工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

栗の巨樹を愛でる(拭漆栗・書斎机の制作)その5

現場設置作業

年の瀬の12月29日の納品・設置という慌ただしい日程になってしまったのでしたが、全ては首尾良く進み、施主ご夫婦も大きな歓びですばらしい出来を称賛してくれたものでした。

天板だけで120kgほどもあり、運送屋のドライバー含め4名、そして加勢してやるわ、と手を差し延べてくださったのが施主ご自身含め、総勢5名体制での設置作業。(加え一人の記録員)

設置個所は、屋敷に繋がる蔵です。蔵とは言っても15坪ほどの床面積のあるところで、母屋から連続して繋がる部屋。

まず最初に、壁面に建てる大型の2連の書棚を搬入設置。
蔵の中へのアプローチということで、出入り口がかなり狭く、天井に届かんばかりの高さのある大きな書棚ですので、これらの搬入作業も大変なものでした。 

その後、デスクの天板を運び入れるわけですが、天板Topは厚めの合板で養生した状態のママに天地逆にして蔵内に搬入、仮置き。
そこに梱包材を外した脚部を持ち込み、施主を含め5人掛かりで静かに枘に落とし込んでいく。

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栗の巨樹を愛でる(拭漆栗・書斎机の制作)その4

拭漆

この大きなデスクですが、施主の要望が拭漆での仕上げということで承り、この条件を果たすのは木地の制作以上に困難なものと考えられました。

問題は大きくは2点あります。
まず何よりも大きすぎる、ということに尽きます。

脚部は接合前のパーツごとに塗れば良いので、2.6mの長さの桟が多いとは言えさほどの問題はありませんが、1m×3m(厚み65mm)という巨大な板への拭漆はやはり簡単ではありません。

ひっくり返すだけでも最低2人の力が必要となりますが、拭漆という繊細な塗面を傷付けずに、引っ繰り返すというのはひどく緊張を強いるものになります。

高品質な拭漆の工程ともなれば、最低でも10回以上は塗り重ねなければならないので、この度ごとにひっくろ返し、表裏をバランス良く塗っていくのが、湿度管理の面からも望ましい。
これを片方づつ塗っていく方法で、ひっくり返し作業を省略すると表裏の湿度バランスが悪化し、反っていくことにもなります。

2点目ですが、時期が11月ということで、漆の乾燥としては最悪の時期です。
ただ、真夏のよく乾く時期の場合、逆にこれだけ大きな板面では均質な塗装はとても難儀な作業ではありますので、考えようによっては、ムラになりにくいこの時期の方が良かったとも言えるのかも知れません。

拭漆を施さねばならない作業は後述するようにこのデスクの他、付随する抽斗のワゴンが3台あり、全体のボリュームとしてもなかなか大変な作業でした。

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栗の巨樹を愛でる(拭漆栗・書斎机の制作)その3

長手方向、3本の桟

上の桟は幅一杯に蟻桟が施されます。ここは上部が開放していますので、シンプルな蟻桟。

ただ、左右の脚部には天板の吸い付き蟻桟が落とし込まれてきますので、この吸い付き蟻桟にも上部の桟の蟻桟が効くように蟻枘を施します。(やっかいですが、強度確保のためには重要なポイント)

かなり厚めの後ろ脚ではあるものの、天板の吸い付き桟が納まる部位で、5枚組手のとような構造で、長手方向のアリ䙁が納まるところは少し薄いものになっており、これだけで2.6mの部材を支えるのは無理があるからです。
左右の脚部に穿った蟻枘と、ここに落とし込まれてくる天板への太い吸い付き桟の部材に穿った蟻枘の2つが、この長手方向の上桟を受け、堅牢な構造体となります。

