工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“プロダクト的思考”と“手作り家具”

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Top画像は、個展会場に展示した座布団椅子のラダーの部品。
1,200Rの円弧状のパーツに枘を付けたところ。(材はオニグルミ)
この後、小さな坊主面を取り、サンディングに掛かります。

1台、11本のラダーが必要ですので、会場に展示した3台ですと33本。
歩留まりを考慮し、40本ほど作ります。

今回は改良を施しましたので試作的な意味もあり、3台分の分量ですが、通常は10〜20台分ほど作ります。したがって、その数、110本〜250本ほどに。

これをいかに高精度、高品質に作るかは、この椅子制作上における1つのキモにもなってきます。
“手作り家具”屋さんは、この場合、どのようにして作れば良いとお考えになるでしょうか。
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“納まり”と“逃げ“ (個展会場の作品から)

松坂屋個展会場・座布団椅子

松坂屋個展会場・座布団椅子


個展も会期半ばと言うことになりますが、1月間という、かなり長期にわたる百貨店での会期を運営するのは大変です。

出展者である私は週末を中心に立ち会うようにしているものの、それ以外は百貨店のスタッフに委ねざるをえず、接客対応の面では、やや心許ない感じは否めません。

さて、今回は出展作のいくつかに焦点を当て、その特徴などを記述してみたいと思います。

座布団椅子

これは私の定番の椅子の1つですが、これまでのものに、数カ所、改良を施しています。
製品番号を付しているわけではありませんが、これまで数たくさん制作してきた椅子です。
たぶん、200脚近く制作してきています。

個人でこれだけの数の椅子を制作してきたのは、数回にわたり、複数個所でのカタログ通販で販売されてきたことにあります。

最初は『家庭画報』のショッピングサロンというコーナーへの掲載によるものでしたが、あまりの受注の殺到で、訓練校在校生の夏休み時をねらい、アルバイトを雇い、何とか凌いだものです(その生徒にも良い経験になったはず)。

その後、別途、新たに商社系のカタログ通販でも好評を博したものです。
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個展・開催中です

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画像中心に紹介しましょう。

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ところで、百貨店の過酷な過乾燥環境下による反り、収縮の問題は覚悟していたものの、いささか頭を抱え込んでいるところです。
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名古屋で個展をします

以下の要綱で個展を開催します。

生活をアートしよう
杉山裕次郎 木工家具展

会場:松坂屋名古屋店 本館8階 イベントスペース (adobe readerアイコン8f.フロア図)
会期:3月23日(水)〜4月19日(火)

〈同時開催:木工椅子展〉
藤井慎介、古谷禎朗、矢澤金太郎、矢澤良平、山本修

松坂屋名古屋店での個展は2010年以来、2度目です。
このところ、住宅と工房の建造に専念するという状態でもあり、展示会は控えていたところでしたが、断ってばかりいますと、やがては忘れられてしまいますからね。苦笑

会場は松坂屋名古屋店、本館8F美術フロアのイベントスペースです。
(前回は新館でしたが、お間違いの無いように)

約15坪ほどのスペースですが、同時開催の椅子展もありますので、私はキャビネット、テーブル、椅子、フロアスタンド他、小物、等、20点ほどになりますでしょうか。

1月間という長い期間ですので、私は週末中心に在廊する予定です。
面談しての家具制作の相談などは、できれば週末にお願いできればありがたいです。
また事前にご連絡頂ければ、可能な限りに対応させていただきます。

お待ちしております。
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震災から5年という月日が意味するもの(2)

3.11大震災からの復興を考える=日本のこれからを見通す試金石

前回視てきた復興をめぐる5年後の状況、槌音高くインフラ事業が進む一方、間もなく避難生活支援金が打ち切られる被災者の困惑、あるいは移り住んだ災害復興住宅地域での過疎化、高齢化など、これらは日本が抱える問題をある種先取りしたものと言える。

この後、少し詳しく見ていく福島第一原子力発電所過酷事故からの復旧、つまり本格的に始まった廃炉へ向けての事業の困難さ、あるいはこの事故への原因究明すら十分になされぬままに、日本列島に設置されている44基の原発のうち、24基が再稼働申請され、そのうち、川内原子力発電所1号機が「新規制基準」の下で運転再開し、これを突破口として今後相次いで運転Go!の認可が出されようとしているのだが、311前の「安全神話」が「世界一厳しい安全基準」なるもので糊塗され、ゾンビのごとくに復活しようとしている。

