工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

職能の獲得と経験

先のノギスに関する、クソリアリズム的小論ですが、自分でもアホクサと思いつつMacのキーを叩いたのでしたが、この種のチップを書き始めたらいくらでもでてきそうで、程々にしないといけませんね。

しかしこれらは一見何気ないものに思えても、実は現場においては有用なことが多いものです。
そうでありながらも、意外と気付かず鈍くさい方法を取り続けるということもあるでしょう。

職人もモノづくりに向かうその思考スタイル、あるいは手の捌き、道具への関わり方、そうしたものは千差万別で、私も他人の手法を視てるとすごい、すごい、と感心することも屡々ですし、逆に鈍くさいことしてるな、と思うこともあるものです。

ある程度の規模の木工所であれば、親方、兄弟子、あるいは後輩と、様々なキャリアの職人の共同体的な職場状況で多くのことを学ぶことができます。

私は木工を生業として生きていこうと決め、その後いくつもの木工産地、あるいは木工家といわれる人を訪ね歩いたのでしたが、最終的に選んだのは信州の松本民芸家具でした。

理由ははっきりしています。
大量工業生産物ではない、本来の木製家具の製作現場の職人集団として形成され、意志のある若者を積極的に受け入れ、修行する場としては最適だろうと考えたからです。

そこでは熟練の親方から老齢の職人、勢いのある兄弟子にしごかれ、玄翁で叩かれながらも、彼らの仕事を盗み見し、仕口の加工法、段取り、あるいは巧緻な逃げなども含め、多くの事を学ぶことができたものです。

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佐藤俊介 《Bach 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ》全曲演奏

秋の好日、浜離宮朝日ホールでの『佐藤俊介 Bach 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ』を聴いた。

佐藤さんは以前より古楽器による演奏団体、オランダ バッハ協会のコンサートマスターをしており、その頃から注目していた演奏家だったが、本年6月にオランダ・バッハ協会の栄誉ある芸術監督の座に就き、今回の日本国内ツアーはいわば凱旋公演のような趣の演奏会だ。

しかもバッハ・無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータの6曲を演目に選ぶという力の入れよう。
もう、こうなれば四の五の言わずに聴きにいくしかない、との思いで駆けつけた。

浜離宮朝日ホールは久々だが、リサイタルの劇場としては規模も適度なホールで音響も悪く無い。
立地は築地市場の隣なので、然るべく寿司などを腹に収めてから入場するにはもってこいだしね。

あまりたらふくに満足しちゃうと眠気を催すのでマズイだろうが、パンフレットのページを繰る音さえ憚れるような雰囲気だったし、なんの、この日の演奏は緊張感にあふれ、18世紀半ばに描かれた五線譜から読み解かれ、バロックヴァイオリンから放たれる厳しく、あるいはまた優雅な調べは、天上から舞い降りる神の教えのように、充実した3時間余の時間を楽しむことができた。


遠目では良くは確認できなかったが、佐藤さんが手にするのはバロックヴァイオリン(私の席は前後の真ん中、左右の中央部)。

ネック部分はやや太く、指板がモダンヴァイオリンが黒檀なのに対しネックと同じ素材(メープル?)に象嵌で模様が施されており、柔らかく暖かみのある音色が特徴的でバロックヴァイオリンならではのものだったようだ。

たぶん、この音色の違いはヴァイオリン本体の違いとともに、パンフレットにも記されていたがガット弦であることでの響きの柔らかさに繋がっているのだろう。

佐藤さんは元々はモダンなヴァイオリン奏者として研鑽を積んできたわけで、たぶんこの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータも最初はモダンヴァイオリンで弾いていたのだろうと思う。
しかし今はオランダバッハ協会に所属しているという事を越え、自身の積極的な選択からバロックヴァイオリンを弾く。

ガット弦という自然素材ならではの困難はむしろ、毛の数が少ないというバロック弓と合わせたとき、良い響きを醸すとも語っていて、一方彼自身は五線譜はただの記録でしか無く、21世紀に生きる自分の解読と奏法で弾くのが私のスタイル、と語る潔さと対比したとき、その深遠な世界をのぞき見る思いがしてくるではないか。


