工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“手作り家具”と機械設備(その6)

テストインジケーター

機械のセッティングに関する問題について 

うちでは年末の大掃除の後には機械をメンテナンスすることは恒例となっている。
オーバーホールと言うほどのものではないが、摺動部に給油したり、回転部のグリスを交換したりといったことなどだが、ここにフェンスの調整などを含ませることがある。
丸鋸昇降盤などの木製のフェンスは、日々の過酷な使用で本来求められる要件である平滑性というものが損なわれる。これは定期的に削り直すなどで、常に平滑性を確保することが必要となる。

以前、ある木工専門学校の開校後のサマーセミナーに参加させていただいたことがあったのだがその時のこと。
その機械室には光り輝く新品の機械が鎮座していたのだったが、いざ使おうとすると基本的な精度設定が全くと言って為されていなくて苦労したことがあった。

結局とりあえず必要とされるいくつかの機械をボクが調整、設定するというはめに陥ったのだったが、機械などというものは機械屋任せにするのではなく、結局作業者が然るべく設定しなければ使い物になるものではないと知るべきなのだろう。

この学校の運営責任者、担当教授には相応の責任を問いたいところだが、開校間もない時期であったという事情もあったのだろうか。
さて一般に工場などでは工場長、あるいは機械管理責任者がこれを担うことになるが、ボクたち零細規模の工房では、主宰者自身がこれを担わなければならない。
以下、簡単ながら機械の設定について考えてみよう。


〈丸鋸昇降盤〉

  • 主軸の回転精度の確認:テストインジケーター(これは必須の計測器)で振れを見る。許容値を超えれば、機械屋に修理をしてもらおう(導入する際に良く確認して、そんな問題のある機械は買わないように)[許容値は後述のJIS規格から]
  • フランジ(元側、締め付け側)の精度を確認(同じくテストインジケーターを用いる)
  • フランジの表面の傷(特に落下させることの少なくない、締め付け側)を確認する
  • 定盤の平滑精度の確認:中古品の場合、定盤Topの面、中央部付近がへたっていることは意外と多いもの。
    この精度が出ていないと、加工上大いにストレスになる。
    この場合フライス加工が必要となる
    へたる原因は、酷使、使用環境もあれば、鋳鉄の品質にもよる。
  • テーブル傾斜についても、軸傾斜についても同様に鋸の傾斜のゼロアジャストを完璧に設定しておこう。(チェックは2本のテスト材をカットし、この切り口を対面させくっつければ簡単に判定できる)
  • 定規(フェンス)の面精度の確認、鋸軸との直角度の確認(鋸面との並行度)、
    定盤との直角度の確認(前後、中央の3ヶ所で行う)(画像)
    鋸軸との直角度の精度が出ていない場合の調整方法だが、その機構によっても異なるが、締め付けボルトで調整可能なものもあれば、不可能なものも多い。
    その場合はラック・アンド・ピニオン部の摺動部の端末部を叩き出すことで少しは対応可能。あるいはフェンスの金属部と貼り付ける板との間にスペーサーを咬ませるなどで対応させる。
  • 三日月定規の摺動部の左右のブレを極小に設定する(方法は摺動レールの先端、および端末の角を玄翁で叩き出すことで簡単に調整できる。やりすぎればヤスリで削ればよい)。左右の振れのガタを極小に、かつスムースな摺動を保持できるぎりぎりのポイントのところまで調整する。(画像)
    例え新品での導入ではあっても、恐らくは多少の遊びがあり、必ずしも望むタイトな設定にはなっていないもの。
    必ずブレの調整を行っておくこと。
    また、このような調整方法は過酷な使用環境では継続使用に耐えられるのは数ヶ月という単位であろうから、時折チェックするようにしたいもの。
  • 口板と定盤の高さを同一に調整する(一般には口板の底、4隅に木ねじを埋め込み、これで高さ調整を行う)

以上のような調整がされていないと、リッピング(挽き割り)、胴付きの切り込み、溝突き、段欠きなど全ての加工作業において、加工精度を欠くことになる。
なお、こうした木工機械の調整方法については、訓練校のテキストなどにもJIS規格からの引用として詳細に紹介されているようだし、手元にあるならばそれらを参照されたい。

またJIS規格についてはネット上でもPDF書類として提供されているので、これを活用するのがよいだろう。

■ 日本工業標準調査会、データベース
調整次のページ「JIS検索」の検索窓から「木工機械」と入力すれば、関連の項目にジャンプし、必要な項目のPDFへとたどり着ける。
家具制作の工程における大切なことの1つとして、まずは基本的な工程を設計通りに進めることが重要。
この目的を果たすには加工工程の重要な要素である機械加工において、極力曖昧さを排除し精度を高めるように努めなければならない。

つまり木という有機素材を対象にするとはいえ、その基本的な加工における思考はあくまでもプロダクトとしてのそれでなければならないということになるだろう。

意外とこうしたことが曖昧で、アバウトな環境で加工を行っているという現状もありはしないだろうか。
いずれまた機会があれば記述せねばと考えていることだが、寸法精度をしっかり出すなどと言うことはイロハのイであるが、こんなことはノギス1本、スケール数本さえあれば何も難しいことではない。

しかしこれを怠り、ホゾなどの場合、いちいち対応するオスメスの嵌め合いを確認しながら、いわゆる現物合わせという方法でやっているというケースも散見される。
確かに樹種により、あるいは部位により、同じ設定でもビミョウに逃げる、などの不具合はあり得るのが木工の世界だ。しかしそれをいちいち個別に合わせていたのでは、三次元の構造である家具という構成において総合的な精度は求めるべくもない。

そうした方法で個々の嵌め合いを例え極限的に追求したとしても、トータルでは求められる精度が大きく損なわれるという結果が待ち受けているだけだろう。
あくまでも設計に基づき、プロダクトとしてのロジカルな思考に準じ、精度を追求するというのが基本でありたい。
そうした思考を担保させるのが、機械設定、調整における精度追求となってくるのは必然。

さてまずは丸鋸昇降盤についての調整について記述を始めたのだが、他の機械においても基本的な考え方は同じこと。
以降は、個別の機械における固有の問題だけを取り上げるに止める。全体の主旨からは本項は補足的なカテゴリーでしかなく、あまり深入りしたくないからね。

hr

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