前回冒頭に挙げた大津地裁での高浜原発の運転差し止め決定は、まさにこの「安全神話」を根底から問いかけるものだったわけで、高浜固有の問題点を突くというよりも、311、F1過酷事故とその後の原発を巡る旧態依然たる日本の暗部を問いかけ、待った!を掛ける静かな叫びだったように思う。

ドイツは3.11に衝撃を受け、当事国日本の優柔不断な対応を尻目に、直後からそれまでの原発依存体質からの脱却を決断し、一転して再生可能ネルギーへの転換を決め、着々と新産業への税制誘導などで、フクシマを克服する道を選択している。
この東西の彼我の差は何だろう。

さて、これまで記述してきた3.11復興事業に投下されている巨額予算の使徒に関わる問題、原発過酷事故後の再稼働に突き進む原発ムラの問題。
これらの信じがたい国内の空気を考える時、地球規模での大きな時代の転換点に差し掛かっている状況下、世界の中にあって、日本が果たしてこの先、社会経済システムがまともに存立し得るのか、という怖ろしくて考えたくも無い事柄が頭をよぎる。
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震災から5年という月日が意味するもの

高浜原発・運転差し止めの仮処分決定

311・F1過酷事故から5年目を数日後に控え、高浜原発の立地県の隣、大津地裁 ・山本善彦裁判長は9日、滋賀県の住民29人の訴えを認め、稼働中の原発に対しては初めて、高浜原発、2基の運転を差し止める仮処分決定を下した。

NHKの速報が耳に入ったのは移動中の車のラジオからだったが、すぐに駐車場に車を止め、TVに切り換え、再確認後にTwitterで拡散。
iPhoneのキータッチは少し震えていたと思う。

それほどに唐突な感が否めなかった。
最初は前の週、高浜原発4号機の再稼働から本格的発送電に入る矢先の変圧器トラブルとかによる停止、再調査に関わる事案へのイエローカードかと早とちりさせられたのだったが、さにあらず、運転差し止めの住民訴訟への司法判断だったと認識し、あらためて、事の重大さに気づいたというわけだ。

つまり、現在運転中の3号機を含む、関西電力高浜原発3、4号機を停めよ、という前例の無いセンセーショナルとでも形容したくなるほどの司法判断だった。


識者によれば、かなり粗雑な検討しかなされていないとする原子力ムラ的受け止めも無くは無いが、「全体としては是々非々の、バランスのとれた決定」「裁判所は政府の主張を機械的に追認するのではなく、自分の頭で一つ一つ主要な争点を判断している。かなり高度なレベルで判断しており、非常に真摯な姿勢で取り組んでいる。原発に対して批判的な技術専門家の判断が生かされた形だ」(吉岡斉・九州大教授)といったところが、大方の受け止め方と言って良いだろう。
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大型の帯ノコを導入

CB 100FA、CB 75F

CB 100FA、CB 75F

改められた作業所は以前のほぼ倍の広さがあり、機械のレイアウトには余裕があるのですが、これ以上の機械設備の強化は必ずしも意欲的ではありません。

しかし、やってくるのですね。
今回は日立工機の《CB 100FA 》という、鉄車タイヤの本格的帯ノコ。

日立工機 〈CB 100FA 〉

起業時には、この〈CB 100FA〉の弟分の〈75F〉(画像右)、という機種を導入していたわけですが、較べれば、何と〈75F〉の小さきことか。弟分というより、まるで子ども。

しかしながら、75Fでも硬質材、315mm厚までも問題無く切削できましたし、細帯ノコでの曲挽きなどにも活躍するなど、決して侮れない働きをしてくれていたことも確かです。

今回、大型の帯ノコ導入に踏み切ったのは、決して75Fの調子が悪いからというわけではありません。
ただ少しだけ不満が。
挽き割りが315mmまでしかできないという、その絶対的な能力においてです。

どうしても400mmほどのものを割きたいケースがあり、県立工業試験場に借りに出向いたり、菓子折ぶら下げ、大型帯ノコを設備している知人木工所を訪ねたりと、心苦しい思いもしてきたというわけです。