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木材加工におけるノギス

木工加工でノギスを用いる意味について

私はたとえ有機素材を対象とする木工にあっても、その制作過程における基本的なスタイルにはプロダクト的な思考が欠かせないと考えています。

もちろん、木工製品の評価や魅力というものは意匠であったり、フォルムであったり、素材感であったりと、工業製品には無い美質や感性に訴える領域が重要であることは言うまでもありません。

構想から設計段階においては自身の信ずるフォルムを練り上げ、あるいは美質の追求をとことん行いつも、しかし具体的な設計においては、そうしたプランを木工加工プロセスへとロジカルな思考で落とし込まねばなりません。

なぜなら構築的な性格を持つ木工、機能性をも求められる家具においては加工精度の高さは所与のものでなくてはならないからです。
そうした必須の条件を満たしてはじめて、目的とするフォルムを生み出し、ねらった美質も醸されてくるというわけです。


ここ数回にわたって展開しているノギスによる枘の計測という状況を事例として、具体的に考えてみましょうか。
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《小型ノギス》木工加工向けのカスタマイズ

ノギスの先端・ジョーのカスタマイズ化

木工作業における小型ノギスですが、使い始める前のカスタム化について少し触れておきましょう。
小型ノギスを木工加工作業で用いる場合、買い求めた時の状態では使い勝手は良くありません。

木工作業における小型ノギスの用途も様々です。
その中でも部材断面の寸法を計測するケースが多いと思いますが、次いで多い測定対象は枘加工での枘の寸法ではないでしょうか。

そこでここでは枘の寸法を計測する際のノギスについて考えて見たいと思います。

丸鋸昇降盤での枘加工のような事例では、カットした鋸のアサリ部位にノギスのジョーを挿入し、その厚み、幅などを計測することがよくあると思います。

枘を加工し終えれば、厚みも幅も容易に測定できますが、加工途上では鋸を入れたアサリ幅の溝(2.2〜3.0mm)があるだけで、ここにノギスを挿入して計測しようとしても、そのままではノギスのジョー先端はアサリ溝幅より大きいために挿入できません。

そこでこの丸鋸による切削で付けられた溝に挿入可能なところまでジョー先端を切除せねばなりません。

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OEMでも ちょっと意外なクォリティだった《小型ノギス》


画像の説明(上から)

  1. 200mm仕様のちょっと大型のノギス
  2. 150mm仕様の標準サイズのノギス
  3. 100mm仕様の小型ノギスA(Bad)
  4. 100mm仕様の小型ノギスB(Bad)
  5. 100mm仕様の小型ノギスC(Bad)
  6. 100mm仕様の小型ノギスD(Good!)

ノギスは木工に限らず、精度が要求されるモノづくりの作業においては欠かせない大切な計測器です。
150mmほどが計測できるサイズのものが一般的ですが、木工でのホゾ加工などではポケットサイズの〈100mm〉という仕様のものが何かと好都合なものです。

オンラインでもホームセンターでも数種の小型のノギスが市場展開されていますが、その多くはバーニア目盛りが打たれたスライダーと呼ばれる可動部分の上下のパーツは“ネジ止め”になっているものが主流になっているかと思います。

これがいけません。
やがてはこの小さなネジは緩み、目盛り精度が崩れ、さらには脱落して使用不能になってしまうこと屡々です。

木工職人歴ン十年の間、お釈迦にしたポケットノギスの数、たぶん2桁にもなるでしょう。
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天板止め コマ金具(オリジナルな クランク型金属製)の頒布

前回紹介したクランク型金属製のコマ金具ですが、いくつかの問い合わせがありました。
その多くはこうした金具は市場には出回っておらず、入手できないものか、といったものです。
確かにあらためてググってみても、ヒットするのはこのようなクランク型のものは前回記事で紹介した小さな米国製のものしかなく(国内での販売は無いようです)、国産では皆無です。

そこで、私の手元に若干の余剰もありますので、希望の方に頒布させていただきます。

数に限りがありますので、予定数に達した場合、先着順で締め切らせていただきます(このBlogで告知します)

《コマ金具》

  • 素材:鋼鉄製
  • 仕上:GB色メッキ
  • Size:25×35 2t 木ねじ下穴;5×15 mm
  • 縦、横 2種
  • 頒布の単位:縦、横 ともに50個単位
  • 頒価:1個、60円(税込)、送料別途(ゆうパック料金)

