工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

木に内在する表情を読め

くるみラダー
今日の仕事は椅子のバックのラダーの木取り、成形加工など。
200本近く作るので1日仕事だ。
成形は帯ノコ、ルーターマシーン、面取り盤などを駆使して、精度の高い正Rの円弧状ラダーを作るのだが、無論ナイフマークは残るものの、とても綺麗な切削肌で仕上げることができる。
したがって後はホゾを付けた後、面取り、サンディングと移行し完成する。
機械設備の問題からこうしたプロセスが確保できない場合はどうするのだろう。
もちろん1本、1本手鉋で作成することもできなくはない。
しかし円弧の精度、寸法精度を同一複数の条件で確保するというのは無理な話し。=無謀。
また所要時間はとんでもない単位となることも確か。
これらは全て人件費となって商品(作品?)の価格へとはねかえる。


ところでこのラダーはわずかに22mm幅のものであるので、個々の木目を意識して木取ることがさほどの結果を産むとも思えないかも知れないが、それでもやはり日本人の古来からの木目への審美眼を意識して、R加工の結果、どのような木目が引き出されるかを想定しての作業となる。
以前、J・クレノフ氏のセミナーに参加させていただいた時の師からのいくつかの指摘の中でも彼が強く訴えていた1つの大切なことがある。
木の内部に密かに眠る木目の表情をどのように引き出すかは木取りのその方向で決まってくる、ということについてであった。
確かに有機素材であれば、人の想定を寄せ付けない複雑な細胞が配列されていることは当然であるけれど、しかし木表、木裏。末口、元口、とその組成を所与の条件として捉えることができる職人であれば、内部の細胞の配列というものをあらかじめかなりの精度において知ることができるものである。
ただ普段はそうしたことを意識外においているだけであるが、Rを成形する時などはこれを呼び覚まし、意識して木目の配列を獲得するようにしたいものだ。
例えば、椅子のラダー、あるいは笠木でも良いが、どちらからRを取るのかで全く異なった表情が出てくる。
心材から辺材に向かって内Rを取れば木目(年輪)中心部から外へと拡がり、不自然な感じを与えるが、逆であれば太鼓型に木目が通り、落ち着く。
笠木などであれば、オイルフィニッシュなどの仕上げの場合、この表情が全体のイメージに大きく関わってくる。
工房家具というスタイルにおいてはこうした木との対話を通した意識的で丁寧な加工手法を取ることで、木工という自然素材ならではの有為な働きかけと、その結果における美しさというものが獲得できるだろう。

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