10月9日 夜10時より放送

福島の放射線汚染は絶望的とも思える様相を見せていますが、文化の力で希望を紡ぎ出そうと、3名の音楽家を中心に「野外音楽フェスティバル」が開催されました。
この「プロジェクトFUKUSHIMA!」に起ち上がった福島の人々の一夏のドキュメントです。
*詳細はこちら

原発事故で世界から注目されるフクシマで、8月15日、野外音楽フェスティバルが開かれた。絶望的とも思える現実に向き合い、文化の力で希望を紡ぎ出そうと立ち上がったのは、福島県出身のアーティストたち。5月、「プロジェクトFUKUSHIMA!」が始動した。

中心メンバーは3人。NHKドラマ「白洲次郎」などの音楽やノイズミュージックなどで世界を舞台に活躍する音楽家・大友良英さん、震災直後からツイッターで詩をつぶやき、共感を呼んでいる福島在住の詩人・和合亮一さん。そして、パンクロックのカリスマミュージシャン・遠藤ミチロウさん。

3人の呼びかけに応えるように、坂本龍一さんら出演ミュージシャン、そしてETV特集でもおなじみの放射線衛生学の研究者、木村真三さん、そして福島県内外からのボランティアスタッフも、みな手弁当で集まった。

放射線量が低くない会場でのフェスティバル開催には、主催する当人の中にもさまざまな苦悩や葛藤があった。それでも、フクシマが新しい時代を創った希望の場所として記憶されることをめざしたい。無料のフェスティバルに、1万3000人が訪れた。

「福島の心の叫び」を発信しながら、ふるさと福島の地に未来への希望を見いだそうと動き始めたアーティストたちと福島の人々の夏をドキュメントする。

Appleという奇跡

Steave Jobs 死去を巡る世相から

スティーブ・ジョブズ死去をめぐる、この異様な“騒動”はいったいどういうことなのだろう。
それはまるでキリストが没した時の全世界からの哀しみと敬慕を集めたかのような様相を見せているではないか。

このBlogでもApple公式サイトで報じられた直後に訃報を上げたのだが、取り巻く周囲の勢いには気圧されそう。

米国大統領バラク・オバマ氏のステイツメントからはじまり、多くの著名人から追悼が寄せられ、世界の主要紙が最大級の扱いで訃報を伝え、それらは数日経過した今でも紙面を埋め尽くすといった風だ。

IT関連企業からも関係悪化が取りざたされているSamsung[1] 、GoogleなどもTopページで伝えていた。
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❖ 脚注
  1. SamsungとGoogleは予定していた新Android搭載スマートフォン発表イベントをジョブズ氏に敬意を表し延期(Samsung, Google Cancel Launch Event Out of Respect for Steve Jobs)するといった []

ある相欠きのカタチ

相欠き

画像は卓、脚部のズリ脚と貫の接合部。

このズリ脚、上部は柔らかな円弧状。断面は両角を大きな坊主面を取った逆台形。
ここに鎬面を持つなだらかな円弧状の貫がかぶさる。

これを相欠きで納めるわけだが、ズリ脚側は途中までなので、画像のような加工になる。

一般には相欠き加工は丸鋸傾斜盤でのカッター切削で簡単に終えることができるが、こうした場合はルーターなどによる少しばかり特異な切削能力が要求されてくる

なぜこのような加工が必要なのかは説明不要とは思うが、いくつかの理由がある。

いくつかの理由があるが、一言で言ってしまえば、“納まり”である。
例えば、上述のようにズリ脚側が台形をしているので、そのままでは一般的な相欠きでは納まらない。
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Steve Jobs 逝去:メディア報、弔辞

■ CNN トリビュート
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=A5hJA9M263k[/youtube]

■ バラク・オバマ(ホワイトハウス Briefing Room • Statements & Releases)
  > Statement by the President on the Passing of Steve Jobs

■ Soft Bank 孫正義

The New York Times

The New York Times

The Washington Post

The Washington Post

CNN

CNN

Los Angeles Times

Los Angeles Times

REUTERS

REUTERS

BBC

BBC

REUTERS
The New York Times
The Washington Post
Wall Street Journal
CNN
Los Angeles Times

* 画像紙面はいずれも公式WebサイトTopページ

Apple.inc 創業者・スティーブ・ジョブズ氏の死去を悼む

Steve Jobs dead

Apple創業者、スティーブン・ポール・ジョブズ氏(Steven Paul Jobs 1955年2月24日 – 2011年10月5日)の訃報がApple.incより届けられています(Apple.inc)。

享年56歳、長らくすいぞう癌の闘病生活の末に、ついに帰らぬ人となってしまいました。

コンピューターと言えば1995年以来、Mac一筋に世話になってきた私ですが、本当に悔しくてなりません。

謹んで心から哀悼の意を表します。