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天板止めコマ金具

キャビネット、テーブルなどの天板を駆体本体、あるいは脚部に固定する方法はいくつかありますが、皆さんはどのような方式で固定されていらっしゃるでしょうか。

私は寄せ蟻や吸い付き桟などを使う場合もあれば、一般的にも良く使われる〈コマ止め〉を使ったりします。

先頃、当地の家具屋、木工家など、数社がまとまり、1つのコマを家具金物屋に製造依頼し作ったところなのですが、今回はこれを含めたコマ金具の紹介です。

これらはありふれた既知の情報でしかないかもしれませんが、Blog読者の中にはポンッと膝を叩くほどの新発見があるかもしれません。

今回のコマ金具リスト

写真右から

  1. 平板
  2. L型金属
  3. クランク型金属(米国の市販)
  4. 木製(自作)
  5. クランク型金属、縦、横(今回製造したカスタムメイド)

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ブラックチェリーのエレガントなデスク(続

チェリー、エレガントデスク

今回のブラックチェリーのデスクですが、少し制作プロセスなどの要点について記しておきます。

いくつかの点において、ユニークな設計、特異な仕口もあるところから、多少は有用かと思います。

あらかじめポイントを絞れば以下のような内容です。

  • 甲板の納まり
  • 中央部の吸い付き桟を兼ねる仕切り板
  • 吊り桟(妻手側 上下の桟の機能)
  • 〈天秤差し〉の抽斗

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ブラックチェリーのエレガントなデスク

Cherry_elegantdesk01

左右に小さな袖を持つ、やや大ぶりのデスクです。(1,630w 790d 710h)
全ての部位を1本の丸太原木から吟味し付くし、贅沢に木取りしたものですので、質感など統一感にあふれた仕上がりになっています。

左右に抽斗の袖をぶら下げ、中央に薄い抽斗を設けたシンプルな構成。
左右の抽斗は内寸は310mmほどと、ほぼ標準的な横幅を確保し、細かな文具を整理できる既製品のトレーがジャストフィットするサイズになっています。

また左右の抽斗は比較的深く設計しましたが、トレーを用い内部を2段に使えるよう左右の側板に細い棚受けを埋め込んであります。

甲板の奥行きは760mmほどありますが、2枚矧ぎの構成。製材された隣り合わせの板を木表で矧いだ構成です。
見え掛かりではその厚みはわずかに12mmしかありませんが、内部にもう15mm入り込んでいて、実際の厚みは27mmです。

引き出し部位も上端にあえて白太を残していますが(左右、中央ともに1枚の板から裁断したもの)、甲板も前後に同じように少し白太を残す木取りにしています。
色調のコントラストでのアクセント効果といった意味合いがあります。
チェリー エレガントデスク2
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SSL 対応(Webサイトのセキュリティ強化)

猛暑が続いていますが、みなさま、お変わりありませんか?
住まいではエアコン漬けで凌ぐとは言っても、作業場では扇風機だけですので、たまりませぬ。

木工で特に困るのは、塗装前のサンダー仕上げを終えた素材に、額などからしたたり落ちる汗が付着する場合ですね。
仕方がなく、アイロンで乾燥させ、再度サンダー仕上げとなるわけですが、どうしてもムラになりがち。

立秋を越えたとは言うものの、ホンモノの秋が来るのを待つばかりのartisanですわ。

さて今日はインターネットアクセスに関わる話題です。

What’s SSL(Secure Sockets Layer)?

多くの方々がインターネットにアクセスする時代になってるとはいえ、このSSLは必ずしも認知が広まっているとは言い難い。

ただ、本年7月からGoogleが開発運用しているブラウザ・Chrome では、クレジット情報など秘匿性の強い情報の有無に関わらず、HTTP接続というだけで警告表示されるようになってきていることに気付かれた方もいらっしゃるでしょう。

私が設置運用しているこのBlogおよび公式サイトではネット販売しているわけでも無いのですが、“このサイトは“危険ですよ!”などと警告されるのはたまりませんので、遅ればせながら、SSL化の作業をしたところです。
これからはは全て、常時 暗号化されたものになりますので、安心してアクセスしていただけるというわけです。
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