工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

京セラ トリマーの多彩な展開?と〈ダブテールガイド〉なる不可解な名称

画像はAmazonで〈京セラ〉〈トリマー〉の2つのキーワードで検索を掛けた結果のTopの画像。
3機種がヒットしています。

一瞬、同一機種のカラーバリエーションなのかと思わされる、同一ボデーでありながらの色調の差異ですが、さにあらず、機種が異なるもののようです。
左から、MTR-42、ATRE60V、TRE60V

Porter Cable〈PCE6430〉
Porter Cable〈PCE6430〉

私はPorter Cable の〈PCE6435〉を導入し(こちら)、BOSCHの異形のラミネートトリマー(こちら)とともに通常のトリミング作業にメインとして使っていますが、以前、その紹介記事でもお話ししたように、これはTop画像の京セラ(旧リョービ)のものと同一仕様以外の何ものでもありません。

つまり、いずれかがOEMでの提供を受けた商品展開であることに違い無いのです。
残念ながら、京セラの公式な説明はありませんし、またインターネット上でこのOEMへの言及は私のBlogのみ。(信義の確証が危うい?? 苦笑)

米国内でも、Dewalt がこれと同じものを販売している(DWE6000)ことは以前も触れた通り。
これが意味するのは Porter CableDewalt 両社とも、実は スタンレー ブラック&デッカー社(Stanley Black & Decker.)の傘下にあり、同一仕様のものが複数にブランディングされ、それぞれの販路で市場に流通しているということによります。

鉋イラスト

PorterCable社の代表的なハンドルーター

 他方、京セラ旧リョービは、決してブラック&デッカー社の傘下にあるわけでは無いのですが、Porter Cableのハンドルーターの血筋を引き、深さ制御における独自の優れた機構のトリマーを自社ブランドとして商品展開することで、日本国内におけるトリマー市場の雄となるべく経営判断し、OEM提供契約に至り、国内販売を進めているというところがたぶん真相なのでしょう。

Amazonのカスタムレビューには、国産なので信頼して購入、などといった書き込みも散見されますが、メキシコとか、中国あたりで製造されているのでは無いでしょうか。

既に皆さんも気付きつつあるように、国産だから良い品質、などと言うことは、この電動工具の世界に限らずですが、「安かろう、悪かろう」といった遠い昔の中国製品への歪んだ視線からは時代を経て大きく変容し、実は最高度のものが、中国や、東南アジア、中南米で製造されているというのが現代社会なのです。
中には中国製品を「中華〇△◇」などと蔑称することが一般的にすらなっていますが、こうした世界にイデロギーや狭隘な差別感情を持ち出すのは控えて頂き、客観的、冷静に評価したいものです。

先頃、EV自動車メーカーのBYD(中国)が国内展開を始めたというので話題になっていましたが、テスラを凌ぐ日之出の勢いで世界に展開しつつあるのが、このEVメーカー、BYDなのです。
EVに限ってみれば、日本車はBest10 内にもランキングしていません。
こうした産業界の地殻変動を見せつけられる今、日本社会のぬるま湯に浸かった状況でよく見えないかも知れませんが、時代状況は大きく動いているようです。

鉋イラスト

話を戻しましょう。
京セラの3タイプのトリマー。

この右端の緑のボデー(TRE-60V)は、京セラではなく〈RYOBI〉ロゴでもあり、旧タイプのようで、現在は黒のボデー(ATRE60V)に切り替わっているようです。
市場には旧い機種も売れ残っているところから、2つのバリエーションが展開していると言うことですね。

青のボデー(MTR -42)はホームセンターで良く見掛けるもので、変速や電子制御のないシンプル仕様のアマチュア向けのものです。

お気づきかと思いますが、この黒のボデーは、私が所有している Porter Cable 社が販売している(PCE6435)と同じカラーですね。
製造コストとして色のバリエーションを減らすのは合理的ですので、Porter Cableのものと同一カラーとし、ロゴのみを〈KYOCERA〉にしてあるのでしょうか。

余談ですが、青のボデー、前述のように電子回路のシンプルさからか、価格も他の2つに比べれば半額以下ですね。
これに釣られる人もいるやも知れませんが、ポチッする前に、よくよく考えた方が良いようですよ。