この上部の蟻桟の下辺に穿った小穴から、デスク前面のパネルが垂れ下がる構造。
因みに、このパネルですが、天板を再製材する際の落としを用いました。
元々1m幅の材ですので、立派な追柾の木理が穫れ、2.6m長さの上下2枚で構成します。こんな材を新たに他で求めようとしても、たぶん、無理でしょう。

因みに、この2.6mの数本の桟を含め、脚部などのフリッチに近い厚板は別途、松井木材で調達。
いつもこんな難しい相談を快く受けて下さるのが松井さんですが、この度も、木取り表を渡し、ほぼその条件を満たす材を取り揃えてくれたものです。
次回に紹介させて頂く、このデスクのワゴンに供する栗材も同じく用意していただきました。

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栗の巨樹を愛でる(拭漆栗・書斎机の制作)その2

栗材の再製材(亀山木材さん、ありがとう!)

1m × 3mの天板

まず天板からいきましょう。

この大きくて厚い板ですが、含水率計を当てますと、15〜18%ほどを指し、ほぼ乾燥されていることが分かります。

そこで、問題の削りですが、幅は1mを越えますので、プレナーでの両面仕上げは無理。(1m以内であれば地域には1ヶ所、賃挽きしてくれる木工所があります)

シコシコと手で削るしかありません。
しかし反った状態の荒木からいきなり削るというのは余りにも無謀。

ここはやはり、この長大な木材に立ち向かうもっとも合理的と思われる方法、製材機に掛けることからスタートです。

以下、簡単にそのプロセスを。

  1. 長手方向の反りはほとんどなく、比較的平面が出た方を送材台車の定盤にあてがい、目的とする厚みに製材(結果、70mm近い厚みになった) これで、帯鋸の粗い目の状態ではあるものの、板全体としてはフラットな面を作ることができます。
  2. この平らになった面を引っ繰り返して定盤に当てがい、反対面の反っている部位をギリギリのラインで再製材し、平面を作ります。
    いわゆる木端は残してのナチュラルエッジの仕上げですので、ここに製材機の爪部分が食い込むことを避けるため、あらかじめ、爪が食い込むだろうという部位に別の木をあてがい、仮止めしておきます(かなりの重量物になるために、ボンド、木ねじ併用)
  3. 後は手鉋での削り。寸八、寸六長台などで削っていきます。
    固い樺材、楢材や、杢のあるケヤキ材などを削ってきた経験からすれば、栗材の削りはとても楽です。
    しかし、そうは申しても、1m×3mという長大なものであれば、決して簡単なものでもないです。
    しかもプレナー仕上げの高品位な板面では無く、帯鋸の踊る板面ですので、荒仕込、中仕込、仕上げと、数段階にわたる削り作業になります。
    またこれらの手鉋も何度も刃を研ぎ直し、ついには裏が切れ、裏押ししたりと、なかなか大変でした。
    手を真っ黒にしながら(タンニン成分の強い栗材ならではの生体反応)、老体にむち打っての厳しくとも、楽しい作業ではありました。
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栗の巨樹を愛でる(拭漆栗・書斎机の制作)

栗拭漆デスク

はじめに

2020年が明けました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今年の正月はチコちゃんに叱られてしまうほどに「ボ〜ッ」と生きていました。
やっとけだるい心身を奮い立たせ、再び工房に籠もる生活がスタートしています。

さて、2020年の第1弾は栗の巨木によるデスクの制作からです。
画像データも多いところから、数回にわたって紹介します。

私はこれまで栗材を積極的に用いるということはあまりなく、本格的には今回が数度目の制作機会でした。
用いた栗材が200年を越えるとも思われる高樹齢ですばらしい木理を備えたものであったこともおおいに貢献しているのは間違いないところですが、栗材の素晴らしさにあらためて刮目される思いがしたものです。

ではさっそくいきましょう。

今回の巨樹との出遭いですが、工房を訪ねて来られた初めての顧客、T氏が屋敷のリフォーム準備過程で探し求め、保有していたものです。

大きなお屋敷を構える実業家のT邸のオーナーですが、既に間口1間半ほどの大きな門の鏡板などに用いるなど、1m×4mを越える栗の大きなフリッチ材を保有されておられる方でした。