例えば、キャビネットの帆立の部材であったり、扉の鏡板などを挽き出すケースです。

1つの部材を1枚の板では無く、複数枚で矧ぎ併せ、構成するというのは可能な限りに避けたい。極力避けたいわけです。

一般に入手可能な材料で、かつ一般に個人でも設置可能な機械により、獲得可能なものであれば、それを追求すべきであろうと考えるのです。
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鉋掛けという工程について(番外編・鉋台の口埋)

口埋めに関してですが、前回の記事、Top画像に上げたのが、私の鉋の実態というわけで、おそれながら、恥部を曝してしまっていたところですが、
下端のみの画像で、分かりにくいとの問い合わせもあり、恥晒しの序でに、表側も貼り付けてみるることにしました。

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位置関係は前回Top画像のモノと同一に対応しています。
上、左から順に

  • 寸二 小鉋 口埋:赤樫、鉋店による施工
  • 寸八 平鉋 口埋:赤樫、鉋店による施工、木ねじ、スライド式
  • 寸八 平鉋 口埋:赤樫(台も赤樫)、鉋店による施工、木ねじ、スライド式
  • 寸四 中長台 口埋:白樫、自身の施工

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鉋掛けという工程について(番外編・油台に関する考察)

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Linkしている四日市の服部さんのBlog「ろくたる工房日誌」から、鉋の「油台」に関わる記述の記事にピンバック[1] が飛んできました(2016/02/20)
せっかくいただいたピンバックですし、良い機会ですので、あらためて1つの記事として上げることにしました。

油台にしたきっかけ

鉋の仕立ての初期の段階では、私は油台にしていませんでした。
その後、あることをきっかけとして油台の効用に目覚めたということがありました。

それは昨年103歳でお亡くなりになった静岡の斎藤さんという椅子制作のプロフェッサーを講師として迎えた静岡市主催の業界若手職人を対象としたワークショップでのこと。

斎藤さんは戦前、皇居の調度品などを手掛けている工房で修行し、戦後、地元の静岡に帰省し、個人の椅子工房を起ち上げ、地域では唯一と言ってよい、様式デザインの椅子を制作していた椅子職人、いわゆるチェアメーカーでした。

このワークショップにおいては、様式的な椅子ですので、曲面加工、曲面仕上げの工程がとても多く、小鉋、反り台鉋、南京鉋などを駆使することになったわけです。

私は一通り、そうした道具を所有していましたが、ただ経験が浅かったこともあり、十分に使いこなせず、初心者の域を出ていなかったのではと、思い起こします。

先生、斎藤さんは、頻繁に鉋の台に油壺を当て、油を引き、シュ、シュッと小気味よく削っていたものです。
確かに自身でも行えば、曲面切削で起きがちな摺動性の疎外も緩和され、スムースに運行することに気づくという経緯がありました。

その後、同講座参加者のキャリアの職人から「油台」なるものを教示され、小鉋全般にわたり「油台」にするということになっていったわけですね。(寸六、寸八の平鉋にはしません)
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❖ 脚注
  1. WordPressでのピンバックとは []

鉋掛けという工程について(その5、最終)

ミズナラの甲板への鉋掛け

ミズナラの甲板への鉋掛け

木材加工における精度のファジーさ(有機素材ならではの特徴)に機敏に対応する切削の道具

木のモノ作りとは言っても、その世界は多彩ですが、そんな中にあり家具制作というのは、木の部材を組み上げ、目的とする形にしていく、というところに大きな特徴があります。

框を組んだり、ハコモノを組んだりといった作業内容です。

私たちは、それらを構成するいくつもの部材の段階で可能な限りに完璧な仕様で作り上げ、これを一気に組み上げ、仕上げ段階へと進んでいきたいと考えるわけですが、しかし必ずしも、そのようにはいかないのが現実です。

組み上がってからも、余分なチリ(組んだ個所からはみ出してしまった部位)を払い(サスリ、などと呼びますが、所定の平滑な面に揃えるための切削工程の呼称です)、本来の仕様を満たすための工程は欠かせません。

あらかじめ、この仕様を満たそうと高精度な墨付けからはじまり、様々な加工における精度の追求を心がけるのですが、必ずしも完璧にはいかない事の方が多いのが、木という素材を用いる宿命です。
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