なぜかと申せば、この駆動部本体と透明プラスチックのベースを繋ぐ部位が、他2つがアルミダイキャストであるのに対し、青はプラスチック。
この部位が脆弱である事が、いくつものユーザーコメントから推し量れます。
これではテンプレートガイドを用いた場合、高精度な加工は困難であるばかりでは無く、破損のリスクがとても高いそうで、そのために別売のベース部分がよく売れるのだそうです。

アルミダイキャストのベースで長期にわたり使い続けるためにも、さらには過負荷での駆動力を保持し、電源投入時の滑らかな立ち上がりを確保するためにも、それらの機構を捨象した青ボデーではなく、プロ向けの黒ボデーの一択しかないでしょう。

〈ダブテールガイド〉なる珍妙な名称

さて、今回の記事を上げる主要な動機はこちらの問題でした。

Porter Cable PCE6435〉の解説でも書いたように、このラミネートトリマーの優位性の1つとして、テンプレートガイド、しかもユニバーサルなものへ対応しているということを指摘してきたところです。

ユニバーサル テンプレートガイド
ユニバーサル テンプレートガイド

このユニバーサル テンプレートガイドを用いることで、このトリマーの活動領域は大きく拡張され、コンパクトルーター的な機能を持たせることに繫がります。

大小様々なビットを用い、適宜作成したテンプレートを用いる事で、倣い成形により、任意の形状の切削が可能となるというものでしたね。
一般には 1/4″、9/32”、11/32”、13/32”、17/32” 、21/32” 、5/8”、1.0″ といったサイズ展開。
そこに加え、前回取り上げた通り、ミリ仕様のものがここに並ぶことになりました。素晴らしいじゃないですか。

京セラ トリマーも、これらに対応するベースを持ちます。

しかし、この機種の取説や、カタログでは、これを〈ダブテールガイド〉と呼称しているのです。
ダブテールとは、日本の木工仕口では「蟻」です。
(京セラ 公式サイトの〈ダブテールガイド〉解説記事

確かに、蟻溝を穿つ工程にこのテンプレートガイドを用いることもあるでしょう。
この特定の用途において〈ダブテールガイド〉と呼称することは間違いではないでしょうが、しかしこれは本来、様々な加工に用いることを前提とした汎用性の高いものですので、〈ダブテールガイド〉とするのは誤りです。

この呼称は「京セラ」だからというものでもなく、どうも〈RYOBI〉時代からのものだそうで、古くから間違った呼び方をしていたものと思われます。

〈RYOBI〉の技術屋、設計部門は木工の実践現場を深く知らないことによるものなのでしょうかね。
Porter Cableb のトリマーをOEMで日本展開するという英断には👏ですが、この誤った呼称を市場に流布させるというのは、たいへん残念で悲しい話しです。

DEWALT Router DW616

このPorter Cable社の設計製造によるトリマーのOEM導入に留まらず、1/2″ビットが装着できる、中型から大型のハンドルーターのOEM導入を願いたいものです。
私は一般にハンドルーターはFESTOOL OF1400をキホンとしていますが、蟻溝を穿つ場合などには、重心が低く、安定性があり、そして深さ設定が大変容易なPorter Cableのハンドルーターを用いる事が少なくありません。

こうして京セラ トリマーの宣伝を買ってやっているのも、さらなる Porter Cable社製(あるいは DEWALT製)のハンドルーターのOEM導入を促すことに繫がりはしないかという、ほのかな期待があるからと言っても良いでしょう。


〈ダブテールガイド〉としての実際を

最近の仕事で、数種の抽斗の仕口に〈天秤差し〉(鬢太 ビンタ)を使いましたが、ここでは2種類のコンパクトルーター、および軸傾斜丸鋸盤で加工しました。
ここでは本記事の〈ダブテールガイド〉の実際に即し、型板を中心に簡単に紹介します。

デスク ワゴン、抽斗の天秤差し部位

抽斗の前板と側板の接合の事例ですが、上の画像の通りです。

上画像、本体の天秤差しの場合は丸鋸昇降盤での加工にノミ、手鋸での手加工を加える工程になりますが、抽斗前板の鬢太(包み)となると丸鋸昇降盤での加工は無理。
墨付けし、手鋸とノミで蟻溝を掘る方法もあるでしょうが、ここは何と言ってもハンドルーター加工が精度的にも、加工性からもお薦めです。

