工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

刃物研磨に見る職人像

今日は武蔵野地域の百貨店での展示へ向けての搬送、会場セッテイング作業でしたが、昨日とはうってかわっておだやかな晴天に恵まれ、ラッキー 。
会場近隣の小学校では入学式があったらしく、そこかしこに晴れ着に身を包んだ就学児童の親子を見かけた。毎年のことなれどとても微笑ましくこの子達の未来に幸あれと祝福を送りたくもなる。そのほとんどが父親も含めた3人連れであることに気づいたが、あえて会社を休み子供の晴れの席に同席してやりたいという親心なのだろうが、少子化、男女機会均等法、ニューファミリー(旧い言葉ですが)のありふれた姿なのでしょう。
さて、今日は刃物の研磨に見る職人像、という記述です。
ボクが工房を構えたのは郊外の田園地域の一角でしたが、偶然にも隣家が刃物の研磨業を営んでいる職人さんだったのです。


この隣人は地域では大手の刃物会社の研磨職人として業務し、その後独立した人でしたがとても腕の良い職人でした(過去形なのは、残念ながら数年前に亡くなってしまったのですが)。
隣人でもあったので親しく公私にわたって交流させていただいたのでしたが、工房起ち上げの頃は資金的余裕もなかったのでチップソーなどものによっては複数そろえることも叶わず、切れなくなると事情を話し翌日には研磨して届けてもらうなどとてもありがたい存在だったのです。
しかしその人の技能の確かさに気づかされたのは亡くなってからでした。
亡くなって幾日も経たないある日のこと、地域では中堅どころの刃物屋の営業マンがやってきました。「隣の○○さんが亡くなってお困りでしょう。研磨はうちで面倒見させてもらいます」といって訪ねてきたのですが、最初はありがたいねと思いつ話を聞いていると、この会社には任せられないなと感じたのです。
営業トークというのが「うちではドイツ製のすばらしい最新機器を○台導入してやってるのでお任せください」といったことの繰り返しで、決して良い研磨職人がいるからというアピールでは無かったのでした。
当然ですがお断りしたのです。
刃物というのは、機械刃物も鉋の刃も同様ですが、切れなくなると研磨しなければなりませんが、研磨すると刃は摩耗しその寿命も減ずるということになるわけです。
自動制御の機械研磨では確かに一定の安定した精度での研磨ができることが期待できます。
しかし一方チップソーとはいって一様ではありません。縦挽き、横挽きの違いはもちろん、その刃固有の設計基準がありますがどこまでその仕様を崩すことなく研磨されるのか、自動制御で複数枚を一度のセッティングで進められる機械研磨は小回りは利きません。
研磨職人のハンド制御によれば、その職人の技量に応じ適切に研磨されるでしょう。
またその研磨量も自ずから異なってきます。
機械研磨ですと15回位しかできないのに比し、職人によればその5割増しほど長持ちすることでしょう。
また研磨の精度も経験的に言えることですが、下手なところで研磨してもらうと切れ味が全く悪くなって仕上がってくるなどといったこともあります。
年々木工業も衰退してきていますので、研磨業界も良いわけありません。廃業を余儀なくされるところも少なくはないようです。
こうした状況は、研磨職人の衰退をも促進させることになっているのかもしれません。
困ったものです。職人の技能というものは職人から職人へ連綿として繋がれていくことで成立するものであって中断されるようであってはならないのですが・・・。
さて、こうした工具鋼の研磨の問題は鉋などの刃物でも同様なことがあります。
熟練した職人の鉋の刃の研ぎは、短時間で適切に研ぎ上げることもできますが、未熟な職人ですと時間がかかりしかも切れ味は決して良くないということは通例です。
ところで、百貨店展示のために逗留するホテルには高速インターネットは来ていません。ダイアルアップです。こんな環境下でBlogの更新などできるのかしらん。
ケチったわけではないのですがね。地元では最高級の電鉄系のホテル(笑)なのですが。
従って、しばらくはデータ量、質、共にチープな内容になっちゃいます。悪しからず。

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  • 研磨屋は何処ですか?僕が知ってる所も何千万する機械が何台もあるだの、だから忙しすぎてもう、やりたくないとか言って自慢ばっかりで、その人に腕があるわけじゃないのに。やりたくないならやめればいいのに。

  • 名無しさん、お近くの方でしょうか。
    世話になっている研磨屋さんはお教えしても構いませんが、こちらからではなく、メールをください。
    アドレスは右メニューのほぼ最下段のPROFILE/artisanに記載してあります。
    大きな規模の工場では仰るようなところへ出せばよいでしょうし、我々のような規模のところには、またそれに見合った研磨屋さんがよろしいようです。

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