今回、お屋敷の大規模なリフォームに合わせ家具調度品の制作を考えられたようで、この主要なところを私に委ねてくださったのでした。

まずは、この1m×4mの重厚な板材を天板とする大物のデスクがメインとなります。

おかれるスペースの関係上、この大きな材を3mまでに切り縮めることとなったものの、それでも天板だけで100kgをはるかに越えるほどの重厚なものとなり、果たして私ひとりで制作できるものなのか?


幅1.1m × 長さ3.1m × 厚み65mm × 栗材の気乾比重:0.55(朝倉書店「木工」表Ⅱ-8、建築知識:木のデザイン図鑑、世界の木材200種・産調出版では0.44〜0.78、とされていますが、ここでは平均値とされている0.55を採用)=122kg

しかも、仕上げは拭漆という要求です。

2.3mの長さのワークベンチを大きくはみ出す栗材を削り上げた

こんな大きな材を乾かすムロなどあるはずもなく、拭漆を施すことの難儀さなども頭をよぎり、どうしたものかと悩んだことも確かでしたが、やるっきゃ無いでしょ!、ということで挑むことに。

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抱え込んでしまった山のような家具材

旧倉庫内

梅雨の頃から真夏に掛け、材木との格闘を余儀なくされ かなり疲れも溜まってていたのですが、このところの少し秋めいた大気に覆われ、心身ともに充実、再起動させ、若いViolinメーカーからの依頼による本格的なヨーロピアンタイプのワークベンチの制作を進めつつ、今年末の納品に向けた大きなボリュームの仕事の準備に入っているところです。

家具材の求め方

今日は抱え込んだ材木についてのお話しを少し。
家具材の調達方法は様々ですが、私は原木丸太を求め、これを様々な用途を想定しつつ、様々な厚みに製材し、土場での桟積みをしつつ天然乾燥を施す、というのを基本スタイルにしています。

そのためにはある程度の敷地に天然乾燥を施す土場を確保し、乾燥後の保管管理のための倉庫も必要になってきます。

個人の木工家にとっては、こうした整備は決して容易なものでは無いかも知れません。山間地であればともかくも、私のように東海道沿線の地方都市の街中では決して容易なものではありません。

その結果、原木丸太から準備することを諦め、その都度、市場から調達するという方法に依らざるを得ないことになります。

倉庫からゾロゾロ出てきた大きな板

この2つのどちらが良いのかという選択にあたっては、結局はどのような木工をしていくのかというスタイルに関わってくる問題ですので安易な答えは避けねばなりませんが、私にとっては訓練校在校時から丸太製材による材木確保を始めおり[1] 、その後もこのスタイルをかたくなに踏襲しつつこれまでやってきたところです。


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❖ 脚注
  1. 訓練校入学前、多少木工に携わっていたことで、木工家具の主材である材木の確保の重要性は大切であるという認識があったため。また周囲にはそうした情報を与えてくれる先輩らがいたという環境も。 []

コンベックス ホルダー

KOMERON コンベックスホルダー
KDS コンベックスホルダー

前回の〈腰袋〉の紹介画像に写り込んでいたコンベックス(テープメジャー)ですが、あれは〈KOMERON〉というブランドのものです。

コンベックスホルダー

巻き尺を引き出したところでセルフでロックが掛かるという優れものです。
15年ほど前から専ら使ってきているお気に入り。

一般のコンベックスでは引き出したところでボタンを押しロックされるという機構ですが、このKOMERONは逆。引き延ばしたところでセルフでロックが掛かり、位置が保持され、ボタンを押して解除収納、というユニークな機構を持ちます。
この利便性が供与されてしまうと、もう他のコンベックスには戻れません。

