工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ブラックウォールナット カップボード

bwカップボード

〈構成〉

  • 高さ1,800hであるが1本立ち
  • 上段は左右帆立、正面扉ともに透明ガラス(面取)
  • 内部・2枚の棚板、Topハロゲンランプ
  • 中段に2杯の抽斗
  • 下段は羽目板の扉、 内部・2枚の棚板

〈寸法〉
 900w 445d 1.800h

カップボード、いわゆる食器棚というジャンルのものになるが、上段の左右帆立が透明ガラスで構成される特徴からは食器をディスプレーするためのもの、つまりはキュリオケースの趣があるものとなっている。

主材を良質なブラックウォールナットで構成したことにも因るが、とても魅力的な家具である。

以下、詳しくみていくが、良質な木工家具が放つ美質を構成する複数の因子のうち、実はその主たるところは材種が持つ固有の魅力であり、また目的とする造形をより的確に表すための木理の選択配置にあると言えるだろう。

そして奇を衒わない端正なフォルム、あるいは伝統に踏まえながらもモダニズム志向から独自に創造されたフォルムは確かな存在感をもたらす。

言うまでもなく精緻な仕口、そして仕事の丁寧さなどは、それらの造形を確かなものとするための必須の要件だろう。

さてまず最初にフォルムだが、ほぼ1:2の矩形。
2枚扉の構成であれば、この間口より大きいと使いづらい。
外形は4本の柱の形状でイメージされる。
これは、いわゆるテリ脚と呼称されるなだらかな曲面形状だが、日本古来より社寺仏閣などに広く見られるカーヴである。

工房 悠の家具のフォルムに多用されるものだが、実は初期のものからは幾度かの変遷があり、現在の形に落ち着いた。
初期のものは、全域に於いてなだらかな曲線を描いていたものだが、今のものは、下部から7割ほどは直線で、残り3割で円弧を描く。
このほうがメリハリが効き、より重厚感を与えるようだ。

木取りは厚みにして40mmほどの追柾だが、左右2本合わせて木理が自然になる配置とする
こうした矩形のものに、曲線部分を取り込むというのは実は大きなリスクを負うというべきか。
多くの場合、破綻すると言っても良いほどだ。

以下個別に見ていく。
カップボード・ディテール

〈帆立〉

ほぼ上下2分割されるが、中央の桟は上段地板の納まりにもなる位置。
上桟は支輪部に照明器具を納めるスペース確保の問題もあり、比較的幅広となった。
したがって下桟は、これとのバランスを考えさらに幅を持たせる。

一つの帆立のような同一平面においてのこうしたパーツの設計は、常にバランスを考慮することは重要
(因みに照明電源コードは後部柱を欠き取り最下部から排出させた)
上段はガラス面となるが、2本の細い貫を置く。これらは正面扉の貫の位置と同一とすることで端正さを確保することとなる。
(因みに内部棚板の位置も同一である)

下段は1枚の板を嵌め殺しとした。
この板は、厚突きのウォールナット単板(柾目)をランバーコアに練ったもの。(自作)

〈正面〉

上段はガラスの観音扉。
扉の框部材は、1枚の板目の厚板から割いて木取ったもの。
したがって、結果全ては相似の木理。リニアな木目が引き立つ柾目取りである。
扉2枚の重ねには、いわゆるオガミを設ける
束、貫は6分(18mm)の幅だが、束は中央に配置せず、やや外側へずらすことで趣が出る。

仕口は2分の面腰。面はいわゆる片几帳面(エッジと深みにおいて効果的)。
抽手デザインも全体のイメージに強い影響を及ぼすが、ここはローズウッドで蝶型のものを自作した。

下段は4分厚の羽目板を納めた観音扉。框仕口等は上段と共通。

羽目板は、厚板から再製材して木取る。いわゆるブックマッチ。

抽斗前板はプレーンな外形。面は糸面のみで、駆体と同一平面。
良質なブラックウォールナットの柾目部を用い、端正なイメージを引き出す。
抽手はローズウッドで自作(ピンルーター、倣い成形と切り出し)

支輪は少し強い板目としたが、柾目であっても良かったかもしれない。
正面に向けてやや下にうつむき加減の傾斜を持つ。駆体より8分ほど出っ張っている。

見付全体形状はテリムクリ。

棚口はいずれも駆体より8分ほど出っ張らせている。
この意匠は西欧にも日本でもあまり見られないかも知れないが、李朝などでは決して珍しくはない。黒田辰秋御大の飾り棚にもあったはず。

最下部、棚口の下、画像では隠れて見えないが、左右の柱から棚口下部に持ち送りを設けている。こんな小さなものであっても全体のフォルムの統一性確保に寄与している。

カップボードという木工家具はいわゆる箱物の中では比較的需要が多いジャンルだろう。
マンションでのダイニング・リビングという構成の間取りは一般的で、客を招き入れる部屋に置かれるというものでもあり、オーナーの嗜好、美意識を表すものとしての性格を持つものと言え、より良いものを選びたいもの。


今回、「ブラックウォールナット カップボード」の概略解説を試みたが、これは既にWebサイトに納められた家具について、少し詳しく言語化してみようという試みの1つ。
今後、このように工房 悠の主要な木工家具について引き続いて解説を試みていきたいと思う。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 本来、3次元の立体造形をインターネットという2次元の世界に
    閉じこめてしまった訳ですから、どうしても無理が生じますよね。
    言語化することで、その無理を多少補うことができるかもしれません。
    実際、支輪が傾斜しているとは、言われてみないと写真では分かりません。
    多少なりとも正確な立体造形を頭に浮かべることができれば、印象も
    随分変わって来ると思います。
    ところで、artisanさんのHPやブログを拝見していて気が付いたことが
    ひとつ。
    チェリーの作品が無いですね。
    ブラックウォールナットとは、その表情が対象的ではありますが
    アメリカの代表的な材を、ここまで偏って使われているのも
    珍しいかなと、思っています。

  • acanthogobius さん、コメント感謝 !
    造形物を“言語化”する作業というものも、果たしてどこまで有益かははなはだ懐疑的ですらありますが、てなぐさみ程度にお受け取りください。
    語れば語るほどに本来の魅力的なエッセンスがこぼれ落ちていったり、なんてね、
    確かにチェリーの家具が何故かありません。
    これまではミズメとかを大量に使ってきたということもありますね。
    実は4"のフリッチのチェリー材を確保していたりとか、3年前にも原木製材しているのですがね。
    老後の楽しみに‥‥(苦笑)。

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