工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

技法の伝授の難しさ

面腰
画像は框ものの仮組。
いわゆる「面腰」(腰落ち、なんて言い方もあるようだが)という仕口のサンプル。
週末に予定されているレクチャーの1つに関わる準備。
ボクは採用した弟子には当然にも技法のすべてを教えるが、外部でそれらをレクチャーするなどということはほとんどしてこなかった。
尋ねられれば公開しないこともないが、それはあくまでもその人がそれらを有用に使いこなしてもらえる、ということを条件としたいからね。
決してシークレットなどという狭隘な考え方には立たないものの、正しく伝えられないような中途半端な手法は取りたくないということだ。
換骨奪胎されたものではなく、まずは適正に理解し、それをさらに次の代へと伝えていってもらう、という連綿としたものに関わっていくというのがボクらの選ぶべきスタイルだろうと思うからね。
ところでなぜ「面腰」かと言うと、意外にもこんな基本的なことが活用されることなく、部材接合における納まりにおいて、それを選択しないがために無駄な苦労をしていることを見るという事があまりにも多いから。
まずは手始めにそんなところからクリアにしてきたいと考えている。
以前TVのスポットCMに、民話「鶴の恩返し」のパロディーがあり、最後に「羽があるのになぜ飛ばないの?」というフレーズがあったように思うが、昇降盤を設置しながら、なぜ仕口加工に活用しないの?との嘆きを共有したいと思うしね。


「面腰」というのは、単に建具(扉、引き戸など)の仕口に必須なものというだけではなく、様々な造形に有用なもの。
いわゆる「納まり」における面成形を自由にし、また接合強度を確かなものとしてくれる仕口として大いに活用すべきというのがボクの信条でもある。
これを施さず、様々な手法によって逃げを切るのを見ることは多いが、これにはガクッとうなだれるしかない。
量産家具だけではなく、多くの「手作り●▼」においてもしかり。
なお木工の仕口についての技法というものをはテキストとして言い表せるものではない、との立場に立つつもりはなく、習熟、熟知した者が表現力を駆使して、あるいは図解して記述すれば、たいていのことは伝わるものと考えている。
しかしボクにはそうした力量は備わっておらず、やはり長嶋のバッティングコーチではないが、「こうやって振り抜くんだよ‥‥」と、ばかりに、相手の目を見ながら、身体性で示す手法の方が相応。
安易にこうしたBlogで語らないというのも、そうした理由からだ。
木工機械というものが持つ能力、汎用性というものは限りなく奥が深い。
それを駆使して精緻な加工を施すには、その作業者のアイディア、経験の蓄積、様々な知見などいくつかの要素が必要となるだろう。
それらのいくつもをはしょって、ハイ、これが仕口ですよ、と簡便に伝えることの、ある種の罪深さというものを、長年こうしたBlogをしていて感じさせられる事は多い。
簡便に伝えられるものなどというのは、所詮その程度の雑ぱくで底の浅いものでしかないというのも、事の真理ではある。
先輩諸氏などからは、あんまりぺらぺらしゃべるんじゃないよ。俺は絶対聞かれても教えないよ、と頑なに閉ざす人も少なくない。
それもひとつの見識であろうから、異論を挟もうとも思わない。
それぞれのスタイルで関われば良い。
畢竟、伝える人と、それを受ける人との関係性であり、あるいは社会性であるとも言えるかも。
ただやはり、現代のこのネット社会の到来で、そうした関係性というものが大きく変容をきたしていることも確かで、そこでの距離の取り方というのも難しくなってきているのは事実だろう。
一方ではネットサーフィンしていると、関連することで誤った情報も散見させられ、鼻白むことも少なくないからなぁ。
訝るとともに、自戒、自省、\(__ )
リテラシーを強くしなきゃね。
っとっと、明日はもう立冬だぜ。仕事、仕事 !!
*うちの框組のキャビネットの全てに「面腰」は施されているが、代表的な事例は以下。
カップボード
ワインキャビネット
水屋
 (Detailに見る、紐面)

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