他にも、立ちが良い(上に垂直に引き延ばし、保持される性能)、グルリと耐衝撃のため保護ラバーが施されるなど、機構のユニークさだけでは無く、コンベックスに求められる品質は高いものがあります。
JIS 1級が取得されていることは言うまでもありません。

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木工屋のウェストポーチ(作業用腰袋)

Top画像は〈SK11 マルチポケット 角型 SMP-2〉という(作業用腰袋)

〈作業用腰袋〉ですが、職人にとっては、(たぶん)必須のものです。
市場には様々な腰袋があふれており、それぞれの職種、あるいは好みによって選択すれば構わないわけですが、意外とピタッとくるものは決して多くは無いようです。

ここ10年ほど使っている〈作業用腰袋〉がこれ。
経年劣化し、更新するたびに市場展開している他のものを探すものの、結局はここに落ち着くと言った感じです。

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ミズメのベンチ(続

手鉋での座繰り:ミズメ材
手鉋での座繰り:ミズメ材

座繰り

椅子の座刳りですが、数が多い場合は、うちではピンルーターで型板を使い彫り込んでいきますが、
こうしたベンチですと長尺であるため、それは難しい。
そこで、以下のようなプロセスを取りました

  1. 座板の外形を成形しておく
  2. 前脚、後脚、背部中央の脚、それぞれのホゾ成形
  3. 背当たりの束の丸ホゾ開口
  4. 座板への彫り込みの墨付け
  5. 型板作り:奥行きの最深部、つまり最も深い部分の彫り込みのための型板作り(型板A)
  6. 5、型板Aを基準として、手前部分までの彫り込みのためのジグのセットを作る(型板B)
  7. 型板Aを用いたピンルーターでの最深部の彫り込み
  8. 6、型板Bを用いたハンドルーターでの残りの彫り込み
  9. 手鉋仕上げ
  10. サンディング仕上げ
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ミズメのベンチ

制作までの経緯

ベンチは私の制作対象の中では決して多くはありませんが、それでも過去、10台近く作ってきているでしょうか。

今回制作したTop画像のものは同一意匠のものとしては2台目になります。
最初のものはWebサイトに掲載している(こちら)です。

このページにも書いたのですが、座板を円弧状にデザインし(ソラマメを長手方向に伸ばしたイメージ?)、これに合わせ、笠木も同じく円弧状に曲げているわけですが、この笠木は正面からも上部からも円弧状に成形され、その加工工程では大変苦労したものでした。

たぶん、もう2度と作りたくない意匠のものだと考えていたほどのものです。

ところが、これと同じものを作って欲しいとの依頼が飛び込み、いささか心中慌てました。
その理由には2つほどあります。

私としてはこのデザインは独立後 間もない時期の未熟なデザインということで、気恥ずかしさ満載なものであり、また前述の円弧状に加工する工程の難易度の問題がブレーキになります。

もし制作するのであれば、せめてディテールにおいて、あるいは全体的にもブラッシュアップさせた意匠で作りたいとの思いがあり、(こっそりと 苦笑)新たな設計プランを提示したのでした。

ところが、それらの作為はすべて見破られ、全く同じデザインでなきゃダメ、との厳しい注文。
その後何度かのやり取り、および現場見学などを経て、最終案へと絞り上げたものでした。
結果、大いに喜んでいただき、多くの汗も報われという次第。

顧客宅 名機タンノイが鎮座するリビングに納まったベンチ

上の画像は顧客のリビングに納まったベンチです。
タンノイのスピーカーでクラシックを聴くことが楽しみだと仰るN氏、このベンチが届くのを心待ちにしていたようでした。
遠方の方でしたが、制作途中の段階で工房にも見学に来られ、最終的な打合せを経て、完成に漕ぎ着けたものでしたので、愛着も十分のようです。

さて、以下、製作上のいくつかのポイントについて紹介します。

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