型板を用い、鬢太の天秤差し加工
天秤差し(鬢太)テスト
抽斗の天秤差し
抽斗・天秤差し
4種、天秤差し加工のための型板(いずれも上述デスクワゴン、抽斗用

大変なのは型板作りです。
ここでは詳細な解説はいたしませんが、画像のようなテンプレートガイドを使うことで、容易に高精度な天秤差しのホール側を加工することができます。

側板の方の加工は軸傾斜丸鋸盤で寸法通りに切り込みを入れ、胴付き部分は鎬ノミで落とすだけです。
今回の抽斗の場合、スライドレールを用いていますので、その厚み分、より深く、かつ、そのことで前板の木口側と側板がツライチにはならず、削りながら仕込むことが困難であるために、相当の精度要求が求められるので大変です。

画像の型板ですが、これはワゴンの抽斗用です。
ホールの前後にあるたくさんの溝、これはためらい傷、いや、位置合わせのテストのためのもの。
私はこの型板はピンルーターで作ります。
ピンルーターであれば、安全で、かつ高精度に作れます。
(ピンルーター、ルーターマシンが設備されていない工房では、こうした加工をどのようにされているのかは不明です。ハンドルーターで同様の型板を作れないことは無いものの、かなり困難なものにならざるを得ないことは容易に想像できます)
ここでは型板の素材として合板を用いていますが、この場合、3plyはダメ、最低でも5plyで無いと全く耐久性がありません。

鉋イラスト

また、この種の加工は、一般に1枚の型板に対し、2つのルーター(コンパクトルーター)を用います。
まずプレ加工として、ストレートビットで蟻のラインに影響を及ぼす手前辺りまで切削していきます。
次の段階で、蟻ビットを用い、所定の蟻溝を作ります。
蟻ビットで全て行うことはできますが、負荷が掛かりすぎることを避けるため、あらかじめストレートビットでおおまかに切削しておきます。
そうすることで、蟻ビット切削では負荷が軽くなり、軽快に、高精度な加工が可能となります。

また、こうした1枚の型板で、1つの目的に向け、2種のルーターで加工するためには、ルータービットのサイズ、テンプレートガイドとの差異を2種のルーター加工に相補的に適合させる必要があります。
蟻ビットは傾斜角を持ち、その径も底と首では異なることから、慎重に構想、設計しなければなりません。
ちょっとした頭の体操が伴うことになります。柔軟な思考で楽しくいきましょう。

既に経験されておられる方も多いと思いますが、ぜひ興味のある方はトライしてください。
ビシッとこれが決まったときは自然と頬が緩むこと請け合いです。
(逆に、精度が悪いときは、側板が破損するか、クラックが入り、泣くこと請け合いです。爆)

鉋イラスト

なお、米国の木工関連ツールサイトには、いわゆるダブテールの加工システムが多種展開しているようです。
私は買い求めたことがありませんが、私が行うところの〈天秤差し〉は残念ながらルータービットの物理的サイズから、これらのダブテール加工システムでは無理だろうと思われます。

さて、この抽斗前板での天秤差し加工で用いたコンパクトルーターのテンプレートガイドですが、RYOBIが商品名にしている、まさに〈ダブテールガイド〉という事になりますね。

しかし、ここまで見てきたように、このテンプレートがイドは、こうしたダブテール加工のみならず、もっとはるかに汎用性の高いアタッチメントですので、RYOBI➡️京セラの呼称は残念ですが誤りと言うべきでしょう。

FESTOOLのルーターの場合

私がこれまでも高く評価してきた FESTOOL社のルーターですが、無論、この機種にもユニバーサルな〈テンプレートガイド〉が使えます。


FESTOOL社のルーターの場合、複数種ある〈テンプレートガイド〉の1つに、ユニバーサルテンプレートガイドを装着させるためのものがあり(こちらが標準添付)、他に、複数種類のサイズ展開のある、独自のテンプレートガイドシステムがあります。

しかも、その着脱はツールフリーの機構を持つもので、実に快適な使い勝手です。

今回も余談が多くなってしまいましたが、大いに快適木工を楽しんでください。

hr

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