工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

仕事始めは“慣らし運転”から‥‥

ワイコムチェアの修理

「B型ワイコムアームチェア」修理



今日から等し並に仕事始め。
この数年は松があける頃まで、普段できない読書、小旅行、デスクワークで過ごすことが多かったが、ちょっとした頼まれもので工房を開けることに。

椅子の修理である。
うちが作った椅子ではなく「B型ワイコムアームチェア」という名の松本民芸家具製作のもの。
近傍に暮らす友人宅への年始挨拶の際に預かってきた。

実は松本民芸家具で修行していた頃から、このワイコムという椅子は好きだった。
いわゆるウィンザースタイルではあるが、後脚の座板との接合の妙、そのフォルム、そして個性的な背の帯と笠木は魅力的。

子供用、アームレスと、いくつかのパターンがあるが、この「B型ワイコムアームチェア」が基本だね。
恐らく市場でも松本民芸家具の椅子の中で人気商品の1つではないか。
現在の価格は126,000円。松本民芸家具の椅子としては、比較的高価格帯になるのかな。

さて、これは普段から使っている愛用の椅子なのであまり預かりっぱなしというわけにはいかない。
こうして、椅子の修理が仕事始めの対象になった。
(ちょっと大げさかな、さほどの時間を要するものでもないのだが)

修理個所は座板の矧ぎ切れ。
これは松本民芸家具の製作上の問題がもたらしたと言い切れるものでもなく、やはり長年使い続けてきたことによる経年劣化という要素が大きいのでは。

ボクはかつて独立する以前にこの家具製作所に関係していたこともあり、その製作プロセスも、どのような接着剤を使用しているかも知っている。

こうして稀に矧ぎ切れというトラブルは起きてしまうようだ。
幸いにして、うちで制作した椅子の座板の矧ぎ切れというトラブルはまだ起きていないが、初期の頃のテーブルでは経験している。

今回の場合、使用環境、使用年数など、様々な要素が絡み、どこに原因を求めるというのも詮ない話し(因みに使用歴は30数年とのこと)

このオーナー、少し前に松本民芸家具の販売店で矧ぎ切れ修理の見積をしてもらったのだそうだが、それは想定をかなり超えた額だったようで、この負担に応ずることが叶わず頼めずにいたとのこと。

それではと、請け負ってみたわけだが、民芸調の塗装は外部委託になり、またそれなりの負担を強いられるので、再塗装は諦め、木部修理で可能な範囲で行うこととした。

矧ぎ切れ矧ぎ修理を完璧に行うとなれば、脚部など全て一旦取り外し、矧ぎ口を再度調整し、然るべく接着、圧締、メチ払い、再組み立て、塗装、というプロセスになるのだが、今回は矧ぎ口を広げ、接着剤を塗布し、極力メチを出さずに、接着、圧締のみのプロセスで終えることになった。

矧ぎ口の問題をクリアさせるためにエポキシを使いたかったのだが、事後の処理を考えた時、鉋も荒いサンドペーパーも使えないので、Titebond III を使った。

どうしても経年変化が伴うので、部材どおしの不定型な変形があり、完全なメチ無し再接合は無理だったが、使用上問題ない範囲で修理を行えると思う。
明日ハタガネを外し、再接合部分に細かいサンドペーパーを掛け、クリアラッカーで仕上げることにしよう。

この友人宅への年始挨拶は久々の訪問ではあったが、楽しい対話が交わされた。
互いにこの息苦しい世相について触れながらも、これを笑い飛ばし、ピュアに生きることで、心身の平衡を保つことが肝要、といった帰結になったのだが ‥‥。

つまりは生き方における美質に信頼を託す、ということ。
友情に生き、そして社会的公正さを重んじるということ。

* 画像Topは分かりやすいようにボンド塗布、クランピング直後の撮影。  
  この後、温水ブラシで洗い、ウエスで拭き取る